10 子供の憧れ
ところで今何時なのだろう。
時間の感覚がよく分からない。
さっき電車がまだ動いているのが上から見えたが。
白ヤギの毛布があるからまだ暖かいのはいいが、そろそろ空を飛んで星を見るのにも慣れてしまった。
夜7時ぐらいまで少しだけ雪が降っていたからか、少しだけ空気が暖かく感じるのは救いだ。
12月の東京に雪が降るのは珍しい。
ましてやクリスマスイブに降るなんて28年の人生の中で初めてのことだった。
「ところで俺はお前が仕事おわるまで帰れないのか?」
隣に座って先程から無言の悪魔に話しかける。
「何を言う人間。先ほど地上に下ろしてやっただろうが。次の家でまた下ろしてやるから後は好きにしろ。今度はヘマをするなよ」
悪魔は真面目くさった顔でそんなことを言った。
やはり悪魔は悪魔。人間の事情は考えないらしい。
もし帰る途中で家の人間に見つかったら、俺は立派な犯罪者になる。
まだ強盗に間違われるのはいい。
最悪、子供が起きてサンタさんだとはしゃがれ、親が起きて変態だと泣き叫ばれる。
満面の笑みを浮かべる子供。
恐怖で引きつった顔をする親。
そんな両者に挟まれる俺。
想像して思わず身震いする。
地上を見下ろすと、まだ明かりがついている家も多い。
誰にも見つからず玄関にたどり着けるだろうか。
全然自信ないんだが。
仕事終わりまで降ろしてもらうのは待った方がいいな。
仕方ない、仕事を手伝おう。
「おい、悪魔。俺も仕事を手伝いたい。お前たち悪魔が熱心に働いてくれてたおかげで、俺たち人間は楽しいクリスマスが過ごせてたんだ。俺にも恩返しさせてくれ」
突然悪魔が泣き出した。
凶悪な顔は泣いても凶悪なままだ。
「そんなこと言って感謝されたのは初めてだ。上司には仕事が雑だと嫌味を言われ、天使たちには暇だなんだとバカにされ、人間は私たちが見えないから感謝しない。そういうことならもちろん大歓迎だ。よろしく頼む」
悪魔ががっしりと握手してくる。
この悪魔、顔は怖いがやはりちょろい。
社畜の特性上、これから仕事だと思うと気が滅入るが、サンタさんの仕事は話が違う。
俺は幼稚園の頃、子供向け教育番組「さんたさんといっしょ」を毎朝視聴していた生粋のサンタっ子だ。
最初に悪魔を見たときは、恐ろしすぎる外見でサンタさんだとは1ミリも思わなかった。
だが今見るとなるほど、無理矢理どうにかこうにかサンタさんに見えなくもない。
子供の頃夢に見た、サンタさんと一緒にプレゼントを届ける旅が始まるのだ。
残念サンタだが仕方ない。
いっちょプレゼント渡しに行きますか!!




