13 友達はサンタクロース
ソリに戻ると悪魔がひっくり返って笑っていた。
コイツ。俺の状況を知りながらわざと放置しやがったな。俺は無言で悪魔の左足を思いっきり踏んだ。
「痛い痛い痛い。すまんすまん。許してください。ごめんなさい」
「テメェ、あの地獄絵図を知りながらわざと放置したな! 何か申開きはあるか? ああん?!」
「だって、おならしてヘマするとか、もう、もう笑わせにきてるだろ。そんな面白い状況放置するしかないだろう」
こいつホントにいい性格してやがる。
俺はさらに体重を掛ける。
そもそもコイツが1人で行ってみろというから行ったのだ。
初心者マークの健気なサンタを笑う邪悪な先輩サンタ。
踏んでも心は全く痛まない。
「おい、悪魔。俺結構ガッツリ顔見られちゃったけど、なんなら人相評価されちゃったけど、後から家に警察くるなんてことないよな? 本当に大丈夫なんだろうな?」
さっきから俺のチキンハートがけたたましく泣き叫んでいる。
「ああ、多分大丈夫だ。さっきも言ったが、今のお前は界が曖昧だからな」
ついでに顔も曖昧だが、と付け加えた悪魔を蹴り上げる。
「まあ、機嫌を直せ人間! 次で最後だから。次がラストの家だから。」
悪魔の形をした悪魔が何かをほざいている。
だがそろそろ足が疲れたきたので足をどけてやる。
あと少しで家に帰れる。嬉しいような寂しいような不思議な感覚だ。この残念で憎たらしい悪魔と一緒にいる時間が残り少ないことを惜しいと感じる自分がいた。
人間に両足を踏まれた悪魔は私だけだと満足そうにうなずく悪魔を見る。
高校生活で人間関係をこじらせた俺は高校に友人と呼べる存在がいなかった。
そんな俺が華々しい大学デビューなどできるわけもなく、社会人になってもずっと周りの人間にうっすらと壁を作っていた。会社で上司に可愛がられなかったのは多分そのせいだ。
もしかしたら、この悪魔は俺が初めて気を許せる友人みたいなものかもしれない。少なくとも高校以降、こんな風に一緒に騒いだ奴はこの悪魔以外に思いつかなかった。
もちろん悪魔がどんな反応をするか分からないから、こんなことは口には出せないが。
友達に悪魔がいるというのも悪くない気がした。




