表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

おっさん勇者、対峙する。助ける。

ええい、おっさんがくよくよしてても仕方がない。 腐っても鯛。


国に追放されたが、2回目の人生をやり直すことができたんだ。


これからは適度に頑張って、適度に力を抜いて楽しまないと。楽し…めるか?


独り言が乾いて響く。そんな瞬間――


ガサガサッという音とともに、茂みが激しく揺れ、赤い塊が突っ込んできた。


その塊が足元にぶつかった途端、俺の視界が強制的に空へと向かう。


地面にあおむけになり、反動で転がったことにようやく気づく。


「いてぇ…。何すんの!」


あまりの痛みに、俺はぶつかってきた物体に向かって声を荒げた。


半透明で直径30cmほどの饅頭型の体。中心に球状の物体。


あ、これ進〇ゼミでやったやつだ!スライムだ、これ。しかも…赤い?


スライムは跳ねて、俺の前にふるふると震えながら静止していた。


その直後、足音。男たちの怒声が聞こえる。


「希少種確認!拘束準備!」 「何かいる可能性が!各員注意せよ!」


目の前には10数人の兵士たち。装備からして、おそらく俺を最短で追放した王国の兵士だろう。 気にしてないよ、おっさん気にしてないからね。


俺は立ち上がり、状況を見渡す。赤いスライムが俺の後ろに隠れ、震えている。怯えているのか?


「たす…けて…」


スライムから声が聞こえた。美しくもか細い少女の声。キェアア!シャベッタアア!


もちつけ、いや落ち着け。この世界のスライムは喋るやつなのか…そ、そうかそうか。


その時だった。兵士の一人が眉をひそめ、鼻を押さえながら首を振っていた。


「なんだこの…これ…くっせぇ!」 「視界が揺れる…気持ち悪っ…おrrrrrrrrrr!」


俺と対峙した兵士たちが苦しみ始めた。吐いてるやつまでいる。


「報告にあった腐れ勇者か!この外道!」 「それでも勇者か!卑怯者!」


ひどい言われようだ。おっさん悲しい。


ただ、なぜ奴らが?周囲に毒?いや、俺もスライムも平気だ。 黒い靄。さっきより濃くなっている気がする。


こいつらが苦しんでいる原因は、このオーラか。くっせぇとか言われたけど、おっさんもう慣れた。 それなら、これを利用して…


「おい、噂は聞いてるだろ?俺はド腐れ勇者、不用意に近づかない方がいいぞ?」


兵士が後退する。俺は一歩踏み出し、対峙する。


「理由はわからねぇけど、寄ってたかって追い回しやがって!この子を渡すわけにはいかねぇ!」


戦わなければ。頼ってくれたこの子を守らなければ。それが今のおっさんにできること。


俺はスライムちゃんに隠れるよう伝えると、脱兎のごとく隠れていった。速いな。まさかメ〇ルスラ… やめておこう。集中しろ。


「各員、動けるものから切りかかれ!」 「うおおおおおおお!」 「俺、あいつを仕留めて田舎の父ちゃんに仕送りするだよおお!」


命令とともに兵士たちが切りかかる。だが、俺のオーラのせいか、動きが鈍い。


これなら俺からーー


俺は、向かってくる兵士をオーラで包み込むようにイメージする。 蠢いていたオーラが離れ、俺の意思を写すかのように兵士に向かっていき、飲み込んだ。


「なんだ、この…うわあああああああああああ!」


飲み込まれた兵士は叫びながら頭を抱え、地に膝をついた。 うわごとのような声が聞こえるが…ご愁傷様。


とりあえず効いてる。この調子でいこう。


「おい、やべえぞ、あいつ!」 「あの黒いのに気をつけろ!」 「各自、散開して同時に攻撃しろ!」 「おら、もういやだよおお!」


どうでもいいけど、さっきから田舎訛りの兵士が一人いるな。なんかごめんな田舎者。


俺は兵士たちの波状攻撃をかわしながら、オーラで少しずつ数を減らしていく。


しかし、まだ数が多い。あまり動いていないのに疲れが…運動不足か。


疲労のせいだろうか。背後から襲ってきた兵士への反応が一瞬遅れた。


「ここまでだ!人間の姿をした悪魔め!」


切られるーー俺は反射的に目を瞑る。


「ぐあっ!」


切りかかった兵士の声。傷は…ない。目を開けると兵士が倒れている。


先ほどの赤いスライムが兵士にぶつかり、俺を助けたようだ。


「隠れてろって言ったのに…でもありがとう。」


「ぐっ…スライムのくせに…こいつっ!」


倒れた兵士がスライムを蹴り飛ばす。とてつもない勢いで、俺の足元まで転がってくる。


「うぅ…。」


スライムから苦しそうな声。俺は…守りきれなかった。 俺はまた繰り返すのか…。


冬峰時代の記憶がよみがえる。怒り、諦め、悲壮――様々な感情が心を蠢く。


「お前ら、もう容赦はしない。」


言い放った瞬間、纏っていたオーラがさらに色濃く、大量に巻き上がる。


黒いオーラは俺を中心に漂い、周囲の木々を、赤スライムを、兵士たちを飲み込もうとする。


「ま、まずい!総員退避!直ちにここを離れろ!」 「なんなんだあいつは!魔王の生まれ変わりか!」 「イヤアア!おらまだ死にたくねえだよお!」


兵士たちは蜘蛛の子を散らしたように去っていった。静寂が訪れる。


終わったのか…。


ほっとした、その次の瞬間。全身から何かが抜け落ちるような感覚。 急激に力が抜ける。


視界の端が黒く染まり始める。耳鳴りもない。ただ、音が遠のいていくだけ。


「あの子は…大丈夫か…あれ…?」


最後に吐き出した声が、自分でも聞こえていたかどうかわからない。


最後に見えたのは向かってくる赤い丸い彼女。よかった。


赤い輪郭だけが残っていた俺の世界は、静かに闇に溶けていった。






小説を閲覧いただきありがとうございました。


少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




不定期にはなりますが


少しずつ更新していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