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王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


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35/45

カインに弟子入り志願

 その日の午後、SOLITAIREに見慣れない少女が来た。


 十五歳ほど。商人の子供のような服を着ていて、紙とペンを持っていた。


「あの、コーヒーを一つと、お話を聞いてほしいんですけど」

「コーヒーはお出しできますが、話を聞くことについては、どのようなことでしょうか」


 少女は少し緊張しながら言った。


「私、将来、こういうお店をやりたいんです。それで、カインさんに弟子入りしたくて」


 カインは少し間を置いた。


「弟子入り、というのは」

「住み込みで働かせてください。コーヒーの淹れ方とか、お客様の話の聞き方とか、全部教えていただきたくて」

「お名前は」

「エミリ・ハートです。父が商人で、でも私は物を売る仕事より、人の話を聞く仕事がしたくて……このお

店のことを聞いて、ここだと思って来ました」


 カインはコーヒーを一杯持ってきた。エミリは受け取って、一口飲んだ。


「……美味しい」

「ありがとうございます」

「こういうのを淹れられるようになりたいんです」


 カインはカウンターに戻って、少し考えた。


「一つ聞いてもいいですか」

「はい」

「なぜ、人の話を聞く仕事がしたいのですか」


 エミリは少し間を置いた。


「お母さんが、去年死んで。病気で。最後の三ヶ月、ずっとそばにいたんですけど、お母さんが一番喜んでたのは、ただ話を聞いてもらうことだったんです。誰かがそこにいて、聞いてくれることが、一番嬉しかったみたいで」


 カインは黙って聞いていた。


「私には、何もできなかった。助けることも、治すことも。でも、聞くことだけはできた。それが、誰かの役に立てる仕事だと思ったんです」


 カインはしばらく沈黙した。


 それから言った。


「住み込みは難しいですが、週に三日、午後に来てコーヒーの淹れ方を教えることはできます」


 エミリは目を見開いた。


「本当ですか」

「ただし、条件があります」

「はい」

「ここに来る客のことは、一切外で話さないこと。見たこと聞いたことは、すべてここの中だけのことにすること」

「わかりました」

「それが守れるなら、来てください」


 エミリはしばらく、コーヒーを見た。


「……カインさんはなぜ、私に教えてくれるんですか」


 カインは少し考えてから答えた。


「あなたが話してくれた理由が、私がこの店をやっている理由に、少し似ていたからです」

 

 エミリは目が赤くなった。でも泣かなかった。


「来週から来ます」

「お待ちしています」


 エミリは立ち上がって、扉を開けた。


 振り返って、もう一度だけ言った。

「コーヒー、本当に美味しかったです」

「ありがとうございます」


 その夜、カインは一人でカウンターに立ちながら、少し遠くを見るような目をしていた。


 弟子、という言葉を、初めて受け取った夜だった。

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