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某国首相の独裁者無双〜俺が世界を救う救世主になった件〜

作者: 破面ライダーガバドン
掲載日:2026/02/28

 石岩首相は選挙で三度目の正直どころか三度目の大敗を喫したにもかかわらず、なぜか今も首相官邸の執務室に座っていた。


「なぜだ…なぜなのだ、なぜこうもうまく事が運ばん⁉」


磨き上げられた漆塗りの机に額を擦りつけ、石岩は唸る。

国民からは「三連敗の男」と揶揄され、党内からは「もういい加減にしろ」という無言の圧力がひしひしと伝わってくる。

それでも首相の座を手放せないのは一重に彼の権力への執着心と、どこか間抜けなほどの強情さゆえだろうか…いや、違う。

石岩は勢いよく顔を上げ、机の上でまどろんでいる秘書官の頭を指で小突いた。


「こら、首相の私が眠る間もなく働いているのに秘書の君が居眠りなんかするんじゃない!」


秘書官は眠い目をこすりながら「はあ……」と生返事をする。

疲弊しきった石岩の心はもはや正常な判断能力を失いつつあった。このままでは、いつか本当に「四連敗の男」になってしまうどころか首相の座まで失ってしまう。

そう考えると背筋に冷たいものが走った。

そんなある日、石岩はふとテレビで隣の独裁国家のニュースを目にした。

堂々とした姿で国民を扇動し、絶対的な権力にて国を掌握する独裁者の姿。

それを見た瞬間、石岩の脳裏に突如として閃光が走った。


「そうだ…これだ!」


彼は机をバンと叩き、秘書官を驚かせた。


「秘書官、緊急会議だ!今から我が国を、王政国家とする!」


「は…はい?」


秘書官はポカンとした顔で石岩を見つめる。


「うるさいだけの国民の意思など…もうどうでもいい!この俺が、俺の、俺だけのための…この国の王となるのだ!」


石岩は高らかに宣言した。その顔は、三連敗の屈辱を乗り越え、ようやく見つけた希望の光に満ち溢れていた。

だが、その計画はあまりにも壮大であまりにも馬鹿げていた。

この国の歴史を変え、自分を王とするという前代未聞の野望が、今…ここに始まろうとしていたのである。


石岩首相の王政樹立という突飛な発言に、秘書官は頭を抱えた。しかし、首相の目は本気だ。

彼は閣議を開き、かねてより関係を深めようとアプローチしていた隣の独裁国家との緊急首脳会談を提案した。そのコネクションは今は亡き彼の師匠である金一昇から得たものである。

もちろん、その真の目的は、王になるためのノウハウを学ぶことだ。同盟国との会談予定をすべてキャンセルし、外務省の猛反対を押し切って、石岩は意気揚々と独裁国家へと旅立った。

独裁国家の首都に到着すると、そこには石岩の想像をはるかに超える歓迎が待っていた。空港には真っ赤な絨毯が敷かれ、両脇には兵士たちがずらりと整列している。国家元首との会談では、石岩は豪華な宮殿の一室に通され、美しすぎる通訳の美女に囲まれながら、見たこともない珍しい食材を使った豪華な食事を振る舞われた。美女たちが注ぐ高価な酒を飲みながら、石岩は気分が良くなり、自分が王となった未来を夢想した。


(そうだ、この国のように…私が王となれば…)


