シルヴィアの花屋
「花を持ってきました」
シルヴィアが来たのは、久しぶりだった。
深夜ではなく、夕方に来たことも珍しかった。そして、本当に花を持ってきた。小さな束だった。白と薄紫の混ざった、清楚な花。
「お店に、良ければ」
カインは受け取った。
「ありがとうございます。飾らせていただきます」
「うちの花屋で育てたやつ。余ったから」
「余った分を持ってきてくださったのですか」
「……まあ、そんな感じで」
シルヴィアはいつもの奥の席に座った。でも今日はコーヒーではなく、「ハーブティーを」と言った。以前、カインが出したラベンダーのものが、記憶に残っていた。
「花屋の仕事は、どうですか」
「思ったより向いてた。手先は器用だし、客と深く関わらなくていいし」
「それは良かったです」
「でも最近、常連客ができてきた。毎週来るおじいさんとか、誕生日に必ず花を買う若い男の子とか。そういうの、悪くないなと思い始めた」
「変わりましたね」
シルヴィアは少し眉を上げた。
「そんなに変わった?」
「以前は、常連客ができることを警戒されていたと思います」
「……まあ、そうかもしれない」
ハーブティーが来た。シルヴィアは一口飲んだ。
「ドグマのやつ、荷物運びを手伝ってくれてる。あいつ、力が強いから助かる」
「仲良くなりましたか」
「仲良いかどうかはわからない。でも、悪い奴じゃない。寡黙だし、余計なことを言わないし」
「私に似ていますね」とカインが言った。
シルヴィアは一瞬止まって、それから吹き出した。
「……あなたが自分でそれを言うとは思わなかった」
「客観的にそう思いました」
「まあ、確かに。二人とも、聞いてはくれるけど余計なことを言わない。居心地はいい」
シルヴィアは花の残り香をかぐように、少し鼻を立てた。
「花って、不思議だと思う。言葉もないのに、場所を変える。ここも、花があると少し違う」
カインは窓際に置いた花束を見た。白と薄紫が、夕暮れの光の中で静かに揺れていた。
「そうですね。いつもより、少し明るい気がします」
「来週も持ってきていいですか」
「ぜひ」
シルヴィアはハーブティーを飲み終えた。
「あと、一個聞いていいですか」
「どうぞ」
「この店、将来どうするつもりですか。ずっと続けますか」
カインは少し間を置いた。
「続けたいと思っています。できる限り」
「良かった」
「なぜですか」
「なくなったら、困る人間が何人かいるから」
シルヴィアは立ち上がって、扉を開けた。夕方の光が路地に満ちていた。
振り返らずに言った。
「また来週」
「お待ちしております」
その夜、SOLITAIREには白と薄紫の花が飾られていた。
常連たちは、いつもより少しだけ花に目を向けた。
誰も何も言わなかったが、みんな気づいていた。




