ドルトン老司祭の午後
ドルトン老司祭が二度目にSOLITAIREに来たのは、夏の暑い午後だった。
七十二歳の老人には少し歩くのが大変な時間帯だったが、それでも来た。
「また来ました」
「ようこそ。紅茶でよろしいですか」
「いや、今日は冷たいものがあれば」
「冷たいハーブティーをご用意できます」
「それを」
冷たいハーブティーが来た。老人は一口飲んで、目を細めた。
「……涼しい」
「ありがとうございます」
しばらくして、老人は言った。
「ドグマという魔族の男を知っていますか」
「はい。当店のお客様です」
「あなたが紹介してくださったようで。彼が言っていました」
「そうでしたか」
「あの男と話しました。長い話でした。彼は、魔王軍にいたことを後悔しているとは言わなかった。ただ、もう戦いたくないと言っていた」
カインは聞いていた。
「それを聞いて、私は困りました。後悔していないということを、どう受け取ればいいのかと」
「どう受け取りましたか」
老人は少し間を置いた。
「……人間も、正しいことばかりしているわけではない。それでも生きていく。それと同じことだと、最終的には思いました」
「それは良い受け取り方だと思います」
「あなたはそう思いますか」
「はい。過去を悔いることと、前に進むことは、必ずしも同時にできるとは限らない。前に進むことを選んだ人間を、否定する必要はないと思います」
老人は冷たいハーブティーを飲んだ。
「私は神殿にいるから、どうしても善悪で考えてしまう癖がある」
「それは悪いことではないと思いますが」
「でも、善悪で測れないものが、世の中には多い。それをあなたと話して、少し思い出した気がします」
「私と話して、ですか」
「以前来たとき、祈りが届かないかもしれないと言ったときに、あなたが言ったこと。届かないかもしれないと思いながら続けることも一つの形だと」
「はい」
「あれからずっと考えていました。届くかどうかではなく、続けることそのものに意味があるのかもしれないと」
カインは静かに言った。
「それは、私が言ったことよりも、深い考えだと思います」
老人は少し笑った。
「いいえ、あなたの言葉があったから考えられたのです」
「それであれば、光栄です」
老人はハーブティーを飲み終えた。
「また来ます。今度は涼しくなってから」
「お待ちしております」
老人は杖をついて、ゆっくりと立ち上がった。
扉を開けるとき、振り返って言った。
「あなたは、良い仕事をしています」
カインは一拍置いた。
「ありがとうございます」
老人は夏の光の中へ、ゆっくりと歩いて行った。




