78 その結末をだれも望んではいない⑤
やらかした次の日は、
登校したくはない。
誰でもそうだ。
特に独りぼっちを経験してきた人間にとっては。
教室の窓から外を眺める。いつもと変わらぬ、眠気を誘う大下先生の古典。どんよりとした雲が空を覆っている。もうあれから2週が経った。あれ以来、登とは話しててね。それどころか、見てもいねぇ。
11月も半ばを過ぎると、奥地(札幌)は一気に冬へ向かう。だから、奥地は苦手だ。函館なら、まだ秋を楽しめるのにな。ちょっと足を伸ばして、大沼公園で晩秋を楽しむのも、たいした(とても)いい。
そういえば、おめさとは行ったことねかったな・・・。いっつも、久世の道場ばかりだったもんな。おめは、つっちゃんのわがまま、いっつもいっつも聞いてたっけ。
つっちゃんには、まだあの日のことは伝えてね。まつりにも口止めした。御厨先生にも。したからさ・・・・・・。
「おめ・・・・なんで・・・なんで・・・・・返事、できた・・・」
るみの顔が不信感でいっぱいになっている。
「あ、いや、なんと・・・なく・・・」
「え、と、るみちゃん、どういうことかな?」
戸惑い顔のりおを尻目に、鈴木と佐藤の面々は気まずい顔をしている。
「ねえ、かな、わたし、一応リーダーだから、聞きにくいけど・・・きくね。なんで「佐藤くん」って、かなが言うと、登が返事したのかな。しかも、ごく自然に・・・」
「あ、えっと、それは、たぶん何となくじゃ・・・」
「・・・そんなわけね・・・」
るみが涙を浮かべながら言う。
「・・・そんなわけねー!!・・・」
叫び声がパーティールームに響く。
「・・・あ・・・・やっぱ・・・そういうこと・・・。」
りおも得心したようだ。
「ごめん、あーし・・・・・帰る。」
そう言うと、俺に一瞥し、りおは足早に去っていく。洋子がアイコンタクトであんに追うように促す。
「ねえ、のぼる。わたしもリーダーだし、るみの親友として聞くわ。かなが口にする「佐藤」は、亮でも貴でも裕一でもなく、他の誰でもない、あなた一人のことなのよね。そういう間柄なんだよね。」
「っく・・・」
答えに詰まるおれ。かなの顔をちらと伺うと青い顔をしている。
(「・・・今のままがいいのか?このぬるま湯みたいな関係が。」
「わかった。今度はおれがそれを受け入れる。そうしてみせる・・・。」)
今できることは・・・。
「あああぁ~。・・・ばれちまったか~。」
できるだけ軽い感じで、周りを小ばかにするように振るまった。
「もうーちょい、隠し通せると、思ったのによー。まぁ・・・・・いっか。おかげで、しばらくいい思いができたから・・」
「え、の、のぼる?・・・」
るみが涙をためた瞳を目いっぱい開く。
「は~、もうちょっと、都合のいい彼女として、キープしておきたかったのにさ。」
そう言って、横目でかなをちらっと見る。
「・・・え・・・・」
今度はかながはっとした顔をする。
「3人と、よろしく楽しくしたかったのになぁ。やれやれ、ばれたか。」
「お、おい、のぼる、それはいささか問題があるぞ」
「はぁ?亮はいいさ・・・・・・。自由に恋愛ができてさー。だがな、俺は違う。函館に許婚がいて、いつも始終監視され、彼女どころか、女とまともに話せなかった!こんなことできるの、今、ここでしか、できねーんだ!函館さ、かえれば・・・・・・。もう、ちょい。もう、ちょいで、かなを・・・・。だって、かな、隠れて付き合っていいよって。ちぇ、このまま、いけば全部俺の彼女にできたのになぁ。ああぁ~。せっかく、都合のいい彼女、見つけ」
バンッ!
思いっきり左頬を平手でたたかれた。
右を向いた顔をゆっくり前に向ける。
涙を浮かべて、けいが俺を睨んでいた。
「サイテー・・・・・・」
そう俺に吐き捨てた。
「ああ、俺はサイテーゲス野郎さ。」
周りを見る。
どいつもこいつも複雑な顔をしている。かなを除いて。
「あ、の、のぼ」
「じゃ、俺、帰るから・・・」
話そうとする、かなを押しとどめる。ゆっくりと、俺はその場を立ち去った。
カラオケボックスの玄関をでる。10月も終わりになると、日暮れもぐっと早くなる。空を見上げる。薄紫と紺色が混じった空が歪んで見える。左頬がじんわりと痛い。
おれはこの日、手放した・・・・・約束をまもるため。
私が頬をたたいた次の日、登は学校に現れなかった。教室でぽっかりと空いた席を、佐藤と鈴木は気にかけている。ほかのクラスメートたちは、いつも通りの喧騒を生み出している。
「登・・・・休んじゃったね・・・」
るみがこそっと私に耳打ちするような小さな声で告げてきた。
「・・・・うん・・・でも、・・・るみのせいじゃない・・・気にすることはないよ・・・」
私は、自分に言い聞かせるように答えた。
昼休憩。
珍しく洋子が声をかけてきた。
「ねえ・・・一緒にお昼、どう・・・」
洋子と一緒にと図書準備室へ。っと、はじめと亮がドアの前で待ち構えていた。
洋子「ごめん・・・まった?」
はじめ「いや、今来たとこ・・・」
4人で中に入る。
図書室用のテーブルが準備室には一つ陣取っている。テーブルを挟んで、向かい合って座る。もちろん佐藤と鈴木に分かれて。
「こなかったな、登・・・」
口火を切ったのは亮。
「まあ、どの面下げて、って感じだからね・・・」
と、私。
「なに・・・他人事みたいに・・・あんたがたの監督不行き届きでしょう?」
いつもの勢いが洋子にはない。
「まあ、でもかなを見てなった俺たちも同罪だろ。それに、登にも何か言い分がある気がしてさ・・・」
はじめは意外と優しい。だから、洋子と一緒にいられるんだろうな。
「かなはどんな感じ?」
同じ女として、そこは気になった。
「うん・・・ショックだったみたい。かなの気持ちを考えると・・・何も言えなくて・・・」
洋子も同じ女として、やっぱり、かなの方が気になるんだろう。登に関する話し方と明らかに態度が違う。
亮「で、かなは、いまどこに?」
「るみが声かけてたわ。」
洋子「ああ、そうなんだ・・・」
そして、沈黙の中、弁当を4人食べる。
「登、もう、こないのかな・・・・」
はじめは、独り言のようささやいた。その言葉は、この場にいる全員の気持ちを代弁している。
「そんなわけ・・・」
といいかけて、わたしはやめた。
友だちと呼べる人間を作れるのは、
学生時代だけだと、だれかが書いて
いたと思います。
至言だと思います。