宮殿の豪華絢爛な装飾を眺めながら、石岩はうっとりと夢を見た。

国民は皆、私を敬い、絶対的な権力を持つ私は、誰にも文句を言われることなくこの国を思いのままに動かすことができるのだ。

三連敗の屈辱も党内の突き上げも、すべて過去の出来事となる。そう思うと、石岩の胸は高鳴った。

帰国した石岩は、以前にも増して強気になっていた。

独裁国家で得た自信と王政樹立への熱意は、もはや誰にも止められない。

彼は早速、党内会議で「国家体制変革のための新法」の制定をぶち上げた。


「これからは、私の指示が、この国の絶対的な法となる!国民はそれに従う義務がある!」


あまりにも突拍子のない内容に、党内は騒然となる。

しかし、石岩は聞く耳を持たなかった。

彼は、独裁国家で学んだ権力の使い方を実践したのだ。

反対する議員には、これまでのスキャンダルを蒸し返すような圧力をかけ、従順な議員には次の選挙での厚遇をちらつかせた。

党内の圧力に屈した議員たちはついに賛成に回る。そして、国民の反対をよそに新法は強引に成立した。

こうして、石岩は独裁者への第一歩を踏み出したのだった。



石岩首相が隣国の独裁国家で得たインスピレーションをもとに、閣僚に作成させた新法は国民を巻き込む形でその狂気を露呈した。

法律のモデルはもちろん件の独裁国家を参考にしている。その内容は以下のとおりだ。


新法「永久指導者崇拝法」


この法律の核心は石岩を国家の最高指導者。すなわち「王」として崇め、その権威を絶対的なものにすることにある。


国家元首の地位の絶対化


石岩首相は国民の意思に関わらずこの国の「永久の指導者」であり、その地位は神聖不可侵とする。


指導者への崇拝義務


すべての国民は永久の指導者である石岩首相を心から崇拝し、彼の肖像画を自宅や職場に掲げなければならない。


彼の名前を呼ぶ際は敬意を払い、常に最上級の敬称を使用することとする。


思想統制の強化


指導者の思想に反する言論、出版、芸術活動は一切禁止とする。

すべての教育機関では永久の指導者の偉大な功績を学ぶ時間を義務化する。


反逆行為への厳罰化


指導者やその家族、国家に対するいかなる反逆行為も、死刑をもって罰する。


家族や親族に反逆者がいた場合、連帯責任として、親族も厳罰に処する。




この新法は民主主義国家ではありえないほどの人権侵害と強権的な内容であり、これを制定した石岩の正気を疑う者も多かった。

この新法の成立は、国民に大きな衝撃と混乱をもたらした。

最初は「また石岩首相が妙なことを始めたぞ」と、いつものお騒がせ政治家の行動として、テレビのワイドショーやインターネット上では嘲笑の対象となっていた。


「三連敗の男が、今度は王様になりたいのか」


「石岩王朝なんて、まるでギャグだな」


「まあ、どうせいつものパフォーマンスだろう」


と、多くの国民は真剣に受け止めていなかったのだ。

しかし、政府が新法に基づき実際に石岩の肖像画の配布を始め、全国の学校で「永久指導者石岩」の教育を義務化し始めると、国民の間には深刻な動揺が広がった。


「本当にやるつもりなのか…?」


「これはもう、笑い事じゃないぞ」


特に反逆行為への厳罰化、そして連帯責任の項目は、国民に深い恐怖を植え付けた。


SNSや掲示板では、

「おい、これって隣の国の法律とそっくりじゃないか?」

「冗談抜きで、この国はどこへ向かうんだ?」


といった書き込みが殺到。

街中では政府への抗議デモが勃発し、国民の怒りは頂点に達していた。

しかし、石岩はそうした国民の声に耳を傾けることなく、独裁者への道を突き進んでいく。

彼の耳には豪華な食事と美女に囲まれた独裁国家での甘い思い出と、王になるという野望の囁きしか聞こえていなかった。



石岩首相は国民の動揺をよそに、制定されたばかりの「永久指導者崇拝法」を即日施行すると発表した。

この国の歴史上、これほどまでに強引な法律の施行は前例がない。

テレビのニュース速報が、石岩の肖像画が全国の公共施設に設置される様子を映し出す。

学校では、生徒たちが戸惑いながらも朝礼で石岩への忠誠を誓う儀式をさせられていた。

