㊸帰省・寄生・既成 その5
本城宅に泊まる佐藤兄妹。
さあ、夜も更けてきます。
Hkは海に突き出た砂州のまち。3方を海に囲まれている。昼間は暑くても、夜はけっこう涼しくなる。俺とまつりはゆりねえの言うがまま、ゆりねえのへやで寝ることになった。まつりとゆりねえはベッドで。俺は床に敷いた布団。昔の通りだ。
「で、まつりちゃん。札幌の中学校はどう?」
「いや、別になんも・・・。訛ってねーだけで、こっちと大した変んね。」
「ふーん。進学先は決めたの?」
「あ、お兄と同じとこか、その隣。」
「え、まじか・・・。おめ、けっこうできるんだな。」
おどろいた。思ったより、まつりの偏差値が高くて。
「へー、じゃ、のぼちゃんは?進学するの?」
「いや~、まあ、たぶん。」
「じゃあ、わたしと同じ大学にしなよ。」
どきっとした。はじけるような笑顔をでそういわれると・・・。
「いや、お兄の力じゃ、内地の大学なんて無理だべ。ゆりねえ、からかわないでけれ。」
「あら、しつれいね。のぼちゃんなら大丈夫よ。あと1年半もあるし。」
「いやでも・・・」
「ま、どうするかは来年決めるべ。はぁー。疲れたし。今日はもうねよ。」
俺はそういうと、布団にもぐりこんだ。
ほのかに甘い香りが、鼻腔をついてきた。誰かの気配を感じる。俺の背中越しに。まどろみから、うっすらと目を開ける。まだ真っ暗だ。もう一度目を閉じ、寝入ろうとすると、背中から腕が伸びてきえ、首元をとおり肩を抱くように抱きしめられた。背中にはやわらかくそれでいて懐かしい感触、息遣いが聞こえてくる。おそるおそる後ろを振り返ろうとすると、
「・・・・ね、のぼちゃん、」
ささくような小さな声が耳元でする。
「おきた?・・・。」
「ゆ、ゆりねー。」
「ふふ、久しぶりね、こうやって寝るの。」
「いや、だめっしょ、もうこれは・・・」
「なに、いまさら・・・」そういうと、こんどは首のあたりから、もう片方の腕も伸びてきて、俺は両の手で抱きしめられた。
「どうせ彼女もいない、さびしい生活なんでしょ?・・・」
「いや、だめっしょ・・・もう、ちいさくねーし。ま、まつりもそこにいるし・・・」
ゆりねえの片腕が、ゆっくりと下に下がっていく。
「ね、いいでしょ?」
「え、だ、だめだ・・・」
「ふふ、」
「いや、もう、ベッドさもどれ。」
「ふふ、やーだ。」
ゆりねえの手がおれの胸元から上にむかっていく。
「ゆりねー・・もどってけれ・・・たのむから・・・」
「・・・じゃあ・・・・「あの3人」・・・のこと、教えてくれる?」
俺はビクッとして目を見開いた。
「あの3人?なんのことだべ・・・わからないべ・・・」
「あららら。じゃあ、こんなことしちゃうよ・・・」
そういうと、ゆりねえは俺の体を引き寄せてきた
「あ、ゆ、ゆりねぇ、」
「どう、言う気になった・・・」
そういうと、ゆりねえの手がさらに動いていく。
「いいの?いじはってると・・・・」
「い、いやだ・・・もう、やめてくれ・・・」
ドン、
俺たちはビクッとしてじっと息をひそめた。
まつりがおきたのだ・・・。
ドス!
