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王都のお一人様カフェ SOLITAIRE ソリテール  作者: yuruhuwa回路


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17/48

騎士団長の秘密

 クレインが部下に見つかりそうになったのは、昼の混んでいる時間帯のことだった。


 SOLITAIREに向かう路地の入り口で、クレインは部下の騎士と目が合った。


 新任の若い騎士で、マッテオという名前だった。巡回中だったらしく、鎧を着て歩いていた。


「団長! こんなところで何を」

「散歩だ」

「散歩ですか。お一人で?」

「一人でなければ散歩とは言わん」


 マッテオは少し周囲を見回した。路地の奥に、小さな光が見えた。


「あの奥に、何かあるんですか?」

「何もない」

「でも光が」

「ランプだろう。気にするな」

「団長、単独行動は規則で……」

「マッテオ」

「はい」

「お前は今、何の仕事中だ」

「巡回です」

「ならば巡回をしろ。団長の私用に口を挟む暇はないはずだ」


 マッテオは一瞬迷ったが、「失礼しました」と言って歩き出した。


 クレインはしばらく立って、マッテオの姿が見えなくなるのを待った。それから、路地を進んだ。


 SOLITAIREの扉を開けると、カインが顔を上げた。


「いらっしゃいませ」

「……コーヒーを」


 クレインはいつもの席に座った。今日は鎧を預けてある。シャツ一枚でやや落ち着かない様子だったが、それでも来た。


「どうされました」


 珍しくカインから聞いた。


 クレインは眉を寄せた。


「なぜわかる」

「表情です」


 クレインはしばらく黙っていた。


「……部下に見られかけた」

「ここへ来るところをですか」

「路地の入り口で出くわした。うまくごまかしたが」

「見られると困りますか」


 クレインは少し考えてから答えた。


「困るわけではない。ただ……団長がこういう場所に一人で来ていると知られると、なにか言われる気がする」

「なにかとは」

「……弱いとか、疲れているとか」


 カインはコーヒーをクレインの前に置いた。


「弱いと思われるのが嫌ですか」

「団長として、それは困る」

「団長としてではなく、クレイン様個人としては」


 クレインは口を閉じた。


 長い沈黙の後、言った。


「……疲れていると思われることは、別に構わない。人間が疲れるのは当然だ。ただ、それを見せることで、部下が不安になることが困る」

「それは、部下のためですか」

「そうだ」

「それはつまり、クレイン様が部下のことを考えているということです」


 クレインは少し眉を上げた。


「……当たり前のことを言うな」

「当たり前のことが、一番大事なことだと思いますので」


 クレインはコーヒーを飲んだ。苦かった。いつもより少し、美味しく感じた。


 翌日、マッテオがクレインに報告書を持ってきたとき、少しだけ不自然な間があった。


「どうした」

「……昨日、路地の先を少し確認してみました」

「それで」

「小さなカフェがありました。お一人様専用だそうです。とても静かそうな店でした」


 クレインは表情を変えなかった。


「そうか」

「いつか行ってみたいと思いました」

「一人でな」

「はい」

「よろしい。行け」


 マッテオは少し嬉しそうな顔をして、部屋を出た。


 クレインは報告書に目を落とした。


 口元は、動かなかった。


 でも、目の端が、少しだけ緩んでいた。

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