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再戦①

 維人と衣笠の会話を遮る大声。維人たちは声の方を見やる。



「うげっ! 吉良じゃん・・・」



 苦虫を噛み潰したような顔の九谷津。


 吉良は鬼の形相で維人に迫る。



「テメェ!! 鼻の下伸ばして詩織のこと見てんじゃねえよ!!」


「み、見てないよ」



 ――ちょっとドキドキはしたけど。



「嘘つけ!! キモい目で見てただろうがっ!!!」



 維人の衣笠に向ける視線には下心があったと、吉良はそう決めつける。



「大丈夫か? 詩織」


「えっ。う、うん」



 名前呼びをする吉良に対して、少し戸惑った様子の衣笠。何だか二人には温度差があるように見える。どっちが高くてどっちが低いかは言うまでもないが。



「どうしてこんな底辺のヤツらと話してんだよ。なにか弱みでも握られてんのか?」


「い、いや。そういうわけじゃ」


「あ! もしかしてあいつらに脅されて?」



 衣笠はブンブンと頭を振る。



「弱みを握られてないし、脅されてもないよ」


「じゃあどうしてこんな三下以下のウジ虫なんかと?」



 いつの間にか、維人たちを無視して吉良と衣笠は話し出す。正確には吉良が一方的に衣笠に話かけているが。



「聞いたか? ウジ虫だってよ、俺たち。初めて虫呼ばわりされたわ」


「俺だって初めてだよ」



 ――それにしても・・・。



 ()()と雰囲気が違いすぎる。こんな態度と口調は見たことがない。


 今の吉良は維人にも絡んだりせず、とにかく衣笠の身を案じている。


 ただ、下手に話しかければ吉良から怒声を浴びせられる可能性は高いため、迂闊な行動は取れない。



「なあどうする? バレないうちにこのまま逃げるか?」


「そうしたいけど」



 チラッと衣笠を見る。



「衣笠さんは俺に聞きたいことがあるっぽいし・・・」



 どうしたものか、と九谷津と一緒に頭を悩ませる。



「吉良くん。私の心配をしてくれるのは嬉しいんだけど、話しかけたのは私の方だから。だから心配しなくて大丈夫だよ?」



 丁寧でお淑やかな対応。育ちの良さが垣間見える、衣笠なりの優しさで吉良を落ち着かせる。


 しかし、それがかえってまずかった。


 衣笠のことを心配して声をかけたのに、衣笠は遠回しに「余計なお世話」だと吉良に言っている。少なくとも、吉良はそう感じた。


 案の定、ギロッと維人たちを睨みつけて、行き場のない怒りをぶつけてくる。



「おい無能! 俺と勝負しろっ!!」



 ――なんでそうなる・・・。



 完全に腹いせもいいところだ。


 しかし、この一言が思いも寄らない展開を招くことになった――。



 * * *



 霊術秩父高校。保健室。


 維人に敗北した男子が頭に包帯を巻いてベッドに横たわっている。



「気分はどうだ?」



 様子を見に来た北島が声をかける。


 チラッと北島を一瞥した後、男子は天井を見つめて呟く。



「大丈夫です」


治癒ちゆ霊術をかけてもらったから大丈夫だと思うが、一応帰りまで安静にしていろ」


「わかりました」



 維人の一撃を受ける直前、男子は咄嗟に身体強化で全身を硬化させた。残りの霊力を全て使って。


 結果、一撃は男子の硬化を容易く破り、決定打となった。



「あの最後の一撃・・・あんな霊術、見たことも聞いたこともないです」


「・・・」


「あいつは普通じゃない。先生はなにか知ってるんですか?」



 維人に対する軽蔑の目は、もう男子にはなかった。



「正直な話。私にもわからない。ただ、秦が普通じゃないという意見には私も賛成だ」


「・・・」


「模擬戦中に何かあったのか?」



 天井を見つめていた男子は少し険しい表情になる。



「・・・あいつの掌底が当たった時、一瞬()()()()ました」


「? どういうことだ」


「俺にもよくわかりません。初めての感覚だったので」


「・・・」


「でもあの感覚は・・・上手く言葉に出来ないんですけど、明らかに異常でした」



 不意に北島の脳裏に校長の言葉が過ぎる。



『もっと面倒なところからだよ』



 一体、秦維人は何者で、どんな秘密を抱えているのか?


 北島は維人に対する疑念をさらに深めた――。



 * * *



 場面は戻り、第一訓練場。


 維人と吉良はなぜか対峙する形になっていた。


 維人たちの周りを野次馬たちがぐるっと囲い、「早くやれー!」と口々に野次を飛ばす。


 吉良は首をポキポキと鳴らし、やる気十分で()()()()に入っている。



 ――どうしてこんなことに・・・。




 遡ること数分前――。

 

