106 修学旅行⑩
昔は・・・・
観光客のためってよりは、地元民が利用するところだったんだけどね。
いまは寄ることほとんどないかな・・・。
朝5時・・・・。まだ暗い中だが・・・たたき起こされた。
「起きろ! 登!!」
はじめの殺気だった声。
「いやだ、寝ていたい」
俺は、布団にもぐりこんだ。
「だめだ!起きろ!!」
目が血走ってる亮。
「いやだ!行きたくない!」
「だめだ!・・・俺たちが閣下にどやされる!!」
はじめというと、裕一に布団から引き釣り出された。
「あきらめて、着替えよう。登・・・・」
諦観した顔で貴が俺の前に座っていった。
しかたなく、着替え始める。すると、なんだか女子部屋も騒がしい。
「なんか~、もめてんのかな・・・・」
ぼそりとつぶやく真一。
パタパタ・・・
廊下にかすかに聞こえる足音。
すると、
コンコン・・・・
ノックの音がかすかにした。
足音を忍ばせて、はじめがドアに近ずく。大きな音をたてないように、慎重にドアノブを回し、ほんの2,3㎝ドアを開ける。
「なに・・・どしたの・・・」
「あ、、ごめん・・登いる?」
ひそひそと話す声の主は鈴木かなだった。
「るみがごねて、布団から出てこないの・・・登に説得してもらいたくて。」
「・・・ああ・・・わかった・・・」
というと振り向き、
「のぼる、ご氏名だ・・・」
「え・・・なんで・・・」
「行きたくない理由は、君と一緒だろうよ・・・」
「・・・わかった・・・」
慌てて、パーカーを羽織ると、俺はかなと女子部屋へいく。
音を立てないよう慎重にドアを開けるかな。
そして、かなに続いて部屋へ入る。
9つの布団。窓際の一つだけ、掛布団が膨らんでいる。まるで熊の冬眠のように何者かが丸まっているのがわかる。
御厨先生をはじめ、るみを除いた全員がもう着替えも済ませて立っていた。
「ちょっと・・・るみが行かない、寝てる、留守番するって・・・きかないのよ。同郷のあんたが何として!」
閣下はおかんむりだ・・・。
「ま、いまさらっていきたくないのは・・・わかる気もするけどね・・・・。」
御厨先生もきもちはわかるらしい。まあ、そうだろう。いまさら行きたくない。わざわざ朝早く。
「さ、のぼる・・・」
けいに促されて、るみの寝床に近づき、枕元あたりにしゃがみこむ。
「るみ、おれもいくから、おめもいくべ・・・」
「・・・なして、いまさら、あったらとこに・・・こんな、くそっぱやく・・・」
布団越しに聞こえる、めんどくさそうな声。
「あ、ま、久しぶりだで、行ってみるべや。なんか、知らね、こと、あるかもよ。」
「・・・あるわけねーべ・・・」
「わかるけどもな・・・はじめと亮の顔さ、立ててやるべ?なぁ?」
「・・・・いや・・ねむい・・・寝てる・・・」
ふ~・・・。
ため息をついて立ち上がり、
「いや~・・・たいしたごんぼほり(強情)だ、じゃあ、おれと・・・・」
と言いながら振り返ると・・・。
女8人からの、鋭い目線が突き刺さる。
「・・・留守番ってわけには、行かないね。うん。」
再び振り返りしゃがみこむ。
「な、るみ!行くべ!・・なんか、おごるから、な?」
「・・・いらね・・あそこのものは、だいたい食ってる。・・ねる・・・」
しゃがんだまま振り返る。
女子一同はは無言でうなずいた。
「るみ・・・ごめんな!」
そういってい思いっきり掛布団をひん剥いた。
が、るみも布団にしがみつき、放そうとしない。
「・・・いやだ・・・いまさら行きたくね・・顔見知りもたくさんいるしーーーーー」
と布団を力いっぱい寝転がったま引っ張る。
「くーーーーー・・・そん・・なの俺だって、おなじだ。いいべや、思い出話でもせ!」
負けずに布団を思い切り引っ張る。
「こっぱずかしいべや・・・・・・」
掛布団に両手でがっしりつかむ。
「いいから!・・・・あ・・・・」
引っ張りあってるうちに、るみ浴衣が乱れている気づいた・・・裾は乱れ、両足が思いっきり見える。白い両太ももが見えていて、今にも下着が見えそうだ・・・。胸元もはだけていて、深い谷がくっきり見える上に、豊かにそびえる双丘とその頂が・・・見えそうである。思わず力が抜ける。
「・・・ん?どした?」
力が抜けた俺の姿を見て、不思議がるるみ。
「あ、るみ・・・その・・・ちょっと刺激が・・・」
と、けい。
「ん、なんだべ?」
「その・・・いろいろ・・・みえそうよ・・・」
はっとするるみ。
「え、きゃ、いや・・・み、見るなおめ!」
布団からあわてて手をはなすと胸元を右手でかくし、左手で、浴衣の前を合わす。
「え、いや、見てねっぞ。うん、見てね。」
慌てて取り繕うが、
「そうね‥目に入っていたとは思うけど。」
とかなの冷たい指摘がとんできた。
「じゃ、着替えよーるみ。」
いつの間にがあんが、るみの背後を取っていた。
「じゃあ、20分後ロビー集合ね。男子に伝えておいて。」
御厨先生の支指示を合図に、俺は女子の部屋を出た。
6時少し過ぎ、俺たちは全員ロビーに集合した。玄関前に待ち受けていたタクシーに分乗する。
鞍馬で20分ほどで、目的地に着く。
「おー、けっこう来てるんだね」
