54 御厨先生の憂鬱
人に隠れて付き合うことは、おおやけの関係より、ずっと盛り上がりますね。
不倫がなくならないのは、秘密の共有という、さながら、最高の添え物があるからでしょうかね。
きっと、蜜の味でしょうね。
「登さん、スマホつながらなかったんだけど?」
我が家のリビングで我が物顔でソファーに座っているのは御厨先生。やれやれといった顔だ。
「え、ああ、充電切れてて・・・」
嘘です。かなと会うときは電源を切ることにお互いしている。電話が来た時にぼろが出ないように。
「何度もかけたんだけど、もう、しょうがないわね。」
「あ、すいません・・・で、ご用件は?」
「ま、座って」
俺はリビングのテーブルを挟んで、ソファーに座る。
「・・・あのね~、登さん」
「はい。」
「そろそろ、けりつけてくれないかしら?」
ニコニコしてるけど目は笑ってないな。
「何のことですか?」
「はあ、決まりきってるでしょ!」
語気が突然強くなる。
「あの状況をよ!振るなら振る!付き合うなら付き合う!どうにかして!!」
「いや、それ、指導されることじゃ・・・」
「もう、あんたのせいで、うちのクラスにごたごたが起きるでしょ!」
「いや、でも、今までのはごたごたは、単に部活と学校行事を進めてただけで・・・」
「いままではね!」
バンとテーブルをたたく先生。
「次は違うっしょ。おめさの色恋沙汰でごたごたするに決まってるべさ!!」
「え、あ、そうですかね~?」
「こないだのHkでの様子見ててても、そうでしょ!まあ、ぐだぐだ!あっちにもいい顔、そっちにもいい顔。優柔不断を通り越して、ただの女ったらしでねか!」
「え、いや普通にしてたと思いますが・・・」
「いんや、おめは、最低男だ。このままならな。はやく、けりさ、つけれ」
「・・・・そうはいいますが・・・」
「今年中にはなんとかしなさいよ」
「・・・善処します・・・」
「ほんとは夏休み中といいたいところよ。」
「・・はい・・・申し訳ありません・・・」
すいませんもう付き合ってます・・・。とは、言えないけど。
「で、ところで・・・もうすぐ夏休みも終わりね・・・。」
そういうと、先生は麦茶を一口すすった。
「休み明けには、あれがあるのよ。」
「あれ?」
「あれよ、あれ!」
「あ、あ~それですか」
「そうよ。今回は、おめたち、おかしなこと始めねえべな。」
「は?おかしなこと?」
「学校祭みたいなことは、もうたくさんだわ。大人しくしてけれよ。」
「・・・それは・・・けいと洋子にいうべきでわ・・・」
「もちろん、いったわ。・・・でも、・・・・ことを大きくしていくのは・・・・あなたでしょ!」
「う、っぐ・・・」
「・・・まったく、その決断力と行動力を、ぜひ、他のところで生かしてほしいわ・・」
そういうと俺を鋭い目線を俺に向けた。
言えない。こっそり付き合ってますとは絶対に言えない。言ってはいけない。
「・・・あれ?何か言いたそうね登さん?どうかしたの?」
はっとして、おれは先生の顔をみる。
「いや、ど、どうしたらいいかな・・・って、いろいろ・・・」
「・・・ま、いいわ。」
怪訝な顔を俺に見せながら、先生は言った。
「とにかく、休み明けは大人しくして。いいわね。・・・・あ、ところで、つばさからは連絡さ、きてる?」
「え、いや、とくには・・・・」
といった瞬間、先生の顔は曇りだした。
「え・・・・、来てねの?・・・。・・・・・えっと、あのね・・・・」
先生は言いにくそうだが。その様子から、俺は何が起こるのか察した。
「あ、来んですね?つばさ。」
「んださ。・・・。来んのさ~。その・・・明日・・・」
そのセリフで時間が止まった。
「えっと、明日、遊びに来るのさ、家に。」
たまらず、同じことを2度言う先生。動揺をかくして俺は静かに言った。
「知らねかったわ。こっちにも来んだべか?」
「たぶんね~・・・・」
「だべな~・・・・」
テーブルに両肘をつき両掌に顔を乗せる。
「まあ~、よろしく頼むわ、登くん。」
「はーい」
おれは少々不貞腐れたように返事した。
返事を聞くと、同時に、先生はソファーから立ち上がった。
「じゃ、まつりちゃん、麦茶ありがと。お邪魔したわね。」
「あ。いえいえ。おかまいもしないで・・・」
そうして、先生はリビングから出て行った。まつりも見送りをしについていった。
2人を横目で眺めながら、かなに連絡しなければ、と思い、スマホに手を伸ばした。
佐藤・鈴木って、この国では最高に匿名性が高い名字でしょうね。
さて、こっそり彼氏彼女になってしまうと、
引き返せないものがありますよね。周りに対して。
幸福なんでしょうかね・・・。




