夏の新顔
七月の初め、SOLITAIREに二人の新しい客が来た。別々の日に、別々の理由で。
一人目は、王立病院の医師、セラ・ミランという三十歳の女性だった。
茶色い髪を後ろに束ねて、白衣の上から薄い上着を羽織っていた。仕事帰りらしく、目の下にうっすらと疲労の色があった。
「コーヒーを。できれば濃いめで」
「かしこまりました」
コーヒーが来た。セラは一口飲んで、目を閉じた。
「……今日、患者が一人、亡くなりました」
カインは何も言わなかった。
「手を尽くした。でも助けられなかった。それが……今夜はどうしても、一人でいたかった」
「ここにいてください」
セラは少し驚いた顔をした。
「それだけですか」
「それだけです」
セラはコーヒーを飲んだ。苦かった。その苦さが、今夜は正しく感じた。
「誰かに慰められると、逆につらくなる夜がある」
「そうですね」
「でも一人でいると、ぐるぐる考えてしまう」
「ここにいれば、ぐるぐるしながらも、コーヒーを飲んでいられます」
セラはそれを聞いて、少し笑った。
「……そういう言い方をするんですね」
「他に言い方が見つからなかったので」
一時間後、セラは代金を払って出た。
「また来ます。こういう夜に」
「お待ちしております」
二人目は、三日後に来た。
四十代の男で、貿易商のエドワードといった。王都でも指折りの成功者で、三つの商会を束ねている。
しかし今日は一人で、質素な服を着て、路地を歩いていた。
「……一人でも入れますか」
「お一人様専用ですので」
「ああ、そうか。では入ります」
エドワードは席に着いて、紅茶を頼んだ。それから、カバンから分厚い書類の束を出した。
「仕事をしていいですか」
「どうぞ」
エドワードは書類に目を通し始めた。ペンを走らせ、数字を確認し、何かを書き込む。集中した顔だった。
一時間ほどして、エドワードは書類を閉じた。
「……ここは静かですね」
「ありがとうございます」
「私の屋敷も静かですが、違う種類の静かさだ。屋敷の静かさは、気を遣われている静かさです。ここは、本当の静かさだ」
カインは紅茶のおかわりを持ってきた。
「気を遣われることが多いですか」
「常にです。成功した人間の周りには、機嫌を損ねまいとする人間が集まります。それはありがたいことだが、疲れる」
「そうですね」
「ここでは誰もそうしていない」
「仕事柄、そういうことに気を使う余裕がないので」
エドワードは少し笑った。
「謙遜が上手い」
「本当のことですが」
エドワードは紅茶を飲んで、立ち上がった。
「来週も来ていいですか。木曜の午後に」
「お待ちしております」
新しい顔が二つ増えた夏の始まりに、カインはいつものようにカップを洗った。
変わらないことと、変わっていくことが、静かに混ざり合う夏だった。




