おっさん勇者、異世界に立つ。助けて。
異世界転生。この言葉を聞いて何を想像するだろう。
見知らぬ世界に転生することへの期待やワクワク。
はたまた不安や恐れのほうが勝つだろうか。
あー転生ね、よくある展開ねwもう見飽きたわw
転生俺氏最強w俺氏無敵wこの世界の神になるw
そんなテンプレ展開を思い描く人も多いかもしれない。
結論からいうと俺はそのどれでもなかった。正確にはそれどころじゃなかった。
それよりもはるかに気になることが…。
「こ、これが勇者…だと…?」
「お許しください陛下!とても近寄れません!」
目を開けると、そこには見知らぬ大広間。
豪華な衣装を纏った王と貴族が、壇上から俺を見下ろしていた。
甲冑を着た兵士達、ローブに杖を持つ魔法使い。
足元には光る魔法陣。どうやら中世の西洋風の世界らしい。
そのどれもがどうでもよくなるくらい気になる。
これ…俺のオーラ?なぜ俺はこんなにどす黒いんだ?
なに…この…何?マント着てないのに全身黒すぎて
顔のないカオ〇シみたいになっちゃってるから。
いやしかし、なんで…確かに転生前も、
若干おっさん臭が…少々スメってたけども、それとは比じゃない何かよ、これ。五感で感じる何か。
ああ、ひそひそが気まずい。おっさんしんどい。とりあえず何か話さなければ。
「あの…ひょっとして俺…匂ってます?」
刹那、訪れる静寂。笑わせようと思ったのに、時が止まったかと思った。
その静寂を切り裂くようにこの国の王が叫ぶ。
「匂うなどという生易しいものではない!!」
それを皮切りに始まる阿鼻叫喚。
「ぐああああああ!目があああ!目が焼けるううう!」
「これは…呪いというにはあまりにもおぞましすぎる…!」
「窓を開けろ!いや、風魔法でこいつごと上空へ吹き飛ばせ!」
「なぜだ…なぜこの男からこの世の理を歪めるほどの悪臭が…ぐぁっ!」
周囲の人々が耐え切れずバタバタと倒れていく。目や鼻を抑えてうずくまる兵士、
倒れずとも涙目で逃げ出す貴族、最後の力を振り絞り呪いの解除を試みる宮廷魔導士。
だが、誰もこのオーラ、いや、呪いに抗うことはできないのだろう。
これは…ひょっとすると非常にまずいのでは…。
小刻みに震えながら国王が声を上げる。
「勇者よ!わが国には貴殿の力は不要だ!すぐに追放する!」
追放。この世界に降り立って3分後のことだ。
勇者追放RTAならいい線行くんじゃないかな。不名誉すぎておっさん泣きそう。
「ちょちょ、ちょっと待ってください!いきなり異世界連れてこられて
そのまま追放ってあんまりでしょう!」
「貴様、王の御前で何たる振る舞い!無礼であるぞ!それにこの状況を見ろ、
普通なら即処刑だ、追放でもありがたいと思え!」
側近だろうか、黒髪の口ひげ中年が言い放つ。
「勇者召喚は失敗であったか。これからどうすれば…。」
「やはり盤石な状態で召喚するべきだったんです。このままでは我が国は…。」
どうやら急ごしらえで召喚したら俺が出てきたらしい。災難だったね。
「動ける衛兵はおらんのか!早くこいつをつまみ出せ!」
「先ほどの騒動で近衛兵は全滅、動ける兵は救護にあたっております!」
おっさんすごすぎない?本当に生きる災難だったわ。
「ええい、もう出て行け!頼むから出て行け!」
こうして何も分からずおっさんは追放された。
異世界って世知辛い。
小説を閲覧いただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
不定期にはなりますが
少しずつ更新していこうと思います。