97 修学旅行②
本業多忙のため、更新できませんでした。
函館にでも行きたかった・・・。
「登さん。腕が上がってこなくなったわ。やり直しよ。」
「はい!お義母さん。」
朝5時半。函館は道内では暖かいとはいえ・・・・真冬の朝は寒い。
朝から久子師範(御厨先生の姉)朝稽古。
「登~、私たちの未来のために、がんばりましょう!」
当然つばさも一緒だ。
なぜこうなった・・・。
あの朝・・・ゆりねえと言い争いで、気がつかなかった。
まさか、僕の部屋まで、久子師範がくるとは・・・。
「お取込み中いいかしら」
ゆりねえと俺は部屋の入口をそろって見た。
見覚えのある顔。久子師範だ。
「あ・・・し、師範・・・」
久々に会う久子師範。御厨先生と面影はあるのだが、ずっと引き締まった顔。眼光の鋭さは10年近くたっても変らない。
「え、ねえ、のぼちゃん、どちら様?」
初対面のゆりねえは、少々戸惑っている。そりゃそうだ。顔見知りの俺だって、そうとう混乱しているんだから。
「あ、つばさちゃんの、お母さん、なんだ。」
「初めまして、本城ゆりこさん。娘がお世話になったみたいね。」
「あ、いえこちらこそ、おせわになりました・・・。と、ところで、どうしてこちらに・・・」
少々、訝しげにゆりねえは尋ねた。
「決まってるじゃない、登さんを家で預かるためよ。」
『え!』
2人で感嘆の声をあげた。
「ど、どうして、俺がもどっていることを・・・」
「あら、隠せると思ってたの?ここじゃ、有名人でしょ?登くん」
「・・っく」
やはり・・・地元じゃ、やっぱり・・・誰かに気づかれたか・・・。
「の、のぼる・・・」
と、もう一人、久子師範の影から現れた。つばさだ。
「おめさが、帰ってきたって聞いて・・・迎えさきた・・・。やっぱ、奥地はつらいんだべ?家さ来て、一緒に暮らすべ?な?そうした方がええべ。源じいもええっていってる。な?な?」
「・・・・・」
「ちょ、ちょっとまってください。まだ、函館に帰るって決まってないです!」
すると、久子師範はスッと前に出てきた。
「ゆりこさん。これは、もう、佐藤家と久世家で取り決めたことです。部外者は黙っててください。」
「・・・・・どうしても?・・・つれてくっての?・・・」
ゆりねえの顔つきが変る。久子師範に負けない鋭い眼光を久世親子に向ける。
「・・・腕づくで止める気のようね・・ではこちらも、そちらの流儀で連れていくわ。」
「のぼちゃん離れて・・・・・」
「ゆ、ゆりねえ、やめろ。」
俺はゆりねえの両肩を抱えるように抱き寄せた。
「え、大丈夫よ、ぶらんくあったって、素人に・・・」
「ち、ちがう、久子師範は剣道じゃなく、剣術の師範だ、こんな狭い場所では、ゆりねえは勝てない!」
「ばかね、こっち元プロよ。負けるわけないでしょ」
そういって、俺の両手を振り払うと、久子師範に、真正面から向き合った。
そして、ゆっくり腰をおとし、レスリング選手のような姿勢をとる。
「ふふ。なかなかできるようね。この狭い場所では手足を振り回すよりいい選択だわ。」
久子師範はピンと背筋を伸ばすしたまま、ゆりねえを見据えたまま、微動だにしない。
俺とつばさは、息をのんで2人を見つめる。
すると、少しずつだが、久子師範が距離をつめてきた。
と、次の瞬間、ゆりねえが、久子師範に飛びつくようにタックルをかける。
が、久子師範はあっという間にかわし、体をいれかえ、相手の右腕をとり、後ろ手にして組伏せた。
一瞬で、勝負は決した。
「ここが戦場なら、あなたの首はとられているわ・・・。」
「っく・・・こんなこと・・・・」
組伏せられたゆりねえは、信じられないという顔で目を見開いていた。
実戦のための剣。剣術では、格闘技の要素も必要なのだ。スポーツを標榜している格闘技やプロレスとは、根本的に違う。まして、この狭い室内では・・・。
「じゃあ、登くんは連れていくわね。本城さん。」
そう言うと、組伏せたゆりねえからてを放した。
「・・・わかったわ・・・・。」
ゆっくり立ち上がると、ゆりねえは悔しそうに顔を伏せた。
「さ、いくべ、のぼる。」
そういうと、つばさは俺に歩み寄って俺の左腕をとった。
「手荒なことをして、ごめんなさい。ゆりこさん。でもね・・・・・」
久子師範はゆりねえに近寄ると、何事かを耳打ちする。
「さあ、下に車待たせてるから、いくよ。のぼる」
何を話してるのか気になったが、つばさに引きずられるように、部屋を出された。
階段を下りると、母が待っていた。
「かあさん、これは・・・」
「ここさいても、おめには、な~んもいいことね。久世の家さいって、婿修行さ、せ(しなさい)。」
「え・・・婿修行?」
「んだ。函館さもどってくる、てことはの、そういうことなんだで?わかってたっしょ?」
「・・・・・」
何も言い返せない。
「・・・さ、いくべ、登。」
「あ、着替えとか・・・」
「あとで、届けてやるから、気にすんな。行ってこい。登。」
なんか冷たくねーか?親なのに・・・・。
すると、久子師範とゆりねえが2階から下りてきた。
「では、ご子息をお預かりします。」
ははに一礼する久子師範。
「はい、よろしくお願いします。」
母も頭を下げる。
ゆりねえも一礼。
「さ、」
つばさに促されるまま、おれは玄関から連れ出された。
そして後部座に引き込まれる。運転席にはつばさのお父さん。久世尚成がいた。
「尚成師範・・・お久しぶりです。」
「おおきくなったね~。つばさや京子さん(御厨先生)から話は聞いてたけど。すっかり大人ぽくなって・・・」
「いえ、師範・・・まだまだ子どもです・・・・」
「師範はやめてくれよ~・・・お義父さん、って呼んでくれよ。ねえ・・・」
「え・・・・・・」
「いやだわ・・・気が早いわよ・・・・ねえ、登?」
顔を赤らめるつばさ。なんでそんなに乗り気なんだ。こんな泥縄な同居で・・・。
「いや気が早いものか。今日から、久世家に同居だ。将来の久世家当主として、しっかり修行してもらう。もちろん、つばさとは、婚約をしてもらうからそのつもりで。」
「はあ!ちょっと、聞いてないよそれ!」
「いんや、ご家族の同意もとれてるのよ。登さん。あなたは「久世登」になってもらうわよ。いいわね?」
「・・・久世登・・・・」
つばさはその言葉をきいて、両手をお祈りするように組んで、夢見心地になっている。
「久子師範・・・そんなに急いて、いいんか?」
「師範じゃない、お義母さん!・・と呼びなさい。」
「は、はい・・・・」
こうして、俺は、久世家に拉致された。つばさの婿になるため・・・。毎日の朝稽古、そして、家事。それはまだいいのだが・・・。
問題は昼食後だ。
「それでは、登くん、つばさとの仲を深める時間だ。デートにしなさい。」
初日から、お義父さん(尚成さん)にそう告げられた。
毎日だ。昼食後はつばさと過ごすことを強要される。
13時になるとつばさは俺のところにきて、腕組みして、出かける。出かけないときはつばさの部屋に監禁される。これが冬休み中ずっと続いた。
もう、俺に選択肢はないのかもしれない・・・・。
あ、修学旅行の話じゃなかった・・・。




