59 現状維持こそが俺たちの願い
今回は、Hk並に有名な観光地、OTR市が舞台です。
といっても、出てくるのは水族館くらいですが。
どうしてかって、水族館が好きだからです。
2学期初日は、リーダーの召集のせいでせっかくの半ドンが、消えてしまった。本当はかなと新札幌で待ち合わす約束だったのだが・・・・。まあ、でも、
・こちら商品の発送はおくれております。ご迷惑をおかけしますが、指定の日には配達できません。
というメールから、かなも同じく洋子に拉致されたことが察せられた。
週末、土曜になり、俺たちはOTR市へ出かけた。OTR駅で待ち合わせだ。札幌市内だと、どこで誰に見られているかわからないからな。デイパックをしょって、目いっぱい観光客風のファッションにを携え、最寄りのJR駅で着替えてから電車に乗った。
電車に揺られること約45分。OTR駅についた。駅の出口で、これまた、「内地(本州)から観光に来た女子大生です~」風のかなを見つけた。
「佐藤くん!」
「あ、ごめん待った。」
「ううん、今ついたとこ」
「よかった。それにしても、いかにも観光ですってスタイルだね。」
「そっちも。何処からどう見ても、観光に来た人ね。」
そう言って互いに笑いあった。
今回の、行先は道内では有名なOTR水族館。けっこう見ごたえのある観光スポット。ただ・・・、「OTR」と冠しているが、駅からはけっこう?かなり?離れている。駅からバスで約30分だ。
「こないだ、たいへんだったろう?」
バスを待つ間、俺はかなに初日の日のことを尋ねた。
「ほんとよ~。洋子は目がすわってるし、それ見たはじめはおろおろするし。あんと真一は目が死んじゃったわ。」
俺の右腕に絡まるように腕を組み、肩に頭をのせてかなは言う。
「こっちも。鈴木と絶対絡むなって。特に「かな」には、ってけいに言われたよ。」
と苦笑い。
「あたしも!」
バスが到着する。今日は土曜日ということで、乗客はけっこう多い。何とかバス後方の2人掛けに座ることができた。久しぶりに見るOTR市街は観光客ばかりが目立つ。Hkと同じようだ・・・・。地元の人は少ない。
「ねえ、佐藤くん・・・」
窓からOTR市街を眺めながら、かなは囁くように言う。
「生徒会長どっちがなったらいいと思う?」
ゴゥーン。バスのエンジン音が車内に響く。
「どっちでもいいと思ってる。」
「・・・・そう。でもさ・・・せっかくさ、友だちになれたんだから・・・このままが・・・わたしはいいな。」
独り言のようにかな車窓に向かって言った。
かすかに見えるかなの横顔を見て、去年のことを思い出す。高1のころのかなは、孤独な学校生活をおくっていた。ぬりかべ女王に目をつけられたせいで、クラスの女子はかなとの交流を最低限にしていた。さすがに何も悪くないかなを、仲間外れにしていたわけではないが、いつも一緒にいる女子はいなかった。かわりに、下心ありありの男子が声をかけていて、ますます、女王の機嫌を損ねていた。そう、あの時だって、1人で教室に残っていた。あのときだって・・・。俺も親しいやつはいなかったが、貴はいてくれた・・・・・。Hk時代の俺と同じだ。学校に気を許せる相手は皆無だった。だから、かなは、「今のままで・・・・・わたしはそれを受け入れるわ」と言ったんだろう。あれは、俺への提案と同時に自分への提案なんだ。1人はいや、という決意表明。
「鈴木さん・・・」
いつにない、少し真剣な声音をきいたせいか、少し驚くようにして、かなはこちらを振り返った。
「・・・今のままがいいのか?このぬるま湯みたいな関係が。」
はっとして、目を少し見開くかな。
「わかった。今度はおれがそれを受け入れる。そうしてみせる・・・。」
一瞬目線を俺から外して目をつむった、かな。
そして、再びこちら見たときには、ぎこちない微笑みを浮かべていた。
「ありがとう・・・・」
消え入りそうな声で俺に告げ、再び、車窓に目を移していた。
バス停から水族館までは勾配のきつい階段をそこそこ登る。運動部でもない俺たちには結構なハードワークだ。登りきった高台にピンクと水色の火星人?タコ?の人形が、仁王像のように出迎えてくれる。
入口脇にある、入場券売り場は少々混雑していた。とりあえず俺たちも並ぶ。もちろん、バカップルを装うため、密着して腕を組む。最近はいつもこうしているので、ごく自然になってきた。かなも自然に俺の左腕に腕を絡ませくるようになった。もう、あまりドキドキはしてない。でも、楽しみにしている自分がいる。かなと腕組みして、歩くと世界が変る。俺はほんとチョロい男子なんだろう。
