⑯ぬりかべ女王
ぼくはぬりかべ好きですよ。
はい。もちろん女子のぬりかべも。
節操なんてないです。
遅れて来た俺は、会議室の重苦しい空気を感じた。かなを探した。かなはうつむいたまま、肩を震わせ、青白い顔をしてすわっていた。隣に座ろうとした俺に、
「あら、1回目から遅刻とは、いいご身分ね。」
鋭く声がかかる。
「あ、すいま・・・」
そこにはあの女がいた。去年、かなのことを目の敵にしていた女。五十鈴まどか。高1のときのクラスの女子ボス。運動、学習すべてに秀でていて容姿端麗。学内で一目をおかれていた女子のエース。
「五十鈴さん、さっきも言ったけど、登さんは担任に呼ばれていたんだ。」
駆け寄ってきた亮が、口添えしてくれたが…
「ええ、知ってるわ。どうせ、昨日のことでもきかれていたんでしょ。年上だけじゃないのね、女ならだれでもいいのかしら?」
俺はむっとしてきた。まあ、否定できないが。でも、俺にも意地ってものがある。
「いや、誰でもというわけではありません。生意気ですが、俺にも好みがあるので。」
「はあ?失礼だけどそんなモブ男で?好みがある?笑わせないで!」
「ええ、かべみたいな平らな方は好みではないので・・・・。」
「なっ!」
周囲の委員は笑いをこらえていた。
そう、まどかが、かなを目の敵にするのは、かながクラスで最も大きかったからだ。五十鈴はかなりない。というか、かべだ。高1の時はかげで、「ぬりかべ女王」と呼んでいた。完璧超人五十鈴まどかのただ一つのコンプレックス。それが小学生以下の胸のサイズだ。
「ぅっく、まあそろったんで、続きを話さないか?委員長。」
笑いをこらえた亮が割って入ってくれた。
顔を真っ赤にして怒りをこらえるまどか。
俺はかなの隣に座ると、
「さっきまで、かなさんだいぶ責められたんだ、五十鈴さんに。決まってないの?とか、何であなたがしらないの?実行委員でしょ、とか」
亮は俺に耳打ちしてきた。
「え、少ない方にするんだろ、それなら俺がいなくても・・・」
「まあ、見てくれ。黒板」
と言って、肩をポンとたたいて生徒会代表席へもどっていった。
俺は黒板を凝視した。え、と、喫茶店がえー4つかぁ、お化け屋敷が、いち、にい・・・・え、4つ!何度数えても同じだ。
「登くん、どうしよう・・・・・。」
かなは五十鈴にいろいろ言われたせいか、今にも泣きそうだ。
「さあ、二人そろったので、2-3の催し物、教えてください!さあ!!」
さっきのやり取りのせいか、怒りがおさまらないらしい。語気がかなり強い。
「他のクラスの委員を待たせているの、早く!」
困ったぞ。同数になったときのことは想定していなかった。どうする。どうする。
「ね、登くん。あとで伝えますということにして・・・」
「いや、それじゃ、またあのHRの再現だ。俺たちも洋子たちも一歩も引かないだろ。」
「・・・そうね・・・・」
「2-3!こそこそ話してないで、教えなさい!」
委員長の怒気のこもった声が会議室に響く。
「はい、2-3の催し物は・・・・・お化け屋敷喫茶です!」
一瞬の沈黙をおいて
『は?ああぁ~!?』
会議室に委員たちの驚きの声が上がった。
「え、なに?お化け屋敷?喫茶店?どっちなの?」
五十鈴委員長の質問は全員の疑問を代弁している。おれもきいてみたい。どんな店だ。
「い、いや、その、そう、お化け屋敷とメイド喫茶を合体させた、今までにない催し物です!」
「しかもメイド喫茶なの?」
委員長は呆れている。わかるよ。俺も自分で言ってて呆れている。亮なんて信じられないくらい目を見開いて俺を見ている。かなはあっけにとられて、口が半分開いたままだ。
「そんなことできるの?一クラスに当たる貸付金は決まっているのよ。準備できないでしょう!馬鹿なことは言わないでちょうだい。」
うん、その通り。そんなバカなことは考えられない。どちらかだけでも準備は大変だ。しかも貸付金は片方だけの準備でもかつかつだ。二ついっぺんにやるのは労力的にも金銭的にも無理がある。そんなことは俺だってわかっている。周りの委員も「いや、無理だろそれ。」「何言ってんだ?」「やっぱ、ギャルとよろしくやってる隠れ陽キャは・・・」と口々につぶやいている。くそ!
「大丈夫です!僕たち2-3なら実現可能です。やって見せます!!」
『・・・・・・・・・・・・・・』
理科室に静寂が訪れた。静寂を破ったのは委員長だ。
「・・・・いいでしょう。そこまで言うなら、認めます。でも、貸付金、すなわち予算は他のクラスと同じです。準備金が足りなかったら、自腹を切ることね。いいわね!」
「まかしておいてください!ぬ、いや、五十鈴委員長!」
あぶない、ぬりかべ女王というところだった。
「では、第一回学校祭実行委員会はこれで終了です。各部、各クラスは、計画書を次回までに必ず提出してください。いいですね。特に2年3組!よろしくお願いします!」
「はーい、わかりました!」
と俺は当てつけのように大きな声で返事をした後、
「食パンガールさん」とかなにだけ聞こえる声でつぶやいた。ぬりかべ女王よりはかわいいあだ名だろ。
「くく・・・・くくく・・・・」
かなは笑い声をかみ殺していた。
小さくても、大きくても、僕は好きです。
すいません。節操なんて、もうどぶに捨ててます。
いいんだい!!




