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襲撃②

今回はシリアスな内容です。

 午前十時十二分――。


 霊術秩父高校。北棟。


 第二の爆発の後、職員室にいた北島は同僚に生徒たちの安全確認を任せ、急いで保管室に向かっていた。



 ――まさか校長の予感が当たるなんて・・・!



 思い出される校長との会話。


 取り越し苦労で終わるはずの嫌な予感が現実になってしまった。



 ――もし狙いが()()なら・・・!



 真の目的があるのだとしたら、それこそが一番最悪の事態。


 校長から預けられた鍵を握りしめる。


 とにかく一秒でも早く保管室に到着するため、北島は身体強化霊術で校内を猛スピードで駆けていく。



 ――それにしても・・・。



 移動しながら周囲の気配を探る。


 誰もいないと錯覚するほどの、あまりに静かな校舎。


 先程の犯行声明から、敵はすでに校内に侵入している。にもかかわらず、北棟には人の気配がない。



 ――ということは・・・。


 距離があって感知しづらいが、おそらく敵は生徒たちがいる東棟を狙った可能性が高い。


 職員室や校長室など、主に教師たちがいる西棟にも、今では敵が攻め込んでいるかもしれない。


 何より問題なのは、現在の霊術高校には校長や生徒会など、()()()()がほとんどいないということ。


 いずれにせよ、この時間に人が西棟と東棟に集中しているのを知った上での動きは、間違いなく敷地内や今日のスケジュールを熟知している。


 外部の者()()では絶対に不可能なレベルの計画的犯行。



 ――内通者。



 認めたくはないが、その存在はほぼ確実だろう。教師、生徒、その他の関係者、誰が内通者であっても不思議ではない。当然、折りよく不在の校長という可能性も十分にあり得る。


