72 取り戻される日常
生徒会長選挙終了。
生徒会長は誰だ?
わかりきっているけど・・。
バス停から学校に向かって歩く。友人と語らいながら歩く生徒達。いつも通りの通学風景。だが、俺にとっては運命の月曜だ。昇降口前の掲示板に、選挙結果が掲示されているはずだ・・・。
昇降口入ると、いつも以上にざわついているのがわかる。はやる気持ちを抑えて、ごくいつも通りに上履きに履き替える。平常心を保ち、昇降口から廊下へと進む。狭い廊下を多くの生徒が掲示板に群がっている。周りに悟られるぬよう、掲示板へ。ゆっくりと、目線を掲示板へと送る。
当選 五十鈴まどか
「あ・・・・・」
五十鈴が当選した。
間違いないか二度見した。間違いない。五十鈴が当選だ。俺はかなとの約束をはたした・・・・。
しかし、なんだろう・・・。俺の望んだ結果なのに・・・。素直に喜べない。
亮やけいの顔がちらつく。はじめや洋子に対して、勝った喜びも全くわかない。
学校祭や、夏祭りの時のような達成感は微塵もわかない。
HKでの思い出が走馬灯のように、頭の中を駆け巡る。
あの喜びや楽しさはもう二度と味わえないのでは・・・・。
そんな、寂寥感に包まれる。
「登・・・」
不意に声をかけられる。貴だ。
「あ、貴。おはよう・・・」
「ああ、おはよう。いや~亮、残念だったね~。」
いつもの笑顔を貴は浮かべている。
「ああ・・・・そうだな・・・・」
「まあ、女子の大半と普通の生徒は五十鈴さんに入れるよな~。だって、あんな色恋沙汰やイベサーみたいな演説じゃなー。」
ああ。そうだよ。その通りだよ。大多数の生徒にとって、色恋沙汰って無縁なんだ。カースト上位の陽キャは教室でも少数だ。その支持者も少数だ。だからこそ上位者なんだ。多くの生徒は、そうじゃない。五十鈴は上位者だけど、今回はそっち側へおもねらなかった。
亮とはじめは、少数のカースト上位者を食い合った。少数のを取り合ったので、当選するわけがない。柳川さんと手堅い責任者のおかげで、一般生徒や陰キャたちに安心感を与えることに成功した。
おれがそうした・・・。
おれが、亮とはじめを落選させたのだ。
おれとかなの全く私的な望みのために。
「どうした?登、なんだかふさぎ込んで?」
階段を上りながら、貴はう不思議そうにうかがってきた。
「あ、いや、亮になんて声かけたらいいかなって・・・」
「ああ。でも、まあ、きっと大丈夫だよ亮は。」
「ああ。だといいけど・・・」
「僕が心配なのは・・・そっちじゃない。」
貴は一気に暗い顔になった。
「あんたが!あんな話、しだすからでしょ!!」
「お、お、お、お互い様よ!」
廊下まで響く女子2名の声。
ああ。貴の心配ってこれか・・・。
教室に入ると、けいと洋子がにらみ合ってる。
「あんたの色ボケ演説のせいで、私たちまで被害を!!」
「よく言うわよ!何が幼馴染よ!どうせ夏休み中、いやらしくイチャイチャしてたんでしょ!!のろけ話を公開演説するな!!」
「はあ、あんただって、公開告白でしょ!全校に見せて恥ずかしくないの?あれじゃ亮だって断れないじゃない!!」
「なんでフラれる前提?言わなくても、私たちは両想いってわかってんです~」
「は、どうせ今だけでしょ?私たちには、17年間の思い出の積み重ねがあるんです~。格が違うわ!格が!」
亮とはじめは顔を真っ赤にして、うつむいている。それどころ、2-3全員が顔を真っ赤にして、聞こえないふりをしている。
「あ、あの、二人とも落ち着いて。取り合えず座ろうか?な、な。周りをよく見てくれよ・・・・」
と俺が話しかけて我に返ったのだろう。クラスメートの顔を見る2人。
「まだ、朝だし・・・あんまり大胆な発言は・・・・その・・・。なあ。」
