82 その結末をだれも望んではいない⑨
ああ、主人公でてこないなあ~。
貴くんとかなさんの話、
終わるかな?
高1の学校祭の2日前。僕と登が教室に残って看板制作をしていた・・・。2人でしゃべりながら楽しさに浮かれて、だらだらとやっていた。気が付くと教室には誰もいなかった。
バターン、ガッチャーン!!
誰もいないと思っていた教室に突然響いた音。
散乱する机や黒く塗られたダンボール、カセットコンロ。そして、クレープづくりの道具や材料。
誰もいないと思っていた教室。
しかし、俺たちの他に1人女子生徒がいたのだ。
田の字に並べた机の上にダンボールが3個くらいの高さで壁のようにのせてある。その壁が黒板前に3,4m続いていた。俺たちは教室の最後方だったので、全く気づかなかった。
「え、なにがあった?」
登は言うやいなや、立ち上がった。
黒板の前で呆然と立っていたのは、鈴木かな。
僕たちは顔を見合わせた。ほとんど話したことのない、女子だったからだ。
でも、登は話しかけた。
「だいじょうぶ?けがはない?」
とても、落ち着いた口調で登は話しかける。
「あ、え、だ、大丈夫・・・・・。」
「こんな時間に何してたんだい?」
「あ、わたし、作るの苦手で練習してたんだけど・・・。つまずいちゃって・・・・」
「どうしよう・・・・。これ・・・」
「元にもどすのは大した手間じゃないよ。3人でやればすぐさ。」
「でも貴くん、その小麦粉どうしよう・・・・・」
米袋のように大きい業務用の袋がひっくり返って、黄色みがかった粉がぶちまかれていた。
「どうしよう、これ、もうほとんど使えないよ・・・わ、わたしのせいだよね・・・・」
「とりあえず、そうじして、元に戻そうぜ。」
彼は、とびっきりの笑顔で言ったね。
冗談を言いながら、俺たち3人は楽しんで片づけたっけ。
「よし、いいだろうこんなもんで。なあ、貴。」
「お疲れさま。じゃあ、帰るか。」
「え、ちょっとまって。小麦粉はどうするの?」
「あ、そうだったね。先生に頼んで新しいものを注文してもらおうか?」
「だめだよ、貴。明後日には必要なんだ。間に合わない。それに新しく注文するとその代金も貸付金として計上される。借金が増えるってことだ。」
「じゃあ、どうするの・・・」
その時彼はいったよね。
「まあ、おれがどうにかするよ。」
そして、最後にこう言ったんだ。
「貴、その子、送ってやってよ。俺、何とかしてくるから。」
思い出話を、柳川さんと来島さんに聞かせるのは、気恥ずかしかったが、かなにはしっかり思い出してほしかった。
「あのとき、登は最後に、僕にかなを送っていくように言ったよね・・・・」
こくりとうなずく、かな。
「あの時・・・登は気づいてたんだ・・かなが教室にいた、本当の理由を。」
「え・・・」
小さくかすかな声で答える鈴木かな。
「かなが、のこっていたのは・・・待っていたんだよね僕を・・・。」
「・・・・・まって・・・そんな・・・」
彼女の目が、また、潤んでくる。
「クレープの練習が目的じゃなかったんだろ?僕が1人になる機会を伺っていた。そうだろう?」
「・・・・・・」
「君の目当ては、僕だった。登は、それを察して、君を送るように僕に言ったんだ・・・」
再び涙をためた目で準備室の床を見つめる、かな。
「じゃあ・・・私が、告白したことも・・・」
「それを、彼に伝えるほど、僕は無神経じゃないさ。駅まで送ったことだけ教えたよ。でも・・・きっと気づいてたと思う。その結果もね。」
「・・・・・」
ピクリとも動かず、彼女、鈴木かなは、床のタイルをじっと見ていた。
「あの時も、今回も一緒さ。君の望むことを察したんだろう。そして、登がそうすることを薄々わかってたんじゃないか?」
「・・・・・・・」
「で、かな、君からいったんだろう?」
「・・・え・・・・」
「「今のままでいいから、つきあって」ってさ・・・」
はっとした顔をして、かなは、僕の方に顔を向けた。
「・・・え、なんで・・・なんで?・・・・貴くん・・・なんで・・・・」
「そうでも言わないと・・・登は決めないさ。みんなの期待と望みがわかるから・・・」
「あ・・・・」
「つばささん、るみ、りおさん、そして、かな。きみたち4人の望みや期待が、すぐわかるだけに、誰か一人に決めて残り3人の期待を裏切ることは、登にはできない。」
「・・・・・・」
「だから・・・・」
座り込んだまま動かない、かな。目をつぶって窓辺に寄りかかる来島さん。壁一面に広がる棚の扉。生徒用の机に脚を組んで静かに僕たちを見据えている柳川さん。
それらを見回し、意を決して、僕は言う。最後通告を。
「いっけん、何も選んでないようにさえ見せかければ、彼は簡単に納得する。」
「ふーん。だから隠れて付き合うんだ・・・。」
あきれたような声で柳川さんは声をあげる。
「ああ。そうさ。今のままがいい。今を継続する。それが何より最優先なんだ。登もそして、かなも。」
「なんかよくわかんないなぁ~」
来島さんはたまらず声を出す。
「だって、今ってなに?チーム佐藤と鈴木がある生活?でもさ、そんなのここ半年くらいの話でしょ?どうせあと一年ちょいで卒業だし。そうすればバラバラ。仲良し、って思ってたって、次の人間関係の中で埋没しちゃうもんでしょ?どうして、「今」、にそんなにこだわるの?」
「来島さんは強いな。でも、それは・・・ぼっちを知らないからだよ。」
『?』
「言ったろう、野球をやめた僕。許嫁のせいで孤立を深めていった登。ぬりかべに目をつけられて腫れ物にされた、かな。みんな、いやというほど学校で孤独感を募らせていった。そんな人間たちにとって、「今」はかけがえのない時間なんだよ。」
『・・・・・』
「それは、「彼女」っていう存在以上にね。登はだから選ばなかった。「今」を失うくらいならね。」
佐藤貴くんは、賢い男です。
あ、故障は嘘です。ばりばりです。