入場券を購入して、一昔前の駅の改札みたいな囲いの中にいる、もぎりの人に渡す。改札を抜けて、右手に売店を見つつ、進むと二畳程度のプールのような水槽。ウミガメが泳いでる。なんとここでは、このウミガメにさわることができるのだ。
「うわ、おおきいわね!」
珍しくはしゃぐかな。
「きたことないの?」
「・・ずいぶん前かな・・」
「そう・・」
何となく気まずくなってしまう。
「あ、別に家庭不和でとかじゃないから。単に、来る機会がなかっただけ。」
「あ、いや、そうなんだ。」
館内を一通り見た後、屋外施設へ。水族館は崖のように切り立った場所に立っている。屋外施設は水辺だ。すなわち、急斜面にジグザグ作られた遊歩道を降りることになる。いつものように腕を組んだまま降りていく。
「わ、ちょっと怖いわね。」
そういうと、ぎゅっときつめに俺の腕を捉えるかな。腕に当たる、柔らかな感触も慣れてきてしまった。まあ、嬉しいことには変らないが。
ちょっと有名な水族館名物のペンギンショーを見た後、トドのショーも観る。間近に見るトドの迫力はまさにシーライオンだ。
「わー、佐藤くん、すごいね!すごいね!!」
肩に頭をのせるかなは、子どものように喜ぶ。普段は見られない一面を感じると、「彼女」としての特別感を実感してしまう。
海辺の方に降りていくと、アザラシを飼育するためのプールがいくつもある。屋台なようなところで、アザラシにあげるエサ(さんま大の魚が何匹か小バケツに入っている)
2人でプールサイドに近づくと、アザラシたちはどんどん集まってくる。前足で水面をたたき、エサを催促する。すると隣のプールからも水をたたく音がする。どちらにあげるか迷ってしまう。
「片方だけにあげるのはなんか心苦しいわね・・・」
「そうだな。よし!」
おれは、駆け出し、エサ販売の屋台へと向かった。
「佐藤くん、もう一つ買ったの?」
「ああ。かなは左の方、俺は右側の方にエサをやるよ。」
そうして俺たちは、魚をばらまく。かなに、少しでも気持ちを楽にしてほしいから・・・。
岸辺のプールから引き返し、数段の階段を上って、タッチプールコーナーへ。そこに併設されている手洗い場で手を洗う。さらに崖側にある、休憩スペースへ行く。自販機で飲みものを買い。ベンチに座る。
はしゃいでいたかなは、かなりのどが乾いていたのだろう、ごくごくとのどを鳴らして緑茶を飲み、ひと息ついた。そして、
「やっぱり、やさしいのね、佐藤くんは・・・」
とつぶやいた。
スポーツ飲料を飲み下してから、俺は
「いや、俺にはあれくらいしかできないよ・・・」
といって、水平線に目をやった。
かなは、手にしたペットボトルをじっと見ながら、
「・・・でも、やっぱり・・・うれしくなるわ・・・。」
自分に言い聞かせるように、言った。
「ありがとう。これからも、がんばるよ・・・おれ・・・」
おれも独り言のように話した。
OTR駅行きのバスに乗る。
また、運よく二人がけのシートに座ることができた。
今度はおれが窓側だ。
「かえりは佐藤くんが座りなよ。」
と譲ってくれた。
車窓から見える日本海。日の光でさざ波が輝いては消える。
と不意に俺の右手を握るかな。
「ねえ、今のまま、をどうやって守るつもり?」
ゆっくりと車窓からかなの方を振り返る。
「たいしたことはできねーさ。俺には、もう一つ買ってくるくらいしか手はないさ。」
「もう一つ?・・・」
人差し指で自分の顎を指さすかな。考えこむときのくせだ。
「ああ・・・」
そういって、また、日本海を眺める。
かなの願いをかなえる。そのためには・・・・。
OTR駅に着くと、俺は高速バスで帰ることにした。かなとは駅でお別れだ。同じ帰宅手段だと、札幌市内に入ってから、目撃されるおそれがある。念には念をいれる。
改札前まで手をつないで歩く。
「じゃあ、また、来週。佐藤くん・・」
「ああ・・・また。鈴木さん・・・」
そういって、手をゆっくり振りほどく、かな。
改札を通ると、いつものように、振り返ってこちらに手を振る。俺も振り返す。そして、足早に去って行った。
土曜日ということで、高速バスはけっこうな混雑だった。それでも、何とか座ることができた。車窓に流れる風景を何となく眺める。そして、考える、どうすれば「今のまま」を維持できるのか・・・。
こういう隠れたデートって、
盛り上がるよね。だからきっと不倫って
なくならないんだよ。
ドキドキが膨れ上がるからね。