これまで「どうせ誰が首相になっても同じだ」と投票に行かず、政治に無関心だった国民もこの事態にはさすがに怒りを隠せない。


「なんだこれは、冗談だろ?」


「笑えない…本当にこの国はおかしくなったんだ」


SNS上では「石岩マジック」と皮肉を込めて呼ばれていた政治手法が、もはや笑い事ではないという投稿が溢れた。

街頭には、これまで政治デモに参加したことのない市民が多数集まり「石岩を辞めさせろ!」と怒りの声を上げた。


「永久指導者崇拝法」の即日施行は諸外国にも大きな波紋を広げた。

隣の独裁国家をはじめとする反民主主義国家は、石岩の決断を熱烈に歓迎した。

「我が国の指導者の思想に深く共感し、正しい道を選んだ」と称賛し、石岩政権との連携強化を打ち出す。

まるで、同じ独裁者として仲間意識を感じているかのようだった。

一方で、民主主義を掲げる国々は、この事態を重大な脅威と受け止めた。

特に、長年の同盟国のトランポリン大統領はこのニュースに激怒した。


「あのバカリーダーは、我が国のことを愚弄しているのか!」


彼はスイートハウスの執務室で、ゴルフのパターを振り回しながら叫んだ。


「自由と民主主義を掲げる同盟国が、独裁者の真似事をするとは何事だ!」


怒り心頭のトランポリン大統領はすぐさま声明を発表し、この法律を「民主主義への冒涜」と強く非難。

そして、王国政府に対し天文学的な関税を課すと同時に国内に駐留していた同盟国軍を即時撤退させるという前代未聞の決断を下した。

これまで同盟国の庇護のもと、平和を謳歌してきたこの国は一夜にして国際社会から孤立し、重大な危機に直面することになったのである。


「永久指導者崇拝法」が即日施行された後、石岩は水面下で周到な準備を進めていた。

自衛隊の幹部にはこれまで誰もが欲しがっていた高位のポストをちらつかせ、高級官僚には美女をあてがい秘密裏に懐柔していった。

さらに、国内に多数潜伏していた隣の独裁国家のスパイや工作員たちと連携し、わずか1週間で独裁政権の基盤を固めることに成功する。

当初、怒りの声を上げていた国民も現実に直面すると沈黙せざるを得なかった。

抗議デモの参加者には突如として自衛隊…王国軍の戦車が向けられ、空には銃を構えた兵士を乗せたヘリコプターが旋回した。

独裁国家のやり方を模倣した強権的な弾圧に、国民はただただ恐怖に震えるしかなかった。

銃や戦車という圧倒的な暴力の前で、これまで自由を享受してきた国民は、あっけなく跪いた。

「永久指導者崇拝法」に反対する声は日を追うごとに小さくなっていった。


自分の王政がうまくいくと確信した石岩は、ついに国内のタブーに手をかける。

それは、長きにわたりこの国の象徴として存在してきた天王の廃止だった。

石岩はテレビ演説で天王を「時代遅れの象徴」と断じ、その存在は「永久の指導者である私に不必要だ」と傲慢に言い放った。

そして、天王一族を全員国外に追放するよう命令した。

天王の存在を心の拠り所としてきた国民は、この非道な行為に再び衝撃を受けたが、もはや声を上げる力は残っていなかった。

天王一族を追放した石岩は彼等が居を構えていた広大な跡地に自身の巨大な王宮の建設を命じた。

建設費用には国家予算を惜しみなく使い、全国民に強制労働を課した。

こうして、石岩は三連敗の屈辱を乗り越え笑い話のような独裁者から、現実の「王」へと成り上がったのである。



完成したばかりの巨大な王宮で石岩は連日、豪奢な宴を開いていた。

かつて国民的人気を博したアイドルや女優たちを侍らせ、選りすぐりの美食と酒を堪能する。石岩は上機嫌で、お気に入りの美女に自身の「偉業」を自慢して聞かせた。

その王宮の中庭では、国民が見せしめのために集められていた。

生放送のテレビ中継で全国に流される中で石岩の悪口を言ったり、わずかでも反抗的な態度を見せたりした人々が次々と晒し者にされていく。

銃殺刑、打ち首、火あぶり。残酷な処刑方法が石岩の一言で決まり、そのたびに集められた国民は恐怖に震えた。

「自由」や「人権」という言葉は、もはやこの国から消え去っていた。



石岩が国内の恐怖政治を強固にする一方で、国際社会は静観を続けていた。

「内政干渉」という口実のもとどの国も具体的な行動を起こさなかったのだ。

