カインが休んだ日
その日、SOLITAIREは閉まっていた。
扉に小さな紙が貼ってあった。
「本日は臨時休業いたします。ご不便をおかけして申し訳ありません。 カイン」
アレンは扉の前で立ち止まり、紙を読んで、少し間を置いてから路地を戻った。
ミレイアも同じように来て、同じように紙を読んで、「そういうこともあるか」と呟いて戻った。
ゼファーは木曜だったので来て、紙を見て、「健康的なことだ」と言って大通りの別の店へ向かった。
夕方、シルヴィアが来た。扉の紙を見て、少しだけ眉を寄せた。それから、路地の角で立ち止まった。
「……まあ、そういうこともある」
呟いて、踵を返した。
翌日、カインはいつも通り店を開けた。
アレンが午前中に来た。
「昨日、休んでたな」
「ご不便をおかけしました」
「いや、別に。どこか悪かったのか」
「少し疲れていました」
アレンは少し驚いた顔をした。
「……あなたが疲れることもあるのか」
「人間ですので」
アレンは笑った。
「そうだな」
コーヒーを飲みながら、アレンは言った。
「俺は最初、あなたのことを人間じゃないと思ってた」
「人間ではないように見えましたか」
「感情がないみたいで。疲れないし、怒らないし、困った顔もしないし」
「感情はあります。ただ、出すのが得意ではないので」
「なんで得意じゃないんだ」
カインは少し間を置いた。
「昔の仕事上、顔に出すと不都合なことが多かったので。癖になっています」
アレンはそれを聞いて、カインを見た。
「……その昔の仕事、聞いていいか」
「今は、聞かれても答えられる範囲が少ないです」
「そうか」アレンはコーヒーを飲んだ。「まあ、いい。俺も人に聞かれたくないことはあるから」
「ありがとうございます」
「でも、一個だけ聞いていいか」
「はい」
「こういう店、やってて、良かったと思うか」
カインは少し考えた。
「はい。思います」
「なんで」
「お客様がここに来て、帰るとき、少し違う顔をしているから。それを見るのが、好きです」
アレンは少し黙った。
「……俺も、たぶんそうなってる」
「はい。アレン様はかなり変わりました」
「そうか」
「最初に来たときは、肩が耳の横にあるくらい上がっていました」
アレンは思わず自分の肩を触った。今は普通の位置にあった。
「……知らなかった」
「自分のことは見えにくいですから」
アレンはコーヒーを飲み干した。
「また明日来る」
「お待ちしております」
アレンが出ていった後、カインは一人でカウンターに立った。
昨日は一日中、一人で部屋にいた。
何もしなかった。ただ、窓の外を見ていた。
それが、カインにとっての休息だった。
今日からまた、ここにいる。
それで十分だった。




