表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/46

元傭兵と黒馬の話

 タリアが二度目にSOLITAIREに来たのは、初めて来てから二ヶ月後だった。


 前回と同じ席に座って、コーヒーを頼んだ。


「覚えてますか。前に来たことがある」

「はい。タリア様ですね」

「覚えてた」

「お客様のことは覚えております」


 タリアはコーヒーを一口飲んだ。前と同じ味だった。変わらない味は、なんとなく安心する。


「馬のことを思い出したくて来た」

「はい」

「前に来たとき、相棒の黒馬が死んだって言いましたよね。あのとき何も言わなかったけど、ちゃんと聞いてくれてたの、わかってた」

「そうですか」

「今日は、話したい気分になったから」

「どうぞ」


 タリアはコーヒーカップをテーブルに置いた。


「ノワールっていう名前の馬だった。真っ黒で、気性が荒くて、最初は全然懐かなかった。傭兵の仕事を始めて二年目に手に入れて、そこから十一年、ずっと一緒だった」


 カインは聞いていた。


「戦場でも逃げない馬だった。普通の馬は戦場の音で錯乱するけど、ノワールは慣れてた。俺が怖がってるときも、あいつは平気な顔してた。それが頼もしかった」

「良い馬だったんですね」

「最高の相棒だった。馬なのに、なんか、友達みたいだった」


 タリアは窓の外を見た。


「死ぬ前の一週間、ずっと傍にいた。仕事を断って、ずっと馬小屋にいた。仲間には笑われたけど、どうでもよかった」

「後悔はありませんか」

「ない。それだけはない」

「それは良かったですね」


 タリアはカインを見た。


「……あなた、共感とか同情とかしないね」

「しようとすると、嘘になりそうなので」

「嘘?」

「私はノワールさんを知りません。タリア様がどれほど大切にされていたかも、直接にはわかりません。だから、わかります、と言うのは正確ではないと思っています」


 タリアは少し考えた。


「……その方が、正直でいいな」

「ありがとうございます」

「でも」とタリアは続けた。「あなた、ちゃんと聞いてくれてる感じはする。なんでだろ」


 カインは少し間を置いた。


「話す言葉がなくても、聞くことはできます」


 タリアはそれを反芻した。


 話す言葉がなくても、聞くことはできる。


「……うまいこと言うね」

「そういうつもりではなかったのですが」


 タリアはコーヒーを飲み干した。

「また来ます。来月も」

「お待ちしております」

「次来たら、ノワールの若い頃の話をしてもいいですか。面白い話がいっぱいある」

「ぜひ聞かせてください」


 タリアは立ち上がった。


 扉を開けて出ていく背中は、前より少しだけ軽かった。


 カインはカップを下げながら、話す言葉がなくても聞くことができる、という自分の言葉を思い返した。


 それは誰かに教わった言葉ではなかった。


 ただ、いつからか、そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