5 世界の理
悪魔視点
駅に着いた後は少し長めに歩く。
駅前の広場を抜けて商店が立ち並ぶ道をまっすぐ進んで通り抜ける。
だんだん人の気配が少なくなってくる。
さらにもう少し先に行くと目的地のビルが目に入って来た。
外見はあまり手入れの行き届いていない廃ビルといったところか。
中は例年通り悪魔でいっぱいだった。
仕事前の喧騒がいたるところから耳に叩きつけられる。
「おつかれさん。東京担当のブロゴリーだ。豚とソリを取りに来た。手続きを頼む」
入り口奥の受付に声をかける。
中が騒がしいので少し大きめな声を出さないといけない。
「ブロゴリー様ですね。お待ちしておりました。ソリ、豚ともに手配は済んでおります。こちらに記名をお願い致します」
私は手早く記名を済ませた。
「確かに確認いたしました。ソリと豚は1番倉庫に待機させています。番号はB-198796です。お気をつけていってらっしゃいませ」
ビルを出て、裏手に隣接した倉庫に向かう。
中は豚とソリでひしめきあっていた。
「B-198796、B-198796、おっ! いたな」
私は相棒の豚とソリを見つけた。
今年も元気そうだ。
豚が早く乗れと急かしてくる。
早速私はソリに乗り込み、不備がないことを確認すると夜の空に駆け出した。
出発して少しすると人間のビル街が見えてくる。
私はビルにぶつからない様にソリの速度を落とした。
ぶつかることはまずないが、たまに背の高いビルがあるので要注意だ。
ゆるゆると徐行していると、少し高いビルの屋上から人間が降って来た。
成人した男のようだ。
別に慌てることではない。
人間に私たち悪魔が見えることもないし、触ることもできない。
それは私たちのソリも同様だ。
仮に人間が私たち悪魔に手を伸ばしたとしても、手は私たちの体をすり抜ける。
なぜビルから降って来たのかは気になったが、昨今の流行りというやつだろう。
私は特に気にもせずに前に向き直る。
今年の冬も寒い。
そんな風だったから、ビルから落ちて来た男がソリに着地したことは全くの想定外だった。
◆◇◆◇◆
急にソリが揺れた。
ビルから飛び降りた男が何故か私のソリに着地してきたのだ。
私は(恐らく人間も)何が起きたか分からずしばらくぬぼーっとしていたが、人間が鼻をほじっているのを見て私は正気を取り戻した。
こちらから話しかけてやると、なんと人間は反応を返して来たではないか。あっ! おい今鼻くそ擦りつけやがった。私のソリだぞ! 見えてるからな!
空飛ぶ豚が人間には物珍しいのだろう、
人間が豚について質問してきたのでそれに答えてやる。
人間と会話するのは久しぶりだ。
気分が勝手に高揚するのを自分でも感じた。
話を聞いてやるうちに、人間の名前がトビオであること、仕事に疲れ死のうと思っていたことが分かった。なるほど、これで私の疑問は晴れた。
通常、人間と悪魔は「界」、すなわち存在している次元が異なる。
人間界の上に私たち悪魔の魔界や天使たちの天界、さらにその上に神が住まう神界があるらしい。
「あるらしい」というのは私は神界に行ったことがないのだ。
互いの界は重なり一部混ざり合うが、下の界の存在が上の界に行くことは許されない。
また、下の界の存在は上の界の存在をみることも触ることもできない。
ごく一部例外を除いて。
下の界で存在が薄くなると、界の境目を通り抜けて上の界と混ざる者が稀にいるらしい。
恐らくこの男は自身の精神を自分で何度も殺し、飛び降りて自死を図ったことで、限りなく界での存在が薄くなったのだろう。
普通そのようなことをすれば人間の脳は耐えきれず壊れてしまうのだが、目の前の人間にはそのような様子がない。
「まさか高所から飛び降りて死のうとするとは。
人間は刀なるもので首や腹を掻っ捌いて死ぬのが一般的ではなかったのか?」
「いつの時代の話だよ!? 人間は日々進歩して首吊り飛び降り飛び込みetc… とにかく自殺方法も進化させてきたんだよ!! というかお前は何?!」
(そうか、私の知識はもう古いのか。人間はとにかく変化を好むな。気がつくと街並みも随分と変わっているからな。)
人間が私に名前を聞いてきたので答えてやる。
「我が名はブロゴリー。下級悪魔だ。地球の管理を任されている。最近はもっぱら人間の管理だがな。今日もサンタさんの仕事で忙しいのだ」
そう言って笑いかけてやる。
しばらく人間は考え込んでいたが、
急に私の方に顔を向けると泡を吹いて気絶した。