まさか世界でも指折りの経済大国が短期間で独裁国家に変貌する珍事は流石に想定外過ぎたのだ。

だが、その沈黙を破ったのはかつての同盟国であったトランポリン大統領だった。

彼は天王一族を保護し、自国に亡命させていた。


「我々は、独裁者の手によって自由を奪われた友邦を見過ごすことはできない」


トランポリン大統領は、異例の生放送による国際緊急記者会見を開いた。


「石岩は、自由と民主主義を踏みにじった。彼が作り上げた『石岩王国』は、国際社会の平和を脅かす存在だ」


演説の最後に、大統領は毅然とした表情で拳を掲げながら言い放った。


「共和国は、石岩王国に対し、宣戦を布告する」


その瞬間、トランポリンの命により共和国の空母艦隊が石岩王国の領海へ向けて出航した。


首相時代にはあれほど渋っていた軍事費の増額を、石岩は「王」となった今は惜しみなく投じた。

国家予算の半分以上をたった一つの兵器開発に投じたのだ。

その兵器とは核兵器をも超えるという、とてつもない破壊力を持つ「スーパーデラックスハイパーウルトラギャラクシー粒子砲」だった。

国民は飢えに苦しみ、強制労働で疲弊しきっていたが、王国軍に名称を変えた旧自衛隊は成人男子を強制的に徴兵し、AIVR(AIバーチャルリアリティ)による軍事訓練で即戦力へと叩き上げていった。


共和国の空母艦隊が石岩王国の領海に差し掛かったその時、王国軍は一斉に超兵器の照準を合わせた。


「スーパーデラックスハイパーウルトラギャラクシー粒子砲、発射!」


石岩の命令が下されると、巨大な光の柱が放たれ、共和国の艦隊を直撃した。閃光が収まると、そこには何も残っていなかった。

かつて、強大な力を誇っていた空母や駆逐艦、そしてその乗組員は、一瞬にして塵と化して消滅したのだ。

その映像は、全世界に生中継されていた。石岩の傲慢な笑い声が響き渡る中、トランポリン大統領は顔面蒼白で画面に釘付けになっていた。

強気な姿勢で宣戦布告をした大統領の立場は、一夜にして転落した。国民からは「無謀な戦争を仕掛けた」と激しい非難が浴びせられ、国際社会からも孤立していく。


トランポリン大統領は、もはや石岩に屈するしかなかった。彼は憔悴しきった表情で再び国際緊急記者会見に臨んだ。


「わが国の軽率な行動により、多くの尊い命が失われました。誠に遺憾であります」


そう前置きをした後、震える声でこう告げた。


「我が国は…石岩王国に対し、講和を求めます」


それは、屈辱的な敗北宣言だった。しかし、彼にはそれ以外の選択肢は残されていなかった。


トランポリン大統領は、憔悴しきった表情で石岩の前にひざまずいた。

石岩は、かつて会談の度に自分を見下していた大統領に対し屈辱的な条件を突きつける。


「今後、我が国の内政に一切口を出すな。そして、同盟国時代に散々金を出させた分の賠償金を支払え」


大統領は、その条件をのむしかなかった。石岩は、これまでの鬱憤を晴らすかのように高笑いし、我が世の春を謳歌する。世界中がその映像を見て、彼の圧倒的な力と残忍さを思い知らされた。


トランポリン共和国との講和後、石岩は国内の秩序を固めるため、新たな行動に出る。それは、これまで裏で連携していた隣国の独裁国家に対するものだった。


「もはや、誰の指図も受けない。この国は、私が支配するのだ」


石岩は、隣国がいつまでも内政に口出ししてくることを疎ましく思っていた。

ある日、石岩は国内に潜伏していた隣国のスパイや工作員たちを一斉に捕らえるよう命じた。

彼らは王宮の中庭に引き出され、トランポリン大統領との講和を祝う宴の余興として公開処刑にされた。

その後、石岩は全世界に向けたテレビ演説で、隣国の独裁国家に対し堂々と宣戦布告した。


「この国は私が作り上げた『王国』である。

いかなる者も我が国の方針に口を出すことは許さない。従わぬ者は徹底的に排除する」


そう言い放つと、石岩は超兵器「スーパーデラックスハイパーウルトラギャラクシー粒子砲」を隣国の独裁国家へと向けた。


隣国の独裁国家は、石岩王国の超兵器を前に、戦うことなく降伏を宣言した。石岩は領土の一部を割譲させるという屈辱的な条件を飲ませ、世界に向けて自らの勝利を高らかに宣言する。


