英雄の相談室
アレンが「仕事がつらい」と言ったのは、夏のある夜だった。
「ギルドの相談役を始めて三ヶ月になる」
「はい」
「若い冒険者の話を聞いている。毎日誰かが来る。依頼が失敗した話、仲間と揉めた話、方向性がわからなくなった話」
「それは大変ですね」
「大変というか……俺の話と重なることが多くて」
コーヒーを飲みながら、アレンは続けた。
「昨日、十八歳の男の子が来た。勇者パーティの見習いなんだが、実力が足りなくて、仲間についていけないと言っていた。泣いていた」
「どんなことを伝えましたか」
「俺が魔王討伐のとき、仲間についていけなかった話をした。最初の一年間は、みんなの荷物持ちみたいな
役割で、何度も逃げようと思ったと」
「その話は、してもいいと思ったのですか」
「……わからない。でも、あの子には必要だと思った。英雄の失敗談の方が、慰めより届く気がした」
カインは黙って聞いていた。
「でも話した後、俺は何時間も動けなかった。自分の話をするのが、こんなにしんどいと思わなかった」
「それは、その子のために消費したのだと思います」
「消費?」
「自分の傷のある場所を、誰かのために開けることは、それなりの力が要ります。アレン様はそれをされた」
アレンはしばらく黙った。
「……俺は、英雄らしいことが何一つできていないと思っていた。相談役なんて、戦いでも冒険でもないし」
「でも、今日話してくださったことは、戦いにも冒険にも劣らないことだと思います」
「大袈裟だろ」
「私はそう思います」
アレンはコーヒーを飲んだ。
「カイン、お前も同じことをしてるんじゃないのか。客の話を聞いて、必要なことだけ言って。消費してるだろ」
カインは少し間を置いた。
「しているかもしれません」
「しんどくないか」
「コーヒーを飲むと、少し回復します」
アレンは笑った。
「それで回復できるのか」
「今のところは」
「俺はここに来ると回復できる。じゃあここが、俺にとってのコーヒーか」
「そうかもしれません」
アレンはカップを見た。
「じゃあ、お前にとっての『ここ』は何だ」
カインはしばらく考えた。
「お客様が帰るときの顔です」
「帰るときの顔?」
「来たときと、帰るときで、少し顔が変わります。その瞬間が、私にとって、コーヒーのようなものかもしれません」
アレンは、それを聞いて少し黙った。
「……お前、実はいいやつだな」
「ありがとうございます」
「褒めているつもりだったが、あなたには届かないな」
「届いています。表情に出ていないだけです」
アレンはまた笑って、コーヒーを飲み干した。




