ミレイアの弟子
ミレイアが弟子のことを話したのは、秋雨の夜だった。
「あの子、強くなってる」
「十九歳の方ですか」
「そう。ルナという。毎日来て、毎日練習してる。私が強かったころよりずっと真面目だ」
カインは紅茶を持ってきた。
「教えることは楽しいですか」
「楽しいというより……勉強になる。自分が無意識にやっていたことを言語化しないといけないから」
「それは発見がありますか」
「毎日ある。昨日は足の運び方を教えようとして、自分が右足から入る理由を三十分考えた。結局、昔師匠
にそう教わったからだとわかった」
「師匠から受け取ったものを、今度は渡す側になったのですね」
「そうなると思う。でも……」
ミレイアはカップを両手で包んだ。
「でも、渡せてるかどうかわからない。ルナには、私の剣じゃなくて、ルナの剣を持ってほしい。私のコピーにはなってほしくない」
「難しいことを考えていますね」
「師匠から同じことを言われた。私が弟子だったとき。お前の剣を持てと。あのとき意味がよくわからなかった」
「今はわかりますか」
「少し。それぞれが、自分にしかできない動きを持つべきだということだと思う。だから強さには個性がある」
カインは黙って聞いていた。
「ルナは昨日、私に初めて一本取った。初めての一本。あの子、泣いてた」
「ミレイア様は」
「泣かなかった。でも、夜にここへ来たくなった」
カインは新しい紅茶を持ってきた。
「嬉しかったのではないですか」
「嬉しかった。本当に嬉しかった。でもそれと同時に、なんか……もう私より強くなるかもしれないと思って」
「それは嫌ですか」
「嫌じゃない。でも、なんか、説明できない感情があって」
「時間をかけて、説明できるようになるかもしれません」
「そうかな」
「自分が誰かを育てることの感情は、育てる前には想像できないものだと思います。ミレイア様はまだその途中だと思いますので」
ミレイアは紅茶を飲んだ。
「カイン、あなたは今、弟子を教えてるじゃないですか」
「エミリのことですか」
「そう。どんな感じですか」
カインは少し間を置いた。
「毎日、発見があります」
「それだけ?」
「……あとは、コーヒーを真剣に飲む顔が、見ていて良いと思います」
ミレイアは少し笑った。
「それ、私がルナの練習を見てるときと同じ気持ちかもしれない」
「そうかもしれません」
「じゃあ師匠というのは、みんな同じ気持ちになるのかな」
「どうでしょう。でも、似たところはあるかもしれません」
ミレイアは立ち上がった。
「また来ます。ルナが次の一本を取ったときに」
「それを楽しみにしています」
「楽しみにしてる、って、あなたが言うのは珍しい」
「たまには言います」
ミレイアは少し笑って、扉を出た。




