88 その結末をだれも望んではいない⑮
年末をむかえ、本業多忙でした。
主人公は一切出なくなってしまいました。
でもいいんだ。だって、一応、青春群像劇だから。
と言い訳をしてみる。
不安な気持ちを抱えたまま、放課後を迎えた。まっすぐ部室へ行く気がしなかった。購買横の自動販売機で飲み物を買うことにする。放課後の購買は閑散としている。自動販売機で、紙パックのコーヒーを買う。自販機の陰に隠れるように壁に寄りかかる。ストローを伸ばして、紙パックに刺す。
プス、と音を立ててストローは紙パックに吸い込まれていく。
朝のHRの後、登の話は出なかった。みんな意図的に触れないんだろう。誰もが、鈴木かなを、登が「都合のいい彼女にしようとした」、ということを事実としてとらえきれないからだろう。彼がそこまで悪人と信じられないから・・・。
かなの居場所を守るため、彼のついた嘘。それは同時に、もう一つの事実、我々への裏切り行為をも隠す嘘だ。このことが露見すれば登だけでなく、かなの居場所も無くなるかもしれない。
「どうしたら、ハッピーエンドにできるかな・・・・。」
床に向かって、思わず呟く。
「そんなうまい手、あるわけないじゃん?ね、貴くん」
はっとして、顔を上げる。自販機を挟んで反対側の陰に・・・柳川さんがいた。
「生徒会行かなくていいのかい?」
彼女は、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。そして、僕の隣へと陣どる。
「行けば、五十鈴から登のことをきかれるわ・・・。はじめも亮もはぐらかしてるけど・・・私、いい加減我慢できないのよ。全部ぶちまけたいんだけど・・・。」
「それは・・・ちょっと待ってほしい。」
「いつまで?」
冷たく、柳川さんは一切のためらいなく、問う。
「いい加減、ぶちまけたら?彼とかなは、仲間を裏切って、五十鈴を会長に据えた、フィクサーだって。」
「言ったら、かなや登は・・・僕たちと仲間でいられるのか?」
「そんなの・・・」
彼女は少し考えこむ。
「あなたたち次第じゃないの?」
「え・・・・」
「佐藤と鈴木しだいでしょ?受け入れられるかどうか?って。」
「あ・・・・」
僕は、いや、僕たちは・・・・・。
「ふふふ、答えは単純なんだと思うわよ、たぶん。」
「ふ、ふふふふ・・ははははは・・・」
思わず笑った。
「じゃあ、僕は部活行くよ。」
「私も生徒会に行くわ。それじゃ、今週だけ待ってあげる。あ、最後に・・・」
「はい?」
「まどかは・・・知ってるから。」
「え、なにを?」
「登が「佐藤」を裏切って、まどかの選挙活動をしていたの。」
「え・・・・・」
「まあ、そのほかにも、不登校になった理由がありそうだけど・・・」
「・・・・・・」
「まあ、それは興味ないわ。安心して。まどかもわたしたちも、ほかには言わないわ。間違いなく。」
「・・・ありがとう・・」
「で、まどかは登が来ないことが、気になるのよ。一応、彼のおかげで会長になれたから。まあ、あれ(同人誌)がばれたら、ってのもあるけど・・・」
「あれ?」
「あ、こっちの話。で、生徒会で、何とかする気になり始めてるのよ」
「それで、はじめと亮に・・・」
「うん・・・・。で、この件、生徒会の仕事にしたほうがいい?」
五十鈴まどか会長を思い浮かべる。
「・・・それは、ちょっと・・・・」
「ふふ。そうよね、じゃあ、執行猶予は今週までよ。いいわね。」
そう言って、柳川生徒会会計は、颯爽と立ち去って行った。
ドアの前に立つ。ドアノブの鈍い銀色。慣れ親しんだPC準備室。同好会時代を含めて、2年近くこの部屋へ通っていた。高1の時は週1,2回だった。今はどうだ。高2になってこの部屋に来ない日はない。九十九先輩と2人だけのときは、一人ぼっちで過ごすことも多かった。むしろ、ここに来ず、登と一緒にいた時間が長かった・・・。今や、彼がいなくても、彼じゃない「佐藤」がここに集まってくる。
意を決してドアノブに手をかけ、静かに開ける。
「待ってわ。貴くん。」
久しぶりに会う、九十九先輩は少し大人っぽく見えた。
「ご無沙汰してます。先輩。」
そう言うと、九十九先輩は微笑を浮かべてくれた。
「さあ、そろったわね。」
と御厨先生。
長机を2つならべた長方形のテーブル。入口から、向かって右に側にけい、るみ、そして対面に亮、裕一。僕は入口側に一人で座る。正面に九十九先輩と御厨先生が、まるで僕の面接官のように並ぶ。
