2 深夜のショートケーキ
「いちごを最初に食べるか? 最後に食べるか?」
1992年にショートケーキが世に現れて以来、
この論争はたびたび世間を揺るがしてきた。
ときに永遠の愛を誓い合った2人を引き裂き、
ときに固い友情で結ばれた者たちの袂を分けた。
古から続くこの問いに苦しめられた者は多い。
――しかし俺、田中トビオ28歳は今この論争に早々に決着をつけなければならない。
◆◇◆◇◆
時刻は22時。
オフィスは夜冬の寒さが入り込んだかの様な静けさで包まれている。
書類の束が積まれたデスクを目の前のパソコンがぼんやり照らす。
今日はクリスマスイブだからと、
クソ上司――いや先輩方は笑顔で帰っていった。
彼女や家族と予定があるそうだ。
「俺に仕事を押し付けやがって」
1人暗闇に呟いてみる。
仕事を終わらせ今は1人虚しくご褒美のショートケーキをつついているところだ。
折角の特別な日だからと会社近くのコンビニで買ったはいいものの、俺はいちごの処遇を決めあぐねていた。
いちご。人々を争いへと導く罪深い果実。
「よし。決めた」
俺はいちご共々ケーキを頬張った。
コンビニサイズのショートケーキだ。
頑張れば一口で終わらせることができる。
こんなどうでもいいことに時間は割けない。
俺が今日この時間まで残業したのには理由がある。
先輩の仕事を引き受けてまで残業する理由だ。
パソコンの電源を落とし、席を立つ。
目指すはこのビルの屋上である。




