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校長の思惑とネコ型AIロボット

 時は少し遡り、維人が所沢中央駅に着いた頃。

 霊術秩父高校の校長室では、二人の男性が話をしていた。


「――以上が、校門で起きた騒動についてです。秦の体には一切霊力(こん)がなかったので、霊力を使っていないというのは本当だと思われます。」


 維人と九谷津が校門で出会った男性教師は、重厚な革張りの椅子に腰掛けている校長の永田勘九朗ながたかんくろうに騒動の報告をしていた。


「でも君は霊力を感じたから校門に向かったんだよね?」


 小柄でふくよかな体躯の永田は、確認するように尋ねる。

 男性教師は頷き、同意を示す。


「じゃあ、秦維人君は霊力を使用していなくて、霊力の攻撃も受けていないということだね?」

「・・・そうなります」

「霊力を感じたのに、()()()使()()()()()()()()()()()()。何とも不思議な話だねぇ」

「私にもよくわからず・・・」


 申し訳なさそうな表情で立ち尽くす男性教師。


「まあ、偶然何かが起きて霊力痕が消えたのかもしれないね」

「そんなことあり得るんでしょうか?」

「普通はあり得ないね。でもこれ以上は考えてもわからないし、今日のところはここまでにしよう。また何かあったら報告お願いね」

「承知しました。失礼いたします」

「ご苦労様」


 お辞儀をして校長室を出ていく男性教師。

 それを見送ると、校長は目の前の机の右端に設置されているパネルを操作する。

 数分後、ドアをノックする音が鳴り、校長室のドアが開く。


「失礼します。お呼びでしょうか?」


 現れたのは、維人のクラス担任である北島だった。


「忙しいところごめんね。実はさっき報告があってさ」

「校門での騒ぎのことですか?」

「そうそう。もう聞いてたかな?」

「詳しいことはまだ何も」

「実は騒ぎを起こした一人が彼みたいでね」

「・・・秦維人ですか?」


 首を縦に振る校長。


「騒動を起こしたのが彼かはまだわからないけど、少なくとも関わっていたことは確かだね」


 北島は考えるように視線を少し下に落とす。


「あ、そういえば聞いたよ。入学早々、クラスの子たちにかなり言ったらしいね」

「現実を話したまでです。中途半端な夢や希望を捨てさせるのが私の教育方針なので」


 北島の言葉を聞いて校長は柔和な微笑みを浮かべる。


「・・・何ですか?」

「君も教育者らしくなってきたね」

「・・・それで、私を呼んだ理由は?」


 北島は話を強引に戻す。


()()()()()()には、彼はどう映ってるかな?」

「第一印象で言えば、普通の高校生です。霊力がほぼ使えないという点以外は」

「・・・やっぱりそうだよねぇ」

「彼は一体何なんですか? 霊術高校に受かる程の力があるとは到底思えないのですが」

「正直、私にもわからない。彼の入学は上からの指示だったから」


 校長は何かを思い出すように宙を見つめる。


「霊管協の上層部ですか?」

「いや、もっと面倒なところだよ」

「・・・」


 北島はこれ以上聞いても答えてもらえないだろうと察した。

 諦めて別の話題に変える。


「今後はどうするおつもりですか?」

「どうって?」

「私も昨今の適合率による差別主義には思うところがあります。ただ、彼の場合は別です」

「適合率一%は前代未聞の数値だからね」

「そもそも十%以下の適合者自体、そうそういません」

「私も見たことないなぁ」

「そんな彼が霊術師になるのはどう考えても不可能です。ここを卒業することさえ、おそらくできません」

「そうだね」

「・・・彼をこのまま在籍させることに、私は反対です」


 冷静な口調のまま、強く校長に訴えかける。

 しかし、校長は優しく北島に言葉を返す。


「彼が無能だと、そう決めつけるのかい?」

「無能とまでは言いませんが、私の目で視た限りでは彼に霊術師の素質はありません」

「もし、君の目でも視えない力があるとしたら?」

「それはありえません」

「本当にそう言い切れるのかい?」


 校長の含みのある言い方に、北島は問う。


「・・・何を仰りたいんですか」

「いやね。せっかく入学したのにチャンスすら与えられないのは、それこそ差別主義的な扱いじゃないかなって」

「・・・」

「もちろん北島くんの言い分もわかる。ただもう少し彼に時間をあげてもいいんじゃないかな?」

「それは・・・」


 北島は言葉が出せず、黙ってしまう。


「それに」


 優しい笑顔のまま、校長は言い放つ。


「チャンスを与えても無能と判断されるなら、それが彼の実力。その時は即刻退学にすればいい」

「えっ・・・」

「『中途半端な夢や希望は捨てさせる』。君の教育方針にもぴったりじゃない」


 いつも穏やかで優しい校長の無慈悲な発言に、北島は言葉を失う。