「(ヒっ)」
ゆりねえが声にならない悲鳴をだした。まつりがゆりねえの背中をおもくそけったのだ。まつりはそのまま、部屋をでて、階下へ降りて行った。トイレに行ったのだろう。
「ゆりねえ、まつりに気づかれる前にベッドさもどれ」
「・・・しかたないわね・・・でも、きかせてもらうからね・・」
そうささやくと、ゆりねえは布団から這い出し、ベッドへ上がっていった。
家康、秀忠、家光、綱吉・・・・
おれはいろいろ火照った体を冷ますため、徳川幕府歴代将軍の名前を唱えることにした。
「よく眠れた?」
朝食を食べにリビングへ行くと、おばさんにきかれた。
「ええ、久しぶりにゆりねえのへやで寝れて。」
冗談でねぇ。一晩中、見張っててこっちは寝不足だ。さすがにあの後はなんもなかったが・・・。
やっぱゆりねえ、「あの3人」気になるんだな。勘のいいゆりねえのことだ。駅の3人のことだと気付き始めてるんじゃ・・・。はやく、るみちゃんと合流しなきゃ。
「したら、まつり、朝めし食ったら、家さもどるべ」
「んだな。おかあもおとうも待ってるべ。」
わたしたちは、本城さんちの朝食を手早く食べた。はやく、るみちゃんと相談して、ゆりねえのことどうにかしきゃ・・・・。
「ねえ、のぼちゃん、りっちゃん。」
朝食の食器を台所へ片づけようと立ち上がっところで、ゆりねえが声をかけてきた。
「きょうは一緒に遊べるの?」
「いや、それは・・・・」
わたしが言い淀むと、
「今日は遠慮するよ。昼間は友だちと会うし、夜はおとうとおかあと積もる話もあるし。」ん
めずらしく、お兄が食い気味に口を挟んできた。
「ふーん、そうなんだ・・・・。つまんないな~」
「わりぃな。まだこっちさいるから、いつでも誘ってけれ。」
「んださ~。」
わたしたちはそういうと、台所へ向かった。
「ただいま~」
俺たちはドアを開けると、そう告げた。
・・すたすたすた。
かすかに聞こえる足音。カチャリ。リビングと玄関をつなぐドアのノブが回る。
「あら、お帰り。二人とも朝帰りって、不謹慎ね~。」
「本城さんちさ、いただけだだべ。」
「いつものことでしょ。」
「ふふふふ、冗談だべさ。おとうはまだねてるわ~。」
「んだか・・・まあ、入るべ。」
リビングに入る。正月に帰省したときと何ら変らない。時が止まったようだ。
「朝ごはんはたべてきたんでしょ?」
「ああ、よばれてきたべや」
おれとまつりはリビングの端に荷物を置きながら返事した。
「じゃ、コーヒーでもおとすかい?」
「うん、おねがい」
今度はまつりが返事する。
リビングのソファーに二人で腰を落ち着ける。
「お兄、今日は誰と会うの?」
唐突だな。いつもは俺の予定なんて気にしてねーくせに。
「いや、何処も行かね。家でゆっくりしてぇ。」
「え・・・。じゃ、ゆりねえには嘘ついたの?」
かなり意外そうにまつりは言う。
「んだ。そうでも言わねば、今日もゆりねえに引っ張りまわされるべ。それに・・・・」
「それに?」
「へたに街中うろつけば・・・つばさに見つかる・・・。」
「そりゃそうだねー」
「おめは、出かけるのか?」
「んだ。昔馴染みと会う」
「んだか。じゃ、ま、たのしんでこいや」
珈琲の香ばしい香りが強くなる。ごぽ。ごごごぽ。
「最近、あんべ悪いのさ。この珈琲メーカー。」
そういいながら、おかあは珈琲を2つのマグカップに注ぐ。
「ほれもってけ~」
俺たちは台所へ行き、マグカップを手にまたソファーにどっかりと座った。
珈琲をすすりながら、昨日の夜のことを思い出す。ゆりねえは、まだ俺を・・・。
だから、今日は嘘をついてまでもゆりねえを拒否した。しかし、それとは正反対に、ゆりねえと会いたいという欲求もある。どうしようもないジレンマにおちいってしまう。
くそ、くそ、くそ、くそう!
