エミリのコーヒー
エミリがSOLITAIREで初めてコーヒーを淹れたのは、来て二週目の月曜だった。
カインは隣に立って、何も言わずに見ていた。
エミリは豆を量った。挽いた。お湯を沸かした。ドリッパーを濡らした。粉を入れた。
最初の一投。円を描くように。
「……ゆっくり、でしたよね」
「はい」
二投目。三投目。
湯がゆっくりと粉に染み込んでいく。カップにコーヒーが落ちていく。
出来上がった。
エミリはカップをカインに差し出した。
カインは一口飲んだ。
「どうですか」とエミリが聞いた。声が少し緊張していた。
カインは少し間を置いた。
「悪くない」
「悪くない、ということは、まだ足りないということですか」
「はい。でも、最初の一杯としては十分です」
エミリはほっとした顔をした。
「どこが足りませんか」
「二投目が少し速かった。最初の粉が十分に膨らむ前に次を注いでしまった。膨らんでいる間に、コーヒーの成分が水に移っていくので、そこを急ぐと薄くなります」
「次はゆっくりやります」
「もう一杯淹れますか」
「淹れます」
エミリはもう一度、豆を量った。
二杯目は、少し落ち着いていた。二投目をゆっくり待った。膨らみが収まるのを見てから注いだ。
出来上がった。
カインが飲んだ。
「さっきより良いです」
エミリは小さくガッツを握った。
「嬉しい」
「ただ、今度は三投目が多すぎた。量が増えると薄まります」
「む……難しい」
「コーヒーを淹れることは、調整の連続です。毎日少しずつ変わります」
「毎日変わるんですか」
「豆の状態、湿度、お湯の温度、その日の自分の集中具合。全部が影響します」
エミリは腕を組んで考えた。
「それって、完璧な一杯というのはないということですか」
「今日のベスト、ということになります」
「今日のベスト……」
エミリはドリッパーを洗いながら、それを繰り返した。
「なんかそれ、人間みたいですね。毎日少しずつ違う」
カインは少し間を置いた。
「そうかもしれません」
その日、開店後にアレンが来た。
カインは「今日はエミリに淹れさせていいですか」とアレンに聞いた。
アレンは少し驚いた顔をしたが、「かまわない」と言った。
エミリは緊張しながらコーヒーを淹れた。
アレンに出した。
アレンが飲んだ。
「……美味いな」
エミリは真っ赤な顔をした。
「ありがとうございます!」
アレンはカインを見た。
「弟子か」
「そうです」
「お前に似てきたら困るな。無愛想な店になる」
「私は無愛想ではありません」
「そうか」
アレンはコーヒーを飲んだ。
エミリはカウンターの端で、ノートに「今日のベスト」と書いた。




