貿易商の孤独
エドワードが三度目にSOLITAIREに来たのは、秋雨の午後だった。
いつものように紅茶を頼んで、書類を開いた。しかし今日は、ペンがあまり動かなかった。
一時間ほどして、エドワードは書類を閉じた。
「カインさん、少し聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「私は今、三つの商会を持っています。百人以上が私のもとで働いています。商売は順調です」
「はい」
「でも、先日、古い友人に会って、その友人が言ったんです。『お前は変わった』と」
「どのように変わったと言われましたか」
エドワードは少し間を置いた。
「昔は楽しそうだったと。今は成功しているが、楽しそうではないと」
カインは黙って聞いていた。
「腹が立ちました。成功してどこが悪いと。でも、帰ってから考えたら、あの男は間違っていないかもしれないと思って」
「昔と今で、何が違うと思いますか」
「昔は、失敗するかどうかわからなかった。一つの商会を始めたとき、うまくいくかどうか、本当に毎日怖かった。でもその怖さの中に、何かわくわくするものもあった」
「今は怖くない」
「ほとんど。規模が大きくなると、判断の精度が上がりますから。でも……そうか、だから楽しくなくなったのかもしれない」
カインは紅茶のおかわりを持ってきた。
「怖いことと楽しいことが、同じ場所にあったのですね」
「そうかもしれない。冒険と恐怖が一緒になっていた。今は安全になりすぎた」
「それは成功の代償とも言えますが、問題にしたいとも思われているのですか」
エドワードは少し考えた。
「……したいかどうか、わかりません。ただ、友人にそう言われて、何かが引っかかった」
「引っかかったということは、大切なことだと思います」
「何かをしなければということでしょうか」
「そうではなく、引っかかりを感じられる自分がいるということが、大切だということです」
エドワードはそれを聞いて、しばらく紅茶を見た。
「……あなたは、商売の相談相手としても優秀ですね」
「そのようなつもりはありませんでしたが」
「でも、気持ちの整理をする場所として、ここは良い」
「ありがとうございます」
エドワードは書類を鞄にしまった。
「来週も来ます。今度は書類を持ってこないことにします」
「それもまた、変化ですね」
エドワードは少し笑った。
「そうかもしれません」
雨の中、傘を開いて路地を歩いていくエドワードの背中を、カインは丸窓越しに見送った。
成功した人間の孤独は、失敗した人間の孤独とは違う形をしている。
でも、どちらも、ここに来る理由としては十分だと、カインは思った。