「騒動の件もだけど、彼が今後どうしていくのか、楽しみだねぇ」


 北島は校長の優しい笑顔に初めて恐怖を抱いた――。


 * * *


「――ていうことがあって帰りが遅くなったんだよ」


 維人の学校生活に暗雲がかかる中、維人は自宅の玄関で吉良との騒動について話していた。

 話を一通り聞いたアギーは腕を組んで溜め息を吐く。


 ――ネコが腕組みした。


「いやぁ~。それは大変でござったな」


 維人の苦労に共感するかのようウンウンと頷く。


「ところで、その吉良という男子、もしや義広よしひろという名では?」

「名前までは知らないけど・・・。知ってるの?」

「少々お待ちくだされ、確かデータベースに情報が・・・」


 アギーは白目になり、そこに大量の数字の羅列が高速で流れていく。


 ――この瞬間だけ完全にロボットなんだよなぁ・・・。


 普段、生物としての猫にしか見えないアギーだが、機能を使う時だけは完全にAIロボットと化す。

 猫が急にネコロボットになることに、維人は少し不気味さを感じた。


『ヒットしました』


 機械的な女性の声が、アギーの体の中から発せられる。


「やはり! 拙者の予想通りでしたぞ!」


 普段の猫の姿に戻って話を続ける。


「吉良義広殿。代々霊術師として活躍する吉良家の長男で、入学試験も好成績で合格・・・完全なエリート野郎ですな!」

「そんなすごいやつだったのか・・・」

「こんなエリートに目を付けられたということは・・・これは厳しい道のりになりそうですぞ」

「・・・そうだね」

「維人殿。その、大丈夫ですか?」


 心配そうに見つめるアギー。

 それに対し、維人は平気そうな顔で応える。


「今日は家族のこと侮辱されてついカッとなっちゃったけど、もう大丈夫。次からはちゃんとコントロールするから、安心して」

「維人殿・・・」

「それに」


 維人は笑顔でアギーに言う。


「俺の目標は霊術師になることだから。あんな嫌がらせくらいスルーできるようにならなきゃ」


 維人の言葉を聞いていたアギーは突然両前足を上げて万歳のような格好になる。


「素晴らしい! さすが維人殿! アギーは感動しましたぞ!!」


 子どもの成長を見た親くらい大喜びするアギー。


「まさかあの維人殿がこんな立派になられたとは・・・」

「ウチに来てまだ二週間しか経ってないじゃん」


 ある事情で二週間前から一人暮らしをしている維人。

 そんな維人を心配してか、両親は巷で話題のAIロボットを買って家に置いていった。

 それがアギー。最新AIが搭載された、()()()()()()()()()()()()()

 ちなみに名付け親は維人。由来は、数年前に開発された汎用人工知能『AGI』が搭載されているため、そこから取った。

 その話をアギーにしたところ、最初こそ「何と安易な」と小馬鹿にしていたが、今では随分と気に入っているようだ。自分のことをアギーと呼ぶくらいには。


「確かにそうですが、拙者は維人殿の()()()()のデータをインプットされております。どれだけ成長されたかはきちんとわかりますぞ!」

「えっそうなの!?」

「いくつまでおねしょしていたかも把握していますぞ?」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるアギー。


「・・・アホAIのくせに」

「なっ! 拙者は汎用人工知能ですぞ! すごく賢いんですぞ!」


 プンプンという音が聞こえそうな程、怒りを体全体で表現するアギー。


「はいはい。で、吉良に関しての情報は他にないの?」


 今後また絡まれた時の対策として、維人はもう少し吉良の情報が欲しかった。


「あ、そうでしたな。他に何か情報は・・・おや?」


 アギーが「これは・・・」と神妙な面持ちで呟く。


「アギー? どうした?」

「いえ。少々気になる情報が」

「どんな?」

「吉良義広殿の()()()に関してなんですが――」


 そう言いかけたところで、ピピーッという電子音がキッチンの方から鳴った。


「あ! ちょうど真鯵まあじが焼き上がりましたな!」


 アギーはトコトコと四足歩行でキッチンへ歩いていく。


「アギーって普通に料理してるよね」


 アギーが言いかけたことを気にしつつも、とりあえず後を追う維人。


「拙者には料理機能が備わっている故、当然です」

「そんな見た目なのに?」

「? 拙者はネコ型ロボットではありますが、普通の猫だって料理くらいしますぞ?」


 ――普通しないよ・・・。


 どう想像しても、猫の料理姿は違和感しかなかった。


 その後、アギーが言いかけたことはすっかり忘れて聞かずじまいだった維人。

 こうして、激動の入学初日が終わったのだった――。

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