マッテオ、来店
クレインの元部下、マッテオが初めてSOLITAIREに来たのは、秋の晴れた日の昼過ぎだった。
二十三歳の騎士。巡回の途中で、路地に入ってみた。丸窓の光を、以前から気にしていた。
扉を開けて、看板を見た。お一人様専用。
中に入ると、カインが顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
マッテオは少し周囲を見回した。静かだった。
「一人でも入れますか」
「お一人様専用ですので」
「あ、そういうことか」
席に着いた。メニューを開いた。コーヒーを頼んだ。
コーヒーが来た。一口飲んだ。
「……うまい」
「ありがとうございます」
マッテオはきょろきょろと店内を見た。
「前から気になってたんですよ。この路地、巡回のルートなんで。でも、なんか入りにくくて」
「なぜですか」
「お一人様専用って書いてあるから、一人でここに来てるって、なんかそれ、寂しいみたいじゃないですか」
カインは少し間を置いた。
「一人でいることと、寂しいことは、別のことだと思いますが」
「そうですか?」
「お客様の多くは、一人でいたくてここに来ています。寂しいからではなく」
マッテオは少し考えた。
「じゃあ俺も……一人でいたかったのかな。今日」
「どうですか」
「団長が退役して、新しい団長になって。なんか、職場の空気が変わって」
「クレイン様のことですか」
マッテオは目を上げた。
「知ってるんですか」
「お客様のことは外に話しませんが、こちらから確認することもしておりませんので」
マッテオはしばらく考えてから、言った。
「……あの人のこと、怖かったです。ずっと。でも、退役式で泣いてしまって。なんで泣いたのか、自分でもよくわからなくて」
カインは静かに聞いた。
「怖い人がいなくなる寂しさと、慕っていた人がいなくなる寂しさは、同じ言葉でも違う感じがします。どちらでしたか」
マッテオはしばらく黙った。
「……両方だったかもしれないです」
「そうですね」
「あの人、今は何をしてるんですか」
「お客様のことはお話しできません」
「そうか……そうですよね」
マッテオはコーヒーを飲んだ。
「でも、元気でいてほしいな。あの人らしくやってれば、それでいい」
カインは何も言わなかった。
でも、クレインが孤児院で子供たちに剣を教えている話を、心の中で思った。
元気でいる。それ以上に、元気でいる。
マッテオは代金を払って立ち上がった。
「また来ます。次の巡回のときに」
「お待ちしております」
マッテオが出ていった後、カインは少し考えた。
師を思う弟子と、弟子を思う師が、同じ空気を吸ったことがある場所。
それがSOLITAIREだとしたら、それはこの店の大切な部分だと思った。




