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証明

 二組と七組の合同演習。


 維人はここまでの模擬戦を全勝し、三勝目をかけて二組の男子と対峙していた。



「始めっ!!」



 開始の合図と同時に地面を蹴り上げ、猛スピードで維人に向かう男子。

 


「ふぅ・・・」



 短く息を吐いて、維人は相手の動きを観察する。



「さくっと終わらせてやる! 霊気纏身れいきてんしん!!」



 男子の両腕に霊力が纏われ、青い燐光を放つ。霊力操作によってスピードやパワー、耐久力を高める、()()()()霊術。入学して最初に習う、基礎霊術の一つ。


 霊力で両腕のパワーを強化し、維人の懐に飛び込む。



「もらった!!」



 男子の拳が維人の腹部にめり込む・・・はずだった。



心眼流しんがんりゅう紙縁しえん



 身体を捻り、紙一重で拳を躱す。あまりに滑らかな回避。


 まさか躱されると想像していなかった男子は上擦った声をあげる。



「へ? なん――」


「心眼流・穿衝せんしょう



 捻った身体を急速に戻す。その回転と前のめりになった相手の勢いを利用した掌底を打ち込む。以前、吉良にも放ったのと同様のカウンター攻撃。



「でぶっ・・・!!」



 維人の掌底が男子の顔面にめり込み、一瞬で数メートル先まで吹き飛ぶ。



「・・・くっそ!!」



 鼻血を出しながら立ち上がる男子。足元はかなりふらついているが、その目はまだ全然死んでいない。



「無能が! ナメんなっ!!」


「・・・」



 普通であれば一発で立ち上がれなくなる程の威力がある穿衝。それを受けてなお立ち上がる男子の姿に、維人は笑みを浮かべる。



 ――やっぱりすごい・・・!



 今まで手合わせした者の中でもかなりの強さ。霊術高校のレベルの高さに、維人のワクワクは止まらない。



「纏身!!」



 先程以上の速度で再び向かってくる男子。しかし速度は上がっても、()()攻撃パターン。


 維人はカウンターのタイミングを取る。



「・・・穿しょ――」


「かかったな!」


「ッ!」



 再び穿衝を放った維人。だがそれは空を切る。


 男子は手前で急停止し、地面を蹴り上げて方向転換。一気に維人の右側面に回り込む。



「おまえの攻撃はもう見切ってんだよ! 霊気炎れいきえん!!」



 男子の手の平から火球かきゅうが放たれる。これもまた、霊力を()()()()に変換する基本的な霊術の一つ。しかし身体強化とは異なり、かなりの霊力を消費するため入学一ヶ月で使える者はあまりいない。



「!!」



 ゴオォォォーーン!!


 火球が維人に直撃し、爆発と共に黒煙が立ちのぼる。



「オラァ!!」



 さらに火球を放ち、幾つもの火球が維人に迫る。



「まだまだぁ!! 纏身!!」



 追い打ちをかけるように身体強化で追撃を狙う男子。一気に勝負を決めにかかる。



「これで終わりだっ!!!」



 渾身の連撃で男子の勝利。そう誰もが確信した――。



「――()()



