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王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


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20/45

新しい客と古い常連

 春の気配が路地に漂い始めた頃、SOLITAIREに見慣れない客が来た。

 

 二十二歳ほどの青年で、冒険者ギルドの見習いバッジをつけていた。名前はトール。田舎から王都に出てきて三ヶ月、まだ一度もまともな依頼をこなせていない。


 扉を開けて中を見回し、少し戸惑った顔をした。


「あの……一人なんですけど、入っていいですか」

「もちろんです。お一人様専用ですので」

「あ、そういう意味の看板か」


 トールは窓際の席に座った。メニューを手に取って、値段を見て、少し安堵した表情をした。懐が寂しいらしい。


「コーヒー、一つ」

「かしこまりました」


 コーヒーが来た。トールは一口飲んで、少し目を見開いた。


「……うまい」

「ありがとうございます」


 トールはきょろきょろと店内を見回した。仕切りで区切られた席、静かな照明、低く流れる音楽。


「なんか、変わった店ですね」

「そうですか」

「でも……落ち着く。なんか」

「それは良かったです」


 トールはコーヒーを飲みながら、しばらく黙っていた。それから、少しだけ話し始めた。


「俺、王都に来て三ヶ月なんですけど、全然うまくいかなくて。依頼は失敗するし、パーティには入れてもらえないし、宿代も正直きつくて」


 カインは聞いていた。


「友達もいないし、相談できる人もいないし……なんか今日、もう帰ろうかなって思って路地を歩いてたら、ここが見えて」

「故郷に帰ることを考えているのですか」

「……半分くらい」


 カインはコーヒーのおかわりを持ってきた。トールは少し驚いた顔をしたが、受け取った。


「一つだけ聞いてもいいですか」とカインが言った。

「はい」

「王都に来たのは、何かやりたいことがあったからですか」


 トールは少し間を置いた。


「……強くなりたかった。田舎じゃできないことを、王都でやってみたかった」

「三ヶ月で、それは変わりましたか」

「変わってない、です。でも、うまくいってないけど、やりたいことは変わってない」


 カインは静かに言った。


「では、もう少しいてみてはどうでしょう」


 トールはカインを見た。


「……それだけですか」

「それだけです」


 トールは笑った。笑ったのは久しぶりな気がした。


「なんか、あっさりしてますね」

「複雑なことを言う必要がないので」


 その日の夕方、アレンが来た。奥の席に座ってコーヒーを頼んだ。


 仕切りの向こうで、若い声がぼそぼそと何かを言っているのが聞こえた。気にしなかった。


 でも、帰り際、アレンはふとカインに聞いた。


「新しい客か」

「そうです」

「若いな」

「はい」


 アレンは少し考えてから言った。


「……俺が初めて来たときも、こんな感じだったか」

「少し似ていたかもしれません」


 アレンは小さく笑って、扉を出た。


 路地を歩きながら、少し前の自分のことを思った。


 あのとき自分もこんな顔をして、路地を歩いていたのだろうか。


 思い出せなかったが、今よりはずっと重かった気がした。

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