と、貴も加勢してくれた。2人は顔を赤らめて、すごすご自分の席に戻っていった。
「なんで、あのまな板女に、負けなきゃならないの!」
「まったくよ。ああ、もう腹立たしい。」
二人して腕組みし、不満そうな顔を見せていた。
「えー。生徒会長選挙が終わりましたね。みなさん結果は確認したとおもいます。残念ながら・・というか、まあ、当然というか・・・。とにかく、終わったことをくよくよせずに・・・って、なんで2人ともそんなにのぼせた顔をしてるの?」
御厨先生の一言で、うつむく亮とはじめ。
「ああ、いいわねー、生徒会長にはなれなくて、誰かの一番になれた人は・・・・。」
そういって頭をわしゃわしゃとかきむしる先生。
「幸そうなところ悪いけど・・・洋子さんけいさん、そして、亮さん、はじめさん。放課後、生徒指導室に来るように。」
『え!』
「・・・・なにを意外そうに・・・あ、あなたたちのせいで、先生がどれだけ、恥ずかしい思いをしたと思ってるの!!」
『ひぃー!!』
「どちらも先生のクラスですよね~、とか、いや~最近の生徒はすごいですなー、とか、どんな指導したんですかー?とか、散々職員室で言われたんですけど!!」
『は、はい!!』
「あげく、校長に呼ばれたわ。」
ごく・・・。
「御厨先生・・・学業に影響しないよう、適切な指導をお願いします、まかり間違って、問題行動につながらないよう、健全な男女交際の指導をお願いします、って言われたのよ!!4人ともいいわね。こなかったら・・・内申、大幅減点するわよ!」
『・・・・はい・・・』
さっきまでのウキウキラブコメ空間が、うそのように空気が凍っていく。
まあ、問題になるだろうな~。なんせ、のろけ話に公開告白だもんな~。
「つかれた・・・」
部室に着くなり、けいは倒れこむように座り込んだ。
「ふー・・・・・・長かった・・・・」
亮も座るなり、遠い目をした。
「だいたい、私怨を交えるからよ、御厨先生!」
「いやそうだけど、あれは・・けいと洋子も悪いだろう。火に油を注ぐから・・・」
「だってさ・・・・」
裕一「なにがあったんだ?」
こくこくうなずくるみ。
けい「え、いや、ねー、ほら、好きな人ができら、これくらい、その、盛り上がるでしょう、っていったらさ、「そんわけありません」とか言うから、いや、同じ女子として、わかるでしょって言ったの。」
亮「その、あとがあるだろう・・・」
けい「え」
『何言ったの?』
けい「え、「あ、そういう経験ないんだぁ~」って・・・」
『は?』
亮「しかも、そのあと洋子が「ああ、だから・・・独身なんですね」って・・・・」
『なっ』
んてことを言うんだよ。御厨先生、気にしてるんだぞ・・・。
貴「・・・で、長引いたんだ・・まあ、」
るみ「自業自得だべさ・・・まったく、うわっついてるからさ。はんかくせーなー」
けい「はぁ~・・・・これだから行かず後家の話しききたくなかったわ・・・」
「だれが、い、行かず後家ですってぇ~!!」
『え…』
御厨「ちょっと付き合ったからって・・なに、浮かれてんだー、このほんずなし!!」
あ、だいぶお怒りですね先生・・・。
「おめたち、うかれて、受験さ失敗すなよ!!」
貴「あ、先生、どうしましたか?」
「あんたたちにも釘刺しに来たの、特に・・・」
「登!おめさにな」
ギク!鋭いな先生は。
「いい?今度、何か男女のいざこざがあるとしたら・・・・」
『登だな!』
一斉に俺を見る。
「い、いや・・・俺とは限らないんじゃ・・・」
裕一「いや、ほかに可能性のあるやつがいるか?」
『・・・・・・・』
「いないか・・・」
ぽつりと俺はつぶやいた。
「いい?今度何かやらかしたら、廃部よ。廃部!」
そう、言い捨てると御厨先生は帰っていった。
と、いうわけで、
まあ、あれです。次回からのネタはないです。