「今日、みんなにききたいことがあるの。顧問として。だから、引退した九十九さんにも来てもらったわ。・・・・何のことかわかるでしょ?」
「登のこと・・・・ですよね?」
リーダーとして、部長として、けいが答えた。
「ええ、その通りよ。なんで、登校拒否しているのか・・・。あなたたち、何か知ってるんでしょ?」
『・・・・・・』
そりゃ言えないよね。女生徒を弄んでたとは・・・・。まあ、違うんだけど・・・。
「登は「行きたくない」としか言わないのよ・・・・。職員室でも対応が話し合われているんだけど・・・。その・・・言いにくいけど・・・。あなたたちが・・・その・・・彼に何かしてるんじゃないかって、話が出てるのよ・・・」
(けい)「え、それって、私たちが、登を・・・」
(るみ)「・・・・きずつけて・・・・いる・・・・ってこと?」
「職員の中では、可能性の一つとして・・・考えられているわ」
(裕一)「冗談じゃない!俺たちが、」
(亮)「い・・・・いじめをしていると・・・」
「あくまで、可能性の一つよ。でも、長引けば、重大なインシデントとして、全校生徒にアンケート調査がされ、疑わしいことがあれば、徹底して調査されるわ。」
『・・・・』
「そうなる前に、あなたたちに確認しておきたかったの。何かなかったの?」
「先生・・・」
たまらず、僕は口を開いた。
「僕たちは何もしていません。少なくても僕たちは・・・・」
「気になる言い方ね」
「・・・これ以上、僕の、いえ、僕たちから話せません。しかし、僕らは登を傷つけるような真似はしていません。」
「・・・それでは納得できないわね・・・・・。してなくても、知ってはいるんでしょ?」
『・・・・・・』
「それを話すには、僕たちだけでは・・・。」
「ふーん・・・やっぱり鈴木も絡んでるのね・・・」
『・・・・・・』
「まあ、いいわ・・・そっちは大下先生が事情聴取しているから・・・」
『え!』
「当たり前でしょ。鈴木たち、いえ、文芸部がかかわってるのも明白だもの。あなたたちの様子を見れば・・」
『・・・・・・』
バーン!!
ドアが突然開いた。
「み、御厨先生・・・た、大変です・・・・ちょ、ちょっと、ちょっと・・・・」
大下先生は、御厨先生を廊下へ来るよう促す。
すると、
「先生~・・・大下先生~」
と廊下のはるか先から声がする。かなだ。
「ちょ、まって~!かな~」「そうだぞ、何を慌ててるんだ~」
「いやー恥ずかしいじゃねー、」「ま、そーよねーあーしだったら気にならないけどー」
あ、鈴木たち、いや、Super Bells?」いや文芸部の連中だ・・・。追いかけてるらしい。
そして、再び、PC準備室に押し込めれる先生2人。そして、駆け込んでくる、かな。
「あの、先生、違うんです。誤解です。そんなことありませんでした。」
血相変えて何かを訴える、かな。
とそこへ、駆け付ける残りの鈴木たち。
「何、言ってるの!かな。きちんと言っといたかないと・・・」
「そ、そうだよ、今は恥ずかしいかもしれないけど、被害はきちんと!」
「えーでもさー、そんときゃ、いいって思てたんじゃん?」
「そーそー、楽しかったんでしょ?いーんじゃねー。」
鈴木たちは口々に意味不明のことをわめいている。
「いや、だから違うの!話を聞いて!!」
「いやー違わない!かな、気を強く持って!」
「そうだよ!僕たちは君の味方だよ。」
『・・・・・・』
目の前のドタバタ劇を僕らはボー然と眺めていた。
「静かに!してー!!」
正気を取り戻したのは、わがリーダーだった。
「何を騒いでるかわからないけど!一旦落ち着いて。さ、隣のPC室で話しましょう。」
そう言うと、けいは、準備室からPC室へと続くドアを開けた。
何もない、がらんとしたPC室の床に、丸くなって全員座った。
「それで、大下先生、何かわかったんですか?」
「それが・・・その・・・」
「大下先生、遠慮なさらずに、ここにいる生徒は全員、関係者です。漏らしたりもしないでしょう・・・というか、きっと知ってます。」
「御厨先生がそう言うなら・・・実は文芸部で事情聴取をしていたら・・・とんでもない事実が」
「いえ、それは誤解です!」
「かなさん、言いたいことは後で聞きます。」
「・・・はい・・・」
「では、お願いします。」
「はいー・・・じつはー・・・・文芸部の連中が言うには・・・あろうことか、佐藤登は・・・」
ああ、鈴木たちは、登の自爆をしゃべったんだ・・・・。
「・・・・鈴木かなさんをー・・・そのー・・・て・・・」
「て?」
うん、て、ってなんだ?