タクシー下りて開口一番、来島さんが驚いた。
「ああ、今は、まあ、有名になってまったからな。朝早い時間は、函館衆しかいねかったんだけどな。」
「んだ。朝いが(いか)買いに来たもんだった。」
るみも感慨深く観光客の往来を道端から眺めている。
そう、ここは函館朝市。函館駅に隣接するこの市場は函館でも一大観光地だ。地元民にとっては、朝どりいかなど、新鮮なうちに買うため、朝早く来たもんだ。(いか漁は夜行い、朝水揚げされる。)が、いまは、いかもあまり、あがらなくなり、地元民より、観光客ばかりだ。
早朝の雑踏のなか、市場のメインストリートを歩く。
「あんちゃんがた、味見しねか?」「よってかねっか?」
歩く道すがら、あちこちから声をかけられる。
「さて、はじめくん、どこに行く?」
洋子が、満を持して聞くと、
「ああ、じゃあ、亮、どこ?」
「え、はじめ決めてたんじゃ・・・」
「・・・・・・・」
見つめあうはじめと亮。
「はあ、意外と無能ね、副会長も書記も・・・」
柳川さんがため息とともに、告げる。
ふと、五十鈴会長を見ると、今にも切れそうな顔をしていた。
「あ、まあ、こういうとこは、自由に買いものしたら、いいよね。ね、ね、ね、けい!」
洋子の必死のフォロー。
「そうよね!だって市場だもん、いろいろ見て回りましょう!あ、自由行動ってことでいいんじゃない!」
「・・・先生、よろしいですか?」
苦渋の顔をして、五十鈴会長がお伺いをたてた。
「そうね~、じゃあ、時間と場所を決めましょうか」
と、言うが早いか、かなが俺の隣に来て、腕をとった。
「案内してよ、登!」
「え、いや、る、るみに頼めばいいべや・・・」
「・・・私が頼める立場じゃないでしょ?登なら、共犯者だし、彼氏だし。」
といって、俺の右腕を手に取ってぐっと引き寄せた。
「・・・元、だよね・・・ね?」
おそるおそる確認する。
「・・冷たいのね・・・あんなに尽くしたのに・・・・・・」
うんと・・・尽くされたか俺?むしろ俺がつくしたのでは・・・。いや、まあ、いい思いもしたとは思うけど・・。
「・・焦んな、元カノ。」
気がつくとるみも俺の隣に来ていた。
「仕切り直しってのはな、0からってことだべ。そう、焦るなや。みっともね。」
「・・・っち・・・」
あ、舌打ちした・・・。印象が・・どんどん変る。鈴木かな、思ったよりたくましい?腹黒い?
「登、どこさいく?」
「え、おれ?いや・・・・・・特に行きたいとこないし・・・」
「んだか・・・じゃ、ついてきて。かなも行く?」
「え、う、うん」
そういうとるみは、メインストリートからはずれ、入り組ん路地に入っていく。魚やや八百屋、その裏側が所々開いている裏口風の扉からチラチラと伺えた。
狭く入り組んだ路地をどんどん進む。すると、周りと見分けが全く付かない、銀色に光る、アルミの引き戸の前で彼女は立ち止まった。
そして、躊躇なくその引き戸を開ける。
「ん、だれだぁ~?」
中には中年の夫婦らしき2人がいた。
「あんれ、るみでねっか~。しばらくだったね~。」
「しばらくだっね~、おばちゃん、おじちゃん。」
どうやらここは飲食店の裏側、休憩室?のようなスペースらしい。
「るみ、後ろの二人は?ともだちかい?」
優しそうなおばさんは、こちらに微笑みながら、尋ねてきた。
「んだ、同級生さ。修学旅行で、朝市さ来たんだ。ついでに寄らせてもらった。」
「そっかー。おめ、奥地(札幌)の学校さ行ったんだもんな。」
五分刈りに、ねじり鉢巻き、そして、引き締まった日焼けした顔。そして、とびきりの笑顔。あれ、この人、どっかであったことあるような・・・。
「なあ、おじちゃん。仕込み終わった?」
「ん、ああ。おめ、それが目当てなんだべ。今日はな、実家から、いかと、たいしたいいほっけモテ来たんだ。食うべ?」
「うん!」
「おともだちも、たべってって。遠慮しなくて、えっからね・・・」
「あ、ありがとうございます。」
緊張気味のかながお礼を告げる。
「ありがとうございます。ごちそうになります。」
そういって、謎スペースの休憩室から、その隣の板場、そして、さらに店内に行く。
2坪歩かないかくらいのスペースに四角いテーブルが4つ。よく、食堂なんかでかけられているビニールのクロスが引かれている。1テーブルに4つのパイプ椅子。
「るみ、好きな場所さ、座ってもらって」
適当なテーブルに3人で座る。当然のように俺の隣に座ろうとするかなを、るみは目で制した。
俺の対面にるみとかなが座る。
「ここはな、うちのおじさんがやってる食堂だ。」
おじさん・・・。
「・・八幡丸の・・・」
と、かなが口にする。
「んだ。八幡丸のおじさんの弟だ。」
ああ、なるほど。あの人の・・・。どーりで。見たことあるきになるわな。
しばらくすると、
「はいお待たせ!」
おばさんは、開きホッケ焼きと、いかさしを持ってきた。
「るみ、友だちも、遠慮なくたべてね。」
そう言いながら、白米と味噌汁ももってきてくれた。
最高の朝食にありついた。
あ、まだ、帰れなかった。
奥地さ、帰らねば。つーか、帰さねば。
一応、がんばって旅行感出そうとしてたんだけどね。




