冬の夜、常連たちのいる店
十二月の最後の木曜日。
SOLITAIREは、その夜なぜか常連が重なった。
アレンが来た。ミレイアが来た。ゼファーが来た。クレインが来た。リュートが来た。
六席のうち五席が埋まった。
互いに顔を知っている者も、知らない者も、誰も声をかけなかった。それぞれの仕切りの中で、それぞれの飲み物を飲んでいた。
カインはいつものように動いていた。コーヒーを淹れ、紅茶を出し、おかわりを静かに置く。
店内にはリュートの低い弦の音が流れていた。今夜は少し明るめの旋律を選んでいた。冬の終わりを予感させるような曲だった。
アレンは本を読みながら、コーヒーを飲んでいた。最近は夢を見る回数が減った。それをカインに言ったことはないが、カインは気づいていた。注文の声が、最初の頃より少しだけ柔らかくなっていた。
ミレイアは目を閉じて、紅茶を飲んでいた。来週また試合がある。でも今夜は、そのことを考えていなかった。ただ、温かい紅茶の味を感じていた。
ゼファーは原稿用紙を広げていた。新しい魔法理論の本は、三分の二まで書き終えた。献辞のページに、「ある喫茶店の店主に」と書こうかと思っているが、まだ決めていない。
クレインは目を開けたまま、何も考えていなかった。五十一年間生きてきて、何も考えない時間がこれほど心地よいとは思っていなかった。
リュートは弾きながら、客の様子を横目で見ていた。詩人として、こういう場面を歌にしたいと思った。英雄の話でも、戦いの話でもなく、ただ冬の夜に、それぞれの一人が集まっている、そういう歌を。
閉店の時間が近づいた頃、カインは静かに言った。
「そろそろ閉店のお時間です。ご都合のよろしい方はお会計をお願いします」
常連たちは、それぞれのペースで立ち上がった。
アレンが最初に払って出た。「また明日」と言った。
「お待ちしております」とカインが答えた。
ミレイアが次に出た。「試合、終わったら来る」と言った。
「結果より先に来てください」とカインが言った。ミレイアは少し笑った。
ゼファーが出た。「本ができたらお渡しします」と言った。
「楽しみにしています」とカインが答えた。
クレインが出た。何も言わなかった。でも、扉を出る前に一度だけ頷いた。カインも頷いた。
リュートが最後に出た。リュートをケースに入れながら言った。
「今夜の曲、あの人たちのために書こうかな」
「良いと思います」
「名前は出さないけど」
「それで十分です」
リュートが路地に消えた。
カインは閉店作業を始めた。椅子を上げ、床を拭き、カップを洗う。
一人でやる作業は静かで、好きだった。
窓の外では、王都の冬の夜が広がっていた。星が出ていた。寒そうだったが、澄んでいた。
カインはランプを一つ一つ消しながら、今夜のことを思った。
誰も特別なことは言わなかった。誰も泣かなかった。誰も大きな悩みを打ち明けなかった。
ただ、それぞれが、それぞれの冬の夜を、ここで過ごした。
それで十分だと、カインは思っていた。
いつものように、扉に鍵をかけた。
丸窓の灯りを消した。
路地に、静かな冬の夜が戻った。
SOLITAIREは、今夜も確かにそこにあった。
明日も、ここにある。




