王女と縁談の続き
エルナが次にSOLITAIREに来たのは、縁談の返事をした翌日だった。
「断りました」
扉を開けるなり言った。
カインは静かに言った。
「そうですか。紅茶をお持ちします」
「ください」
エルナは席に着いた。いつもより表情が晴れていた。
「父はかなり怒っていました。外交的な意味があったから。でも私、ちゃんと話しました。あの人とは結婚したくないと。理由も説明しました」
「お父上は聞いてくださいましたか」
「最終的には。すぐには無理でしたが、三日かけて話しました」
紅茶が来た。エルナは一口飲んだ。
「ここに来てから、少し変わった気がします、私」
「どのように」
「前は、嫌なことがあっても、まあいいか、と思っていた。王族だから仕方ない、と。でも最近、仕方なくないことと仕方ないことを、ちゃんと分けて考えるようになった」
「それは良い変化だと思います」
「ここのせいだと思う」
「ここが何かをしたわけではないと思いますが」
「でも、ここに来ると、自分のことを考えられる。誰にも邪魔されずに」
エルナはカップを置いた。
「王族って、一人でいられる時間が少ないんです。常に誰かがいて、常に何かを求められる。一人になれる場所が、本当にない」
「それは大変ですね」
「カインは、一人でいる時間、好きですか」
「好きです」
「羨ましい」
カインは少し間を置いた。
「エルナ様は、ここにいる間は一人でいられますか」
エルナはしばらく考えた。
「……そうですね。ここにいる間は、不思議と一人でいられる気がします」
「それであれば、ここが少しはお役に立てているかもしれません」
エルナは笑った。
「もっと大袈裟に喜んでもいいのに」
「性格上、難しいです」
「知ってる」
エルナは紅茶を飲み終えて、本を取り出した。今日は長居するつもりらしい。
カインはそれを見て、新しい紅茶をポットごと持ってきた。
「長くなりそうだと思いまして」
「ありがとう。気が利く」
「それが仕事ですので」
エルナは本を開いた。
窓の外に春の光が差し込んでいた。
王女は、王都の片隅の小さなカフェで、誰にも邪魔されずに、ただ本を読んだ。
それが今日の彼女には、何より大切なことだった。




