65思い通りに描けるとは限らない
目立たないけど、柳川さんは学級委員長で、
成績も優秀です。
力はあるはずです。
るみを見送った後、校内へと引き返す。普段使わない階段を上り、家庭科準備室へ。
「おそかったわね。」
待ちくたびれたらしく、少々機嫌が悪そうだ。
「ああ、ごめん。亮の方も、手まどってね。」
「ま、そうでしょうね。あの校内放送、かなり、評判いいものね。」
来島さんは少々得意げだ。考えたの俺だよね?
「じゃあ、さっそく次の作戦会議をしましょう。登さん。」
「ああ、そうだな。」
「立会演説会だけど・・・・まどか、原稿直してきたわよ。」
そう言って柳川さんは原稿用紙を俺に手渡してきた。
「ああ、ありがとう」
さっそく目を通す・・・・。え、え、
「はあ、マジか!これを・・・・ほんとに?・・・・いやいやいやいやいや!!これはダメだろう・・・」
「まどかは本気だって。わたしもこの案、いいと思うわ。これなら、まどかにみんな投票するわ。」
来島さんは真剣な目をしている。
「たしかそうだが・・・。」
「この案、何か問題でも?登くん。」
柳川さんは鋭い目つきで俺を睨む。
「正直、最高の案だと思うわ。これならまどかは勝てる。必ず当選させると言った以上、わたしはこの案に乗るわ・・・。」
そう言って柳川は静かに目をつむった。
「きみも巻き添えを食うんだぞ?」
「いいわ。あれが表に出るよりは。」
「・・・・・・そうか。・・・・・わかった。俺もこの案に乗るよ。」
やはり、五十鈴まどかは女子のエースだ。予想をはるかに超えてきた。
でも、いい。俺にとっては、生徒会長なんて誰でもいい。鈴木と佐藤、そして、俺とかなの関係が現状維持ならそれでいい。かなが仲間たちに囲まれていればそれでいい。
「じゃあ、明日は任せたよ。おれは、亮の手伝いがあるから」
そうして、ドアに向かおうと振り返り、ドアノブに手を伸ばした時だった。
「ねえ、どうして?」
柳川さんの声がした。
「どうして、こんなことしてるの?亮さんの、友だちを、なんで裏切るまねをしてるの?」
「・・・・・・・」
背中を向けたまま、柳川さんの声じっと耳を傾ける。
「あんた、仲間の努力を台無しにしてるのよね、鈴木たちだってさ、ある意味友だちじゃないの?どっちに対しても裏切り行為よね。しかも、わたしたちを脅して動かして。すごく卑怯な手を使って、仲間をだまして、裏切って、すごく嫌な奴。」
「・・・ああ・・・わかってる。おれは最低だ。・・・この件が終わったら、もう君たちとも一切かかわらない。約束する。・・・」
ドアノブの鈍く光った銀色を見つめながら答える。
「・・・・そういうことじゃないの・・・。今までのあんたは、はちゃめはなところあったけど、楽しそうだったよ。佐藤と鈴木に囲まれて。学祭だって、いろんなことあったけど、楽しそうだったわ。」
たのむ、やめてくれ・・・・・。
「今やってることって、あんたらしくないよね。仲間に隠れてこそこそ、策をめぐらせて、しかも友だちを落選させる仕事をするなんて。」
「やめろ!」
狭い家庭科準備室に俺の声が響いた。
「あ、ご、ごめん・・・」
それでもおれは振り返ることができなかった。柳川さんたちの顔を見る勇気はない。
「学級委員長、忠告ありがとう。でも、おれは・・・・もう、地獄に落ちてもいいって、そう思ってる。」
ドアノブが放つ鈍いシルバーの光がにじむ。
「ふーん。・・・・・後悔しないでね。・・・・・後味悪いからさ。」
「ああ。」
「やなちゃん。・・・・もういいでしょ。・・・・時間も遅いし・・・。」
「そうね。じゃあ、さようなら。堕天使さん。」
「そんな、かわいいもんじゃないよ。おれは」
そう言ってに歪んで滲んで見えるドアノブに手をかけ、回す。日暮れが近づいたせいか、校内も何かも寂しい。遠くから、運動部の声が聞こえる。
描こうとした絵は間違いなく明日完成する。あとは思い描いた絵になるかどうかだ・・・。ふと顔を上げ、廊下を見通すと、誰もいない。端まで誰もいない廊下で、涙をぬぐった。
次回選挙当日です。
さあ、どんな手でそれぞれ戦うのか。
いい案はこれから検討します。




