①「はぁ?、この学校は気がふれてるのか!」
ぼちぼちと続きを書いてます。
バスからおりて、通学路を歩きながら、俺「佐藤登」は、高校最初で最後のクラス替えに、少なからず期待していた。
親しい奴と同じかとか、かわいいあの子と同じクラスになれたらなぁ、とかそんなことでは断じてない。
全くないわけではないが・・・。
俺の期待することは唯一つ。
同じクラスに『佐藤』が俺一人であってほしいことだけだ。
ほかの苗字のやつらに、こんなことは解るまい。
病院の待合室で。銀行で。はては飲食店で待つとき。
「佐藤さん」と呼ばれるたびに我々「佐藤」は周りを見回しながら少し腰を浮かせるのだ。
そうして周囲を見ると必ず同じようにしている人が1人2人いるのだ。
多いときは3、4人。
なぜだ。なぜ、世間は「佐藤」を呼ぶときフルネームで呼ばないのだ。
この国で最も多い苗字「佐藤」なんだぞ!
ランダムに日本人を10人集めれば必ずいるはずだ『佐藤さん』が・・・・。
そんなわけで俺は今まで幼、小、中と、同じクラスに必ずもう1人2人『佐藤さん』がいた。
それだけならいい。俺のように特に目立つこともなく、なんの特徴もない「佐藤」だと
「佐藤さん」
『はい』
「あ、ごめん。えっと、じ、いや登の方ね・・・」
(いま、地味な方って言おうとしたよね?!)
もう一人が陽キャだったり、部活動のエースや優等生だったりすると、
「佐藤(普通の)」「佐藤(地味な方)「佐藤(暗い方)」など
ありがたくない二つ名がついてしまうのだ。
高1の時も、もう一人「佐藤」がいたが・・・
「おはよう登。」
昇降口で靴を履き替えているとふいに声をかけられた。
「おう、おはよう、貴」
そうこの「佐藤貴」だ。見た感じはかなりのイケメンだ。
貴は中学までは野球部だったが、高校ではやっていない。情報処理研究会という、不定期な同好会に所属している。事実上の帰宅部だ。
俺も帰宅部なので、2人とも実に地味な一年間を過ごした。お互いこれといった特徴がなかったおかげでおかしな二つ名もつかず、クラスでは名前で呼ばれていた。
まぁ、呼ばれること自体が少なかったが。
そんなわけで、貴とは帰宅部どうし、一緒に帰ることが多かった。いつも穏やかに話す貴とは気が合った。いつもおれはことあるごとに、「「佐藤」という苗字がなぁ」「違う苗字になりたい。」「婿養子にいきてー」と愚痴をこぼしていた。貴はあまり同意してくれなかったが。
「クラス発表、見たかい?」
「いや、まだ。」
「ぼくはもう見たんだ。」
「え、・・・・・・どうだった?」
「残念なお知らせだよ。」
苦笑いの貴。
「え、・・・まさか」
不安げに俺はきいた。
「・・・・また、ぼくと同じクラスさ。登の願いは叶わなかったね。」
「あ、なんだ。貴と同じならいいさ。」
おれはホッとした。
「う~ん・・・・・・・・」
「はあ?なんか他にもあるのか?」いぶかしげに俺は貴を見つめる。
「・・・・まあ、自分で確認しなよ。」
新クラスに何かありそうだ。俺は何とも言えない不安感におそわれていた。
「ああ、そうする」
「俺たち3組だから。」
「わかった。サンキュー。」
貴はそそくさと教室に向かっていった。
上靴に履きかえ、クラス名簿が貼ってある体育館に向かう。前は外に張り出していたが、北海道の4月はまだ寒い。雪が降るときもある。数年前から体育館に張り出すことになった。
「え~」「まじかよ」「やったー」
高校生も小学生と同じだ。クラス替えで一喜一憂する。ま。そりゃそうだ。
高校生活の残り2年間が決まるのだから。うちの高校は、2、3年と同じクラスになる。新2年生でごった返す体育館。人ごみをかき分けながら、体育館の壁に張り出された名簿に向かう。誰と同じクラスか、気になる子はどのクラスか。そんな思いが全員の熱気から伝わってくる。おいおい、そこのきみ、そんな血走った目で睨むなよ。何度見ても変わらんよ。
「同じクラスだね~よかった」(ほんとにそう思っているのか?)
「違うクラスでも仲良くしてね~」(うん、きっとむりだね)
「気を落とすなって。俺が力になるから」(そいつは偽善者だ。早く手を切れ)
声を出さずに悪態をつきつつ、3組の名簿前に立った。
ドサッ
人間ショックを受けるとほんとに持ち物を落とすらしい。
目を見開いて名簿を何度も見た。
そこには佐藤が6つ並んでいた・・・・。
しかも鈴木も5つ並んでいた。
(はあ?この学校は気がふれているのか!)
俺は声を出さずに大きな声で悪態をついた。
いや、ほんとこんなクラス替えあったらなあ、面白いだろうなあ