「そのー・・・て・・・・にして・・・・・・その・・・・」
『?』
かなは、顔を真っ赤にしている。洋子やはじめは腕組みして目をつぶている。
「あの、大下先生、その聞こえないんですが?」
「鈴木かなを・・・て、手籠めにして!・・・そのうえ、脅して口止めし・・・その後も執拗に、か、弄び、・・・・あきたら、ぼろぞうきんのように、すてたと・・・」
(佐藤一同)『はあぁぁぁぁぁ~』
「ちょ、ちょっと、まって、そこまであくどくないわよ!う、うちの登は!」
「は、はじめ!そこまでではないだろう!」
佐藤のリーダーと参謀が吠える。
「え、だってさ・・あの話はそういう意味でしょ。登は、かなを、その・・や、やり、すすす。」
「あー!もう、まって、まって、ちがう、ちがうの!!」
かなが、たまらず声をあげた。まあ、そうだろう尾ひれがつきすぎているからなぁ。
「ク、ッククク・・・」
るみにいたったては、驚きを通り越して、笑い始めている。
「・・・本当なの?かなさん・・・あの、別な場所で詳しく来た方がいい?あ、、保健室の先生にきてもら・・・
「御厨先生!違います!!」
「ほ、ほんとよね・・・」
「はい!そんなこと、ありませんでした!」
「かなー、無理しなくてーいーしーいー。」
あんが、チャチャを入れる。
「そうよ!けだものよ、あの男は!」
あ、るみ、爆笑しそう・・・。
「あの・・・御厨先生、もう少し慎重に事実を確認した方がいいのでは?一方的な発言を鵜吞みにするのは、冤罪を生む可能性があります。」
「そうね。九十九さんの言うとおりねでは、被害いえ、当事者のかなさんから、事情を聴くわ。いいかしら?」
「はい。ぜひ!」
「じゃあ・・・かなさん・・・準備室でお話し聞くわ・・・」
「・・・はい・・・・」
そう言って、御厨先生はとかなは準備室へ向かおうと立ち上がった。
かなはたぶん、今のままでいいから、こっそり付き合おうと自分から言い出し、登を手玉に取ったと告げるのだろう。そして、登の発言は自分がそうさせたしまったとも。
それで、先生はどうする?
その事実をもって、登を説得に行く?
でも鈴木と佐藤は・・・さっきのように理解している。むしろ、鈴木たちの印象は悪化している。
万一説得に応じても、彼の居場所はない。僕らも彼に寄り添うのは・・・・。
(「そんなの・・・あなたたち次第じゃないの?」)
柳川さんの言葉を思い出す。
「ちょっと待ってください、先生!」
矢庭に、声をあげたせいか、視線が集中する。
るみは目を丸くし、僕をみている。「え、なに?どうする気?まさか・・・」と顔は言っている。
ごめん・・・るみ。いやいやながら、納得して相談に乗ってもらっていながら・・・。でも、こうするのが、一番いいと思うんだ。
「かな・・・・」
かなは引きつった顔で応じる。
「できれば、みんなに聞いてもらった方がいいともう・・・」
「・・・・・ぇ・・・・・」
かすかに聞こえる声が彼女の戸惑いを表していた。でも、もう、こうするのが一番いいと思う。
「ここにいる全員が、真実を知っていた方が、いいと思う。だから、ここで話してほしい。」
僕を見つめるかなの目。真剣なまなざし。その様子を見て、みんな、固唾をのんでいる。
「わかっ」
ガラガラガラ!
突然PC室のドアが開かれた。みな一斉に入口を見る。
「遅い!遅い!生徒会、始められないでしょ!!」
「ちょ、まどか、だめだって、なんか、大事な話だってば・・・」
・・・なんで・・・なんで・・・生徒会総統閣下と会計。。なんで、いま、来る!・・・・。
貴くんみたいに中途半端な決断力実行力ある人って・・・。
ホントは迷惑だよね。
最後まで何とかしてJほしいよね。