 様々な想像が頭を過るが、北島は一旦内通者探しを止め、侵入している敵について考えることにした。


 静寂しじまというテログループの数や戦力、統率力は一体どれ程なのか。なぜこの学校を狙い、どのような目的を果たしたいのか。できる限り多くの情報を迅速に収集したい。


 北島としては、『自分と同様の霊術師として所属している教師たちや実力のある生徒たちで敵勢力を制圧し、その後すぐに外部からの応援が来てくれる』というのが理想。


 一番考えたくないケースは、国内外で()()()()されているようなレベルの邪術師じゃじゅつしが数人いる。または霊術への対策を完璧に取っている。



 ――もしその両方だった場合は・・・。



 想像するだけで身震いしてしまう程の危機的状況に陥るだろう。


 たとえ北島の霊術を以てしても、状況を打開するのは困難を極める。それ程の危機的状況に。



「・・・さすがに考えすぎか」



 ようやく保管室が視界に入る。


 周囲への警戒をより高めつつ、慎重に近づいていく。


 金庫を取り出したら、校長の指示通り渡された鍵と一緒に収納霊術で隠す。


 その後、すぐに東棟へ向かう。


 脳内で今後の動きをシミュレーションしながら保管室の扉に手をかける。



 この時、北島は気づけなかった。


 背後で響く()()()()()に――。



 * * *



 北島が保管室に着く少し前――。


 霊術秩父高校。第一爆発現場の資材庫付近。


 急ぎ駆けつけた教師たちは周囲を警戒しながら、燃え盛る炎に包まれている資材庫を霊術で消火していた。



「もうすぐこっちは終わるぞ! そっちは連絡ついたか?」



 豪雨、とまではいかないが、それなりに強い雨のおかげもあって、消火活動は順調に進んだ。


 まもなく鎮火となる頃、消火を担当していた教師の一人が、同行している他の教師に声を張って尋ねる。



「・・・ダメだ! 何度やっても繋がらない!」



 外部との連絡が全く取れない。完全に電波が遮断されている。それも、人為的かつ広範囲で。



「じゃあどうするんだ! 敵が近くにいるかもわからない状況なのに、霊術師の俺たちが学校を離れろって言うのか!!」


「・・・仕方ない。総務課の事務員に応援を呼んでもらう! 敷地外へ出られないということはないはずだ! 今すぐ総務課へ・・・」



 教師たちが西棟へ戻ろうと振り返る。



「!? 誰だっ!!」



 そこには、武装した男が怪しげな笑みを浮かべて立っていた。


 言葉を発さず、ただ教師たちをニヤニヤと見つめている。



「この距離にいて誰も気づけなかった・・・?」


「こいつ・・・霊力がない」


「じゃあ非適合者か?」


「だとしたら問題ない! すぐに霊術で拘束する!」



 教師の一人が男にむけて手をかざす。


 すると、男はグレーを基調とした迷彩柄のジャケットに手をかけた。


 微かに、男の体から()()()が鳴っているのが聞こえる。



「待て! 様子がおかしい! 一旦霊術は使わずに拘束を――」


「そんな悠長なことしてられるか!!」



 教師は構わずに霊力を練り上げていく。


 微かだった電子音が、徐々に大きくなる。



「この音が聞こえないのか!? もし罠だったらどうするんだっ!!」


「どうせ大した罠じゃない! こいつらができることなんてたかが知れてる!!」


「おい待て!! やめろっ!!!」



 引き止める言葉も虚しく、霊術が男に放たれる。


 同時に、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべていた男はジャケットを勢いよく開く。



「「「!!?」」」



 男の体に巻きついている幾つもの爆弾が視界に入る。


 霊術が近づいていくにつれ、爆弾はさらに大きな電子音を鳴らす。


 イカれた眼で教師たちを見ながら、狂ったような奇声をあげる男。


 どこか笑っているようにも聞こえる不気味な奇声が周囲に響き渡る。



「くそっ!!」



 霊術が当たる直前、男は手を広げて天を仰ぐ。大粒の雨が顔に当たるのも構わず、むしろ気持ちよさそうに浴びながら、空に浮かぶ分厚い雨雲のその先を見つめる。


 遠くの雲が光を放ち、雷鳴を轟かせるのと同時、天を仰ぎ見ていた男は高らかに叫ぶ。



霊皇れいこう様!! 万歳ッ!!!」



 刹那、男の体が眩い光に包まれる。



「!! 全員、防御霊術で身を守――」



 容赦のない爆発が一瞬にして広がる。



『バッゴオォォォォォン!!!!!』



 周囲を吹き飛ばす威力の爆発と鼓膜が破れそうな程の轟音が鳴り響く。


 辺り一帯は爆煙と砂煙に包まれ、状況は把握できない。


 教師たちの生死は不明。唯一わかることは、敵の男が即死だったということだけ。



 こうして、十時から僅か二十分足らずで三回目の爆発が起こったのだった――。



 * * *



 同時刻――。


 九谷津がいる一年七組は第三の爆発によってまたも絶叫に包まれた。



 ――なんなんだよ・・・この地獄はっ!!!



 絶叫が響く中、九谷津は頭を抱えて目を瞑る。どうか悪い夢であってくれと願うように。



「どうした? 向かって来ないのか?」



 戦闘態勢に入っていた蒲瀬は歯を食いしばる。



「くっ・・・!!」



 発動しようとしていた霊術を止め、霊力を体内に留める。


 今の爆発により、先程()()()()ことが嘘ではなかったと証明された。



「どうやら理解したようだな。霊術高校の生徒は()()で助かるよ」



 嘲笑あざわらいながら、銃口を蒲瀬の胸に当てる。


 クラスメイトたちの顔から一気に血の気が引いていく。


 それでも、蒲瀬は鋭い眼差しで敵の男を睨みつける。



「僕は将来霊術師になる男だ! こんなことでビビると思うなよ!!」


「・・・これでもか?」



 男は胸に当てた銃口に力を入れた。


 引き金に指がかかる。



 ――蒲瀬っ! ・・・くそっなんで動かねえんだよ!! 動けよ俺の足!!!



 どれだけ動けと命令しても、恐怖で雁字搦めにされた体は一つも言うことを聞いてはくれない。


 それは九谷津だけでなく、他のクラスメイトたちも同様。


 誰一人、勇気を出して助けに入ろうとしない。いや、入れなかった。


 そんな中、まだ光を宿す蒲瀬の目。一切の輝きを失わない、強い光を放つ。



「・・・()は命を張って僕たちを守ってくれた! そんな彼がいない今!! このクラスを守るのは僕の役目だ!!!」



 膝をガタガタと震わせながら、蒲瀬は懸命に声を張り上げる。


 それは相手への威嚇もあるが、一番は諦めて屈してしまいそうな自分の心を奮い立たせるためだった。



「・・・ふんっ。 まあいい」



 不満を露わにしながらも、男は銃口を蒲瀬から離す。


 緊張から解放された蒲瀬は全力疾走した後のように、肩で大きく息をする。



「いいか! お前たちが()()()使()()()、俺たちの体に巻きつけられた爆弾が爆発する!」



 男は親指で胸を指す。



「言っておくが、外部への通信も無駄だ! 校舎の外にだって出られはしない!」



 男は再び銃口を向け、反抗の意思を削ぎ落とす。


 クラスメイトたちは声にならない声で悲鳴をあげて身を縮こまらせる。


 教室が恐怖によって完全に支配された瞬間だった。



「これより、お前たちを大講堂へ移動させる! もし逃げようとしたり不審な動きをすれば、即座に殺す! 死にたくなければ言うことに従え!!」



 言い終わると、他の男たちが「おら、さっさと動け!」と銃口をちらつかせながらクラスメイトたちに命令する。


 数だけでいえば三十対三。明らかに九谷津たちが有利の状況ではあった。


 しかし幾度の爆発と向けられ続ける銃口に心は疲弊し、加えて霊力は使えず、助けも呼べない。一縷の望みすらないような状況であれば、数的有利なんてものは簡単に覆ってしまう。


 移動中、腰が抜けたり、足が竦んで上手く歩けない者は容赦なく蹴られ、殴られ、髪を引っ張られ、強引に歩かされた。


 授業を行っていた教師は霊術師ではない一般教師だったため、無力さを痛感しながらも甚振いたぶられる生徒たちを見て見ぬふりする始末。


 その光景は、誰もが目を覆いたくなるような希望も何も無い惨状だった。



 ――維人・・・・・・維人っ!!!



 絶望の最中、九谷津は心の中で必死に何度も叫ぶ。


 無様で情けないことは百も承知の上で、伝わる筈のない維人に助けを求める。


 今の自分にできることはそれだけだった――。

次回、維人登場です。

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