1 ヤニ吸う悪魔
悪魔視点
赤、緑、黄色。
ありとあらゆるクリスマス色が12月の夜を上から塗りつぶす。
人間たちの笑い声。
スピーカーから流れ出る聴き飽きたメロディー。
そう、今日は12月24日。
クリスマスイブである。
「今年も騒がしいな。」
誰かがクリスマス色を塗り忘れた街の隅。
私は独り言をぼやきながらタバコを吸っていた。
口から吸った煙を肺に入れ、鼻から吐き出す。
ニコチンが脳全体に染み渡る。
ああ、この余韻がたまらない。
ヒトが生まれて700万年と少し。
人間は凄まじい速度で作っては壊し、そしてまた作っては壊しを繰り返してきた。
その中で人間が生み出したのがタバコである。
いつ誰が生み出したかは定かではないが、悪魔たちの間に浸透するのにそう時間はかからなかった。
いつの間にか私もすっかりタバコの虜である。
灰色の煙が白色と混ざって夜の闇に消える。
今夜は雪がちらついていた。
ーー今日は悪魔たちにとって最も憂鬱な日である。
理由はただ一つ。
お前にも分かるだろう?
頼む、頼むから私に言わせないでくれ。
ん?
ああそうか、人間は知らないんだった。
仕方ない。
惨めな私をせいぜい笑うといい。
私たち悪魔にはこれから「仕事」があるのだ。
◆◇◆◇◆
街を出て駅まで歩いた。
改札はそのまま素通りだ。
人は私たち悪魔を視認できないので運賃の支払いを求められることはない。
ホームの2階に上がると目的の電車が既に停車していた。
暖房の効いた電車に乗り込む。
車内には私の他にちらほら数人の悪魔がいた。
「ヤホーーー!! 調子はどうよ????
これから仕事だよ? 張り切ってこーー!!!」
電車が出発して程なくすると同じ職場の悪魔が話しかけてきた。
無駄なエレルギーを体の隅々から垂れ流している。
朝はランニングしてプロテイン。
夜はジムに行ってプロテイン。
そんな感じの悪魔だ。
正直勘弁してほしい。これから仕事で憂鬱なんだ。
あまり悩むことなく私は無視することに決めた。
奴らにキャッチボールという概念はない。
奴らの頭にあるのはマシンガンを撃ちまくること。
ただそれだけだ。
自分の身は自分で守らなければならない。
「あれーー?! なんか元気ないじゃん??
元気だしてこーーー!!! えいえいおーーー!」
この有り余る元気はどこからきているのだろう。
その後も何事かを一方的に喋りかけてきた。
私が無言を貫いていると、ヤツは背中をばしばし叩いて次の駅で降りて行った。
叩かれた背中がヒリヒリする。
おそらくやつの最初の担当地域に向かったのだろう。
私たちの「仕事」はサンタクロースなるものに扮して人間にプレゼントを渡すことだ。
悪魔たちはそれぞれ各地域に担当が割り振られる。
本来なら天使の仕事だったはずなのだが。
この時期天使たちは新年の準備で忙しい。
(知り合いの天使は神様のお手伝いなんだと自慢げにしていた。)
そこで私たち悪魔にお鉢が回ってきたのだ。
何が悲しくて仕事をせねばならぬのだろう。
私たち悪魔も暇ではないというのに。
悪魔は暇で羨ましいと言ってくる天使どもの顔を思い出す。
無性に腹が立ってきた。
とはいえ、仕事は仕事。
やらねばならぬ。
考え事をしていると突然ぐらりと体が傾いた。
慌てて手すりに掴まる。
どうやら電車が出発したようだ。
あと3駅。
私は電車に揺られながら目的の駅に着くまでぼんやりと窓の外を眺めていた。