 吉良の「勝負しろっ!!」という宣戦布告が周囲の耳に届き、ぞろぞろと集まりだした。



『なになに? ケンカ?』



『無能君とあの吉良がなんで一緒に?』



『もしかして、三角関係ってやつ!?』



 純粋な疑問からとんでもない憶測まで、様々な言葉が訓練場に飛び交う。


 ()()()()()()と呼ばれている衣笠もいたことで『維人と吉良が衣笠を取り合っている』という話題で固まり、勝手に盛り上がりだす。



『模擬戦()()()()()の二人がやるとか激アツすぎっしょ!?』



『つってもあの吉良だぜ? さすがに分が悪すぎるだろ』



『ちょっとわたし吉良君が負けるところ見てみたいかも』



 大いに盛り上がり、沸く訓練場。


 その熱量はもう後には引けない程まで高まってしまっている。



『維人。どうすんだよこれ・・・』


『・・・』



 衣笠も困惑した表情を浮かべている。


 チラッと維人を見た彼女の表情はとても申し訳なさそうだった。



『おい無能』



 吉良は再び維人に告げる。



『俺と勝負しろっ!!!』



 こうして維人は吉良と対峙することになってしまった――。




 現在。どうにかして戦わない方向に持っていきたい維人はダメ元で吉良に説得を図る。



「あの、やっぱり止めない? 勝手にこんなことしたらマズイよ」


「あ? 今更怖気づいてんのか? ダッセーやつだな」



 少しムッとした表情になる維人。



「維人! あんな安い挑発に乗んなよ!」



 隣の九谷津が二人の間に割って入ろうとする。



「黙ってろ三下がっ!! ぶっ殺すぞ!!!」


「な、なんだよ。や、やんのか?」



 そう言いながら、ササッと維人の後ろに隠れる。


 完全に吉良の一喝にビビった九谷津。



「さあどうすんだ? やるのか? やらないのか?」


「・・・申し訳ないけど、やっぱり戦えない」



 維人の言葉に一斉にブーイングが沸き起こる。



「ハッ! やっぱりテメェは無能のカスだな! 親が親なら子も子ってか!!」


「・・・なにを言われても、戦うつもりはないよ」



 アギーとの()()を守るため、感情が昂りそうになるのを抑える。


 ここで戦ったところで、メリットは何一つない。


 戦うなら正式な模擬戦で、正々堂々と戦いたい。吉良や周りが何を言おうと、維人のその意志は固かった。



「そうか。それなら仕方ねえなぁ・・・」



 ニヤリと不敵の笑みを浮かべる吉良。


 嫌な胸騒ぎがする。



「!!」



 吉良の体が揺らめいたと思った瞬間、維人の()()に吉良が現れる。



 ――早っ・・・!



「仕方ねえから一方的にぶっ殺してやるよっ!!!」


「くっ!!」



 あまりの吉良のスピードに、躱しきれず腕でガードする。


 吉良の刃は霊力に強い筈の訓練服を切り裂き、維人の腕に切り傷をつけた。


 しかし維人は怯まず、追撃の刃をガードしてすぐさま反撃に転じる。



「!?」



 吉良はそれを読んでいたかのように維人の蹴りを躱して少し距離を取る。



 ――攻撃動作を読まれた・・・?



 吉良の急襲を何とか凌いだ維人。切られた腕からは血が流れ、ポタポタと地面に滴り落ちる。



「ゆ、維人っ! 大丈夫か!?」


「大丈夫。九谷津も危ないから離れてて」


「お、おう・・・」


「詩織。危ねえから下がってろ」


「う、うん・・・」



 九谷津と衣笠は心配そうな表情を向けながら野次馬たちの位置まで離れる。



「えっと。九谷津君、だっけ?」


「えっ・・・あ、は、はいっ! そうです! 自分、九谷津って言います!!」


「あの、私、今何が起きてるのかわからなくて・・・」


「・・・俺もよくわかんねえっす」



 こうなったのはあなたが原因です、とは言えない九谷津。


 今自分ができることは、傍観者として行方を見守ることだけ。二人の間に入って止めることなど到底できない。



 ――情けねえな・・・。



 九谷津は自分の情けなさに、ふっと自嘲的な笑みを浮かべた。


 少し間を空けて隣に立つ九谷津と衣笠は不安な面持ちで維人たちを見つめる。



「どうした? かかって来いよ!」


「・・・」



 また不敵な笑みを浮かべて維人を挑発する。


 それに対し、維人はじっと吉良を見つめるだけで、全く動く気配を見せない。


 吉良は大袈裟に溜め息を吐く。



「せっかく先に攻撃させてやろうと思ったのによぉ」


「・・・!!」



 また吉良の体がユラリと揺れる。



「だからテメェは無能なんだよっ!!」



 刹那、再び眼前に現れる吉良。


 刃と化した右腕を維人に振り下ろす。



「どうする! また無駄なガードでもするか?」


「心眼流・穿――」


「遅えよ!!」



 一閃。吉良の刃が維人を切り裂く。



「くっ・・・!!」



 咄嗟の判断で後方にジャンプし、ギリギリ致命傷は回避できたものの、確実に体へのダメージは蓄積している。



 ――前の時と()()()に違う・・・。



 維人への攻め方がまさにその違いを物語っていた。


 吉良は余裕そうに笑って、維人を煽る。



「おいおい! どうしたぁ!! まさかこんなもんじゃねえよな? こんなんアップにもならねえぞ?」


「・・・どうして攻撃動作をよ――」


「読めんのかって? んなもん決まってんだろ」



 人差し指でこめかみをトントンと叩く。



「前に見て記憶したから」


「そんなこと」


「できんだなあ、これが。俺はテメェと違って優秀だからよ」


「・・・」


「だからテメェのクソみたいな武術はもう俺には通用しねえ」



 吉良の態度や表情から、ハッタリではないと伝わる。本当に、維人の武術は()()()()と確信しているようだ。



 ――まさかここまで・・・。



 吉良の才能がこれ程までにずば抜けているとは想像していなかった。


 維人の体に冷や汗が浮かぶ。



「ようやく理解したか? これが無能のテメェとエリートの俺との絶対的な差だ!!」



 そう言い放つと、再び戦闘態勢に入る。



「だからこれでテメェとの勝負はケリをつけるっ!!」



 吉良の両腕が青い光を放つ。目で見てわかるくらいの、かなりの霊力。



 ――来る!!



 維人は瞬時に構える。



「無様に散れ!! 破刃紅牙はじんこうが!!!」



 吉良義広の才能が維人に襲いかかる――。

戦闘描写って難しい・・・。

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