表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/44

騎士団長の最後の報告

 クレインが退役の日にSOLITAIREに来たのは、夕方のことだった。


 いつもと違った。鎧を着ていなかった。灰色のシャツと、旅人のような上着。剣も下げていない。五十一年間、常に何かを身につけていた男が、今日は何も持っていなかった。

 

 扉を開けて、席に着いた。


「コーヒーを」

「かしこまりました」


 コーヒーが来た。クレインは一口飲んだ。


「今日で退役した」

「はい」

「三十年間、騎士団にいた」

「そうですか」

「今日、マッテオが見送りに来た。あの若い騎士だ。以前、路地の入り口で鉢合わせた」

「覚えています」


 クレインはカップを両手で包んだ。


「見送りで泣かれた。恥ずかしかった。団長が泣かせてどうすると思ったが……まあ、悪くはなかった」

「それは良かったですね」

「マッテオも、そのうちここに来るかもしれん」

「お待ちしております」


 クレインはしばらく窓の外を見た。夕暮れの光が石畳に落ちていた。


「これから何をするか、決めていないと言っていたな。以前」

「はい、おっしゃっていました」

「決めた」

「何をされるのですか」


 クレインは少し間を置いてから、どこか気恥ずかしそうに言った。


「孤児院で、子供たちに剣術を教えようと思っている」


 カインは静かに言った。


「それは良いことだと思います」

「役に立てるかどうかはわからん。だが、剣しか知らん人間が、剣以外で何かをするには、剣を使うしかないと思った」

「自分の持っているものを、誰かのために使う。それは立派なことです」


 クレインは少し眉を上げた。


「立派などという言葉を、あなたから聞くとは思わなかった」

「たまには言います」

 

 クレインは低く笑った。


「……そうか」


 コーヒーを飲み干して、クレインは立ち上がった。


「また来る。今度は何も急かされることなく、ゆっくり来られる」

「お待ちしております」

「昼間に来るのは初めてだな」

「いつでもどうぞ」


 クレインは扉を開けた。夕暮れの光の中に、背筋の伸びた大きな影が伸びた。

 

 騎士団長ではなくなった男は、路地を歩いて行った。


 その歩き方は、鎧を着ていたときと変わらなかった。


 でも、どこか、軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