「もはや、我が王国に逆らう者はいない。

今後、我が国の方針に口出しする国や団体には徹底的な報復をもって臨む」


その言葉は、全世界に大きな衝撃を与えた。

短期間で王国を中心に巻き起こった騒動は、全世界を巻き込む大波となった。

これまで保たれていた平和な秩序は崩壊し各国は自国の利益を最優先に考えるようになる。

大国による小国への侵攻が各地で勃発し、世界はかつての帝国主義の流れに逆戻りしていた。


しかし、誰もが石岩王国の動向と、崩れゆく世界の秩序に目を奪われているその裏で、新たな脅威が静かに、そして確実に迫っていた。

王国の某所にある移動天文台。そこで観測を行っていた天文学者たちは信じられない事実に直面していた。


「これは…ありえない」


画面に映し出されたのは、光速に近い速度で地球に迫る、超巨大な隕石の姿だった。

これまで観測されたどの隕石よりも大きく、このまま衝突すれば、地球上の生命は絶滅する。

天文学者たちはこの未曾有の事態を石岩に報告すべきか、戸惑いの表情を浮かべた。


某所の移動天文台から届いた報告は石岩の野心を一瞬で吹き飛ばした。目の前の敵ではなく全人類共通の…絶望的な危機。

石岩は即座に行動を起こす。全世界に向けて特別演説を配信し、超巨大隕石の存在を公表した。


「この危機は、人類がかつて経験したことのないものだ。もはや国家間の争いなど些末な問題。全人類の生存をかけて、我々は一つにならなければならない」


彼は傲慢な態度をかなぐり捨て、迎撃のための協力を全世界に呼びかけた。

石岩の呼びかけに真っ先に答えたのは意外な人物だった。


「この男に、地球の未来を託すなど……」


国民の激しい反発を押し切って、共和国のトランポリン大統領が石岩との共同戦線を表明したのだ。

かつて石岩に屈辱的な敗北を喫したトランポリン大統領はそれでも一国のリーダーとしての責任を果たすべく協力を申し出た。


「これは、国と国との戦いではない。人類と、絶滅を呼ぶ運命との戦いだ」


二人の間に交わされたのは、決して友好な握手ではなかった。

だが、その硬い表情には地球の危機を乗り越えようとする強い意志が宿っていた。

ここに、かつて敵対していた二大国の間に地球の未来を賭けた休戦協定が結ばれたのである。


共和国の進んだ軍事技術という新たな力を得て、石岩は王国軍に命令を下す。


「『スーパーデラックスハイパーウルトラギャラクシー粒子砲』を、共和国の技術で改造せよ。地球の運命は、この一撃にかかっている」


超兵器は、地球を救うための最終手段として、その性能を飛躍的に高めるべく改造されていく。そして、全世界の命運をかけた、隕石迎撃作戦が動き出した。


トランポリンの計らいで共和国の技術供与によって超兵器は「ネオアルティメットスーパーデラックスハイパーウルトラギャラクシーデリシャスギガ石岩砲」として生まれ変わった。

その名は石岩国王の増大した自尊心と、地球の未来への希望を同時に象徴していた。数カ月後の迎撃作戦に向け、最終調整が進められる。



刻一刻と迫る隕石の存在は、全世界の日常を一変させた。

石岩国王とトランポリン大統領の共闘を信じ、希望を捨てずに祈る人々。一方で、どうせ滅びるならと自暴自棄になり、享楽に走る人々もいた。

多くの人々はいつもと同じように働き、食事をし、家族と過ごしながらも心の奥底で迎撃作戦の行方を固唾をのんで見守っていた。

テレビやインターネットでは隕石の接近を伝えるニュースが絶え間なく流れ、人類はノストラダムスの予言から四半世紀遅れてやってきた災厄にかつてない不安と恐怖に包まれていた。


そして、迎撃作戦の当日。

超兵器の周りには石岩とトランポリン大統領が並んで立っていた。

全世界が固唾をのんで見守る中、石岩は静かにしかし力強く命令を下す。


「発射!」


石岩の号令とともに、強化された超兵器『ネオアルティメットスーパーデラックスハイパーウルトラギャラクシーデリシャスギガ石岩砲』が、全人類の希望と絶望を乗せた一撃を、宇宙へと放った。

地球から放たれた光は宇宙の闇を切り裂き、超巨大な隕石へと向かっていった。

光が隕石に接触すると、ゆっくりと、しかし確実にその巨大な質量を包み込んでいく。

隕石の表面から、まるで砂が崩れるかのように、少しずつ破片が砕け散っていく。

光は幾度となく隕石を貫き、その内部から破壊し続けた。

そして、光が完全に消え去った後…そこには何も残っていなかった。

今まさに地球に絶望をもたらそうとした脅威は完全に消滅したのだ。



その瞬間、全世界が歓喜に包まれた。

歓声は国境や人種思想を超えて響き渡り、空には無数の花火が打ち上げられた。

人々は抱き合い、涙を流し、この奇跡的な勝利を祝った。

テレビやインターネットでは、石岩国王を称える声が溢れかえった。


「石岩国王は最高の王だ!」


「彼こそが、我々人類の救世主だ!」


その声を聞きながら、頭髪が薄く、太った顔に満面の笑みを浮かべる石岩は自分が真の「王」となったことを確信していた。













石岩が見苦しく首相の座にしがみつこうとはしたが、除名を検討されたためあえなく辞任。タカハシ新総裁率いる与党は選挙で歴史的な大勝利を収めた。

テレビ画面の向こうでは勝利の女神さながらに微笑むタカハシ氏が「極東国を、取り戻す以上の高みへ!」と華々しくぶち上げている。

一方、薄暗い料亭の一室。石岩はもはや首相の座を追われた身として、三人の旧友——上村、中屋、森と向かい合っていた。




そう、あの華々しい英雄譚は石岩が国会での居眠り中に見た夢だったのだ!




「……見たか。あのタカハシの勝ち誇った顔。

国民も国民だ…私の緻密な防衛論よりあやつの『タカハシ・スマイル』に騙されるとは!」


石岩は悔しさのあまり、廊下の床が抜けんばかりにドタバタと地団駄を踏んだ。


「ええい、もう我慢ならん! 離党だ、離党! 我々で新党を立ち上げ、あの女に目に物見せてくれるわ!」


石岩は鼻息を荒くし、書きかけの趣意書を叩きつけるように広げた。


「党名はすでに考えてある。その名も……『真・石岩王国』だ!」


一瞬の沈黙。最初に口を開いたのは軍事オタク仲間であり誰よりも口の悪い上村だった。

彼は酒で真っ赤になった顔で鼻で笑いながら石岩を指差す。


「おいおい、『真・石岩王国』って……。お前さんまだ夢から醒めてないのか?

鏡を見てみろ、その脂ぎった顔のどこに『国王』の器があるんだよ。せいぜい…地方の寂れた関所の門番が関の山だろ」


「な、なんだと上村! 私は大真面目だぞ!」


「そもそも何回も選挙に負けた奴が新党立ち上げても数年後には無職だぞ?」


「…やってみなければわからん」


石岩が顔を真っ赤にして閉口している横で今度は中屋が深いため息をつきながら、手元の御猪口を眺めてぼやき始めた。


「新党もいいがのう……。わしも外務大臣時代、もっと隣国の若い女子とにゃんにゃんしておけばよかったわい。

今さら新党でお主の硬苦しい顔を見ながら野党暮らしとはなんともはや……。

わしの外交人生のピークは選挙前に置いてきた気分じゃ…あっちの方はまだまだ若いもんには負けぬつもりなのじゃが…」


「中屋君まで何を不謹慎なことを! 今は国家存亡の危機なのだぞ!」


必死に説得を試みる石岩だったが、一番の不安要素は残る一人、森であった。

彼はさきほどから一言も発せず、じっと手元のスマホを見つめている。

その画面にはタカハシ新首相の当選祝い特設サイトが開かれていた。


(……今ならまだ、タカハシ先生のところに駆け込めば、農林水産関係のポストくらいは貰えるんじゃないか? 石岩さんと泥舟に乗るより、あっちの華やかな勝ち馬に鞍替えした方が……いや、しかし義理が……)


「おい森君、聞いてるのか! 君も『王国』の騎士として戦うんだろうな!」


石岩に詰め寄られ、森はビクッと肩を揺らした。


「あ、ああ……まあ、前向きに検討……いや、審議中というか……」


「検討とか審議とか、どこぞの首相みたいな曖昧なことを言うな!」


石岩は再びドタバタと地団駄を踏み、勢いよく立ち上がった。


「いいか、諸君! どんなにバカにされようがタカハシに寝返られようが(森を睨む)私は諦めんぞ!

次の選挙こそこの新党『真・石岩王国』が天下を獲るのだ!

行くぞ…今度こそ本当の……本当の4度目の正直だぁーッ!」


夜の旅亭で虚しくも力強い「国王」の咆哮が三人の冷ややかな視線を浴びながらいつまでも響き渡っていた。

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