英雄と剣聖、店の外で
その日、アレンとミレイアは奇妙な形で鉢合わせた。
SOLITAIREの扉の前で、二人同時に手を伸ばしたのだ。
二人は一秒間、互いの顔を見た。
「……先にどうぞ」とアレンが言った。
「いや、あなたが」とミレイアが言った。
「いや、本当に」
「私もそう思ってる」
沈黙が続いた。路地に風が吹いた。
結局、二人とも扉を開けずに、壁際に少しずれて立った。
「……満席か」とアレンが言った。
中を覗くと、六席すべてに客がいた。SOLITAIREが満席になるのは珍しかった。
「待つ?」とミレイアが聞いた。
「待つ」とアレンが答えた。
二人は並んで、路地の壁にもたれた。
しばらく無言だった。お互いに相手が誰か知っている。でも声をかけることには慣れていない。ここでは客同士は干渉しないのが暗黙のルールだ。
ただ、ここは店の中ではなかった。
「……何年ぶりだろう」とミレイアが先に言った。
「冒険者ギルドで会って以来か」
「三年くらいか」とアレンが答えた。
「あのとき、ミレイアは依頼書を半分ちぎってギルドマスターに投げつけてたな」
「あれはギルドマスターが悪い。報酬の計算が間違ってた」
「そうだったな」
また沈黙。
「……ここ、よく来るのか」とミレイアが聞いた。
「まあ」
「私も最近よく来る。なんか……落ち着く」
「わかる」
二人は、それ以上説明しなかった。説明しなくてもわかった。同じ理由でここに来ているとお互いに察していた。
「俺は最近、本を持ってくるようになった」とアレンが言った。「何も考えずに本を読める場所が、意外となかったから」
「私はコーヒーを飲みながら、次の大会の相手のことを一切考えない練習をしてる」
「練習」
「意識しないと、考えてしまうから」
アレンは少し笑った。
「英雄のくせに、なんか普通だな」
「剣聖のくせに、あなたもな」
二人が苦笑したところで、中から客が一人出てきた。席が空いた。
「どうぞ」とアレンが言った。
「ありがとう」とミレイアが扉を開けた。
アレンは壁にもたれたまま、もう一人出てくるのを待った。
二分後、また扉が開いた。アレンは中に入った。
ミレイアはいつもの席で紅茶を飲んでいた。アレンはいつもの席でコーヒーを頼んだ。
二人は仕切りで区切られていて、互いの顔は見えなかった。
でも、同じ空間にいることを、それぞれ知っていた。
それだけで、なんとなく、十分だった。
カインはその日の閉店後、特に何も考えずにカップを洗った。
ただ、洗い物をしながら、少しだけ口元が緩んでいた。




