12 地獄絵図
悪魔に送りだされ、俺は初めて1人だけで家に不法侵入する。
やる気は充分。経験も積んだ。
既に一人前と言ってもいいだろう。
プレゼントを片手で持ち、暗闇に目を凝らす。
その部屋は緑色の壁に、植物が描かれているカーテン、さらには間葉植物も置いてあり、どこか自然を思わせるインテリアだった。
ベッドで寝ている少年に足音を殺して近づく。
プレゼントをそっと枕元に置いて――――。
ぶうううぅぷう……ぶうううぅ―――。
あ、まずい。このタイミングで屁こいたわ。
ベッドを見るとぱっちりと目を開いた少年と目が合った。
しまったあ!子供に見つかった!
「うわああああああああ」
子供特有の甲高い叫び声が夜中に響き渡る。
下の階からドタドタと誰かが階段を上ってくる音が聞こえた。
「大丈夫、りょうた!? 何があったの!?」
ドアが乱暴に開かれ少年の親らしき男女が入ってきた。
「サンタさん! サンタさんが来てくれたの!」
興奮した子供が俺の前で大はしゃぎしている。
テンションが異様に高い。
「んまぁ! こんばんはあ。毎年お世話になってますう。」
ぽやぽやしたお母さんらしき女性が挨拶してきた。
眼鏡をかけたお父さんらしき男性は俺の存在を確認するなりギョッとしてお母さんの肩を掴んだ。
「目を覚ませ!コイツはサンタさんじゃない!
どっかの非モテ社畜が酔っ払って家に入ってきたんだ。あいつの顔をよく見ろ!いかにも冴えないサラリーマンじゃないか。とにかく刺激しないように家の外に出てもらおう。なっ!そうしよう!?」
子供には聞こえない様な小声でお父さんがお母さんを説得する。全部俺には丸聞こえですお父さん。
お母さんは目の前のサンタさんが実は変質者だったことに気づくと携帯電話を取り出した。
「あなた! 警察! 警察に電話しましょう!?」
「ダメだ! 警察に電話したらりょうたの夢を壊してしまう。ここは穏便に済まそう!?」
お父さんがお母さんの腕を慌てて押さえる。
あっぶねぇ。警察に連絡されたら牢屋にぶち込まれるの確定じゃねえか。アルコール検査か? 薬物検査か? あるいは精神鑑定だろうか? 言い訳は誰も聞いてくれないだろう。お父さんの神対応に感謝しかない。
今度は無視されて拗ねた子供が腰にしがみついてきた。
「牛乳とクッキーを用意したんだ。一緒に食べようよサンタさん。」
お父さんに説得されたお母さんが腕を引っ張る。
「ダメよ! りょうた! サンタさんは私たちとこれから行くところがあるの! ねー?! サンタさん?」
「ふおっふおっふお」
さっきから冷や汗しかでない。その行く所って警察じゃないですよね、お母さん。
気づけば笑顔の子供と引きつった顔の大人による綱引きという地獄絵図が出来上がっていた。
お父さん細身なのに意外と筋肉があって――。
痛い痛い痛い! 腕が千切れそうですお父さん!
ぎぃやあああーーー!!!
思い通りにならなくて泣きべそかいた子供が鼻水つけてきますお母さん!
あの悪魔は一体何をしてるんだ。
ああ神様。助けてください。
そのとき遅すぎる白い光が俺を覆った。