 突如、払われる黒煙。直撃寸前だった火球も黒煙と共に勢いよく上空に弾かれ、そのまま爆ぜる。



「なっ!?」



 ほぼ()()の状態の維人。


 大きな爆発音が鳴る中、男子は怯まずにそのまま維人に突っ込む。渾身の一撃で勝負を決めるために。



「ざけんなっ!! それでも俺の勝ちは変わらねえ!!!」



 維人は静かに構える。



「・・・!?」



 刹那、男子は静寂に包まれる。突然陥った音のない世界。維人の動きだけがゆっくり、はっきりと見える。



「心眼流・霊気穿衝れいきせんしょう!!」



 放たれる一閃。


 決着はすぐについた――。



「そこまで! 勝者、秦!!」



 開始から僅か三十秒足らず。息詰まる一戦を制したのは維人だった。これで合同演習の模擬戦は三戦全勝。完璧な結果を示すことができた。


 一方、周囲は驚きのあまり声を失っている。静寂に包まれる訓練場。


 しかし徐々に状況を理解しだすと、水面に波紋を打つようにどよめきが大きく広がる。波紋は他のグループにまで及び、最終的には訓練場全体がどよめきで包まれていた。



「な、なんなんだ・・・あいつは・・・」



「噂は本当だったってことか・・・?」



「あんなんありえねえだろ! 霊力もロクに使えねえのにっ!!」



 周囲には戸惑いや驚き、はたまた悔しそうな声が飛び交う。


 ピクリとも動かない男子に、戦闘訓練などで帯同している救護スタッフがすぐに駆けつけて状態を確認する。幸い、処置中に意識を取り戻し、特に大きな怪我も見られなかった。


 救護スタッフの制止を振り払い、男子は痛む身体を無理やり起こす。



「おまえ・・・なんだ、()()()?」


「? 普通の霊術だけど」


「そんなわけねえ・・・あんなの見たこと・・・」


「ちょっと! 無理して動いたら危ないから! ほら、保健室行くから担架乗って!!」



 そのまま救護スタッフに連れられていく男子。


 維人は男子の言いたかったことが何なのか、いまいちよくわからなかった。



「あの秦って男子、適合率一%の人だよね?」


「うん。でもあんなに強いなんて・・・」


「これで二組うちに全勝でしょ?」


「秦ってことはやっぱり・・・」


「・・・詩織? どうしたの?」



 ヒソヒソと話す二組の女子のうち、一人の女子が会話に混ざらず維人をじっと見つめていた。



「一度ここで休憩にする!」



 保健室に連れて行かれた男子の様子を見るため、北島は模擬戦を止めて休憩にさせた。


 北島が訓練場を後にし、各々が休憩を取り始める。



「おまえってやっぱすげーんだな・・・」



 九谷津は呆然としながら感嘆の声を漏らす。



「結構危なかったけどね」



 言葉とは裏腹に、いつも通りの表情の維人。それは底知れない実力を感じさせる。


 九谷津は少しだけ恐怖を抱いた。



「てか、俺よりも九谷津だよ。次勝たないと全敗でしょ?」


「あ、ああ。そうなんだけどよ・・・」



 演習の最初にかなり息巻いていた九谷津だったが、いざ模擬戦が始まるとその勢いは瞬く間に鳴りを潜めた。


 初戦は、



『今日の俺は一味違うぜ?』



 と堂々と言い放ち、開始一分経たずに相手の纏身による身体強化でみぞおちを強打され、堪らず降参して一敗。


 二戦目は、



『さっきのはウォーミングアップよ! 見てろ!! 『蝶のように舞い、蜂のように刺す』俺の華麗なファイトスタイルを!!!』



 と鼻血を拭きながらカッコつけ、初戦よりは善戦するも相手の霊力を石や岩と化して礫のように放つ霊術の前に為す術なく時間切れし、判定で二敗目を喫した。


 次で最終戦。


 どうにか一勝を挙げたい九谷津だが、その自信はほぼ失いかけていた。



「あんなカッコつけてなんにもできずに負けたんだぜ? もうどうしたって無理だろ・・・」



 ――自覚あったんだ。



 その気持ちをぐっと堪え、九谷津を励ます。



「大丈夫。次でカッコいいところ見せて勝てば、九谷津が言ってるあの子も振り向いてくれるって!」


「でもよ・・・」


「ほら、よく言うじゃん! 『諦めたら試合終了』って。だから九谷津も諦めずにさ!」


「それかなり昔の名言だろ? さすがに古すぎて響かねえよ・・・」


「そんなことない! 昔の名言だって今に通じる部分はある!!」


「なんか妙にアツいな・・・」



 以前、大昔の偉人が残したとされる言葉を目にしてひどく感銘を受けた維人。


 それ以来、たまにネット検索して名言集を読んでいる。



「いいから! 最後くらい綺麗に散ろうよ!!」


「散ったらダメだろ!!」



 そんな他愛のない会話を交わす二人。


 休憩時間をゆっくりと過ごしている最中、突然二人の後方から声がした。



「あの・・・秦維人、君・・・?」



 振り返ると、そこには九谷津が話していた女子が立っていた。


 肩口で切り揃えられた、絹糸のようにつややかな美しい黒髪。白磁はくじのような透き通る白い肌に、慎ましくも目を惹く端正な顔立ち。訓練服がまるで正装に見える程の綺麗な着こなしは清楚さを感じさせ、育ちの良さがかなりにじみ出ている。


 誰がどう見ても可愛いいと口を揃えて言う。それ程の美少女。


 そんな彼女は、周囲の空気を柔らかくする優しい雰囲気も纏わせて維人を見つめていた。



「・・・えっ。お、俺?」



 急に名前を呼ばれたため、驚きのあまり自分を指差して確認する維人。隣の九谷津は維人以上に驚いて口をパクパクさせて完全に固まってしまっている。



「あ、急にごめんなさい! 実はちょっと聞きたいことがあって」



 頭を下げて謝り、控えめな感じで話を続ける。



 ――こんな美人さんが俺に聞きたいことなんてあるか?



 疑問を抱く維人。入学してからこれまで女子とほとんど会話をしてこなかったせいか、変に警戒してしまう。



「あの、人違いじゃ・・・?」


「えっ! だってきみがあの秦維人君だよね?」



 ()()という言葉が何を意味するのか、おおよその察しはつく。



「まあ、秦維人ではあるんだけど」


「そうだよね? 合ってるよね?」


「合ってはいる、けど・・・」



 横を向くと、まだ九谷津は口をパクパクさせて固まっている。



 ――いいかげん話に入ってきてくれよ!



 徐々に気まずさを感じ始め、維人は視線で九谷津に助けを求める。



「あ、そういえば自己紹介まだだったよね。私は二組の衣笠詩織いがさしおり。よろしくね! 秦君!」


「よ、よろしく」


「それで聞きたいことなんだけど、秦君って兄弟とかいる?」


「一応いるけど」



 維人の脳裏に一人の女性が浮かぶ。



「もしかしてお姉さん?」



 衣笠の表情がパッと明るくなる。



「そ、そうだけど」


「やっぱり!!」



 目をキラキラさせて維人に顔を近づける。


 維人も立派な男子高校生。可愛い女子の顔が目の前に来れば、否応なしに顔は赤くなる。



「も、もしかして、姉さんの知り合い?」


「知り合い、ではないんだけど」


「? じゃあなんで姉さんのことを?」


「実は前に――」



 維人と衣笠の会話を遮るように、唐突な大声が訓練場に響き渡る。



「おい!! なんでテメエが詩織と話してんだっ!!!」



 聞き覚えのある喧嘩腰の声。


 不吉な予感が維人の胸中に渦巻いた――。

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