もう考えるな。
おれは珈琲を飲み終わると、マグカップをダイニングテーブルに置き、リビングを出ようとドアノブに手をかけた。その刹那、
「あ、わたし、すぐ出かけるから。」
「え、こったら朝早く?」
「んだ。」
「あらあら、おとうにあっていかんの?」
「あ、うん・・・そのちょっと遠いのさ、友だちんち・・」
「ふーん、おとう、残念がるわ~」
「じゃ、お兄がその分、親孝行しておいて。」
「え、お、おれ?」
「んだな。のぼ、おとうのあいてしてやってけれ。」
「すっかたねーなぁ。わかったで。」
そういううと、俺はリビングのドアを開け、廊下の突き当りの階段を2階へとあがっていった。
2階の自室に入る。正月以来だが、何も変っていない。自分の部屋なのに、もう、他人の部屋に入ったような不思議な気分になる。ベッドに横になる。見慣れていた天井を見つめる。ゆりねえはどうして・・・。どうせち、帰ってきた!。なぜ会ってしまう・・・。考えまい、考えまいとすればするほど、昔のことが走馬灯に脳裏を走る。心はどんどん暗転していくのに・・・・。
「おれは、変態か?・・・。」
「したら、いってくるわ」
そう言ってわたしは、勢いよく玄関をとびだした。一刻も早くるみちゃんとあって、今後のことを相談したかったからだ。田家町から五稜郭の繁華街、電停まで走った。Hkはちっこい町。走れば電停まですぐだ。(けっこうあるけど。)
久々の路面電車。やっぱり落ち着く。札幌にも路面電車はあるが、Hkの路面電車の方がやはりいい。車窓を流れるHkの町並は風情がある気がする。今はそれに、寂れた哀愁も漂うけど。
弥生坂の最寄りの電停、「大町」で降りる。と、例の3人の出迎えがあった。
「いや、ごめんね、まつりちゃん、こったら早く呼んじまって・・・」
「なんもなんも、いいさ。るみちゃん。」
「この二人、どっしても話聞く!っていって、きかねのさ」
「そうだべな~」
弥生坂を登りながら、わたしとるみちゃんはひっきりなしに話した。会うのは久しぶりで、話したいことが山ほどあったからだ。後の2人は神妙な顔で後ろからついてきた。
坂の中ほどにある、るみちゃんの家。この家に来るのはもう、4年ぶりだ。
「さ、あがってあがって。」
たたきでローファーを脱ぎ、かって知ったる、るみちゃんの部屋へ。8畳くらいの広さで、ベッドとライティングデスク、ローテーブル、すべて白で統一されていて清潔感があふれる部屋だ。前に来た時と全く同じ。あたりまえだが。
「で、あの本城さんと登って、どんな関係?」
ギャルぽい、派手目の女子が座るやいなや聞いてきた。
「まあ、まあ、そんなきき方したら怖いわよ、りおさん」
なんか変に落ち着いた、ロングヘアーの巨乳清楚女子がゆっくりとした口調でたしなめている。
これが、例のかなさんか・・・るいちゃんが一番警戒していた・・・。こういうタイプが意外に積極的なんだよ。だって、さっきから、笑顔だけど・・・目の奥がわらってないもん。るみちゃん、たいへんだなこの2人相手にするの・・・。まったく、お兄の何処がいいんだか・・・。
「まあ、時間あるしゆっくりきけばいいっしょ。ねえ、まつりちゃん。」
「んだな・・・」
「じゃ、聞かせてくれる?ゆりねえと登のこと。」
ギャルはけっこう短気だなや・・。しゃあないか。
「じゃあ、話すけど・・あんな・・・」
『うん』
「けっこう生々しい話だけど、ええか?」
「・・・・」(ごくり)
3人の生唾をの聞こえた気がする。
「じゃあ、るみちゃん、いいか?るみちゃんにも初めて話すことだで・・・」
「う、うん」
この帰省編は見切り発車でだったなあ。
どうやって区切りつけるかな~。
本城さんとの因縁も区切りつけねばな~。
ちょっと考えるべ。




