105 修学旅行⑨
修学旅行編も、もうすぐおしまいです。
大浴場の男湯。佐藤と鈴木しかこの場にはいない。それが、なんか不思議な気分だ。湯船につかりながら、久々に裕一と話す。
「裕一は、やっぱいいガタイだな」
「おお、あんがと、でも、まだ、たりないんだ」
「え、そうなの?」
「登はしらんもんな・・・俺、卒業したら・・・東京に行くんだ。」
「え、まじか」
「ああ、ゆりさんの紹介で、プロレス団体に入団するんだ。冬休み中、面接と軽くスパーリングしてきた。」
「すげーな。もう進路決まってんだ・・・」
「ああ。もう少し筋肉つけて、からだでかくしてこいって、そん時言われた。次は夏休みにまた行くんだ。」
たんたんと話す裕一を見て、なんて大人なんだろうと思った。かれは、きちんと将来を見据えている。俺がおかしな一人相撲している間に、人生を考え、着々と準備を進めていたんだ。
俺はなんてガキなんだろう・・・。ああ・・・自己嫌悪・・・・。
「どうした?暗い顔して。」
気づくと、反対隣に貴が来ていた。
「いや、裕一がもう進路決まってるって聞いてさ。」
「ああ、そうだね。僕もすごいと思う。僕も、まだ何も考えてないからね」
「いや・・・おれは、百合子さんと知り合えたからだよ。そういう意味じゃ、登のおかげかな。」
「え、いや、おれは何もしてないし・・・」
「でも、登がいなきゃ、知り合えなかっただろ?」
「うーーんそうかな・・・」
「そういいことに、しておきなよ、登。そんなに気に病むんなら、僕にもいいコネ紹介してほしいね。」
貴はいたずらぽく笑いながら言った。
「ああ・・・じゃあ、剣術道場の一人娘に婿入りってのなら、紹介できるけよ。どう?貴にぴったりだと思うよ。」
「それ・・・罰ゲームだろ?普通に。」
「うーん、案外、お似合いな気がするな」
「裕一もそう思うだろ?」
「ああ。」
「やめてくれよ。ああいう子は・・・趣味じゃない、っていうか・・・・怖い」
「あれでもいいところあんだぜ、怖いっていうな・・・・よ・・・」
とその時、ゆりねえを、抑え込んだ久子師範を思い出した。つばさも将来あれくらいの腕前になるんだろうか・・・。
「いあ、ごめん・・・こわいよな。うん。こわいわ・・・」
とりとめない会話。ここ3か月話す機会がなかった俺には、なんだかうれしい。
「でー、はじめっちゃん、洋子とどこまでのつきあいーー」
少し離れたところで、はじめ、と亮とつかっていた真一は、いつもの調子で、はじめに話しかけた。
「いや、俺たちは・・・その、健全な付き合いだ・・・」
「えー、隣同士で、おうちデート、しまくりジャン?それで健全?」
「う、うるさい!ほっとけ!!」
「んーじゃあ、亮はー?」
「え、お、俺?・・・いや俺はその・・・学校で会うくらいだから・・・・」
「えー、デートとかしないんですかー、いいんですかーそれでー」
「煽るなよ・・・いろいろ、我慢してるんだよ!」
だよーだよー。
『・・・・・・』
「あ、亮・・・何を我慢してるのかな・・・参考までに、教えてほしい・・」
はじめは、かなり興味深々という様子を、必死に隠しながら、訪ねている。
俺も耳をダンボにして聞き入った。
「っく・・・いえるか!そんなこと!!」
顔が赤いのは、温泉のせいだけではないだろう。
温泉から部屋へ戻ると、男子部屋になぜか女子も全員集まていた。
「あれ、どうしたの?みなさん?」
とのんきに尋ねた亮に、会長閣下から指令が下達される。
「あすの予定を、副会長と書記で決めておきなさい。」
『え?』
「もう、登とるみに任せてはおけません。あなた方2人がやはり適任。今日中に、明日の計画を立案しなさい。会長命令よ。」
「・・・職権乱用じゃ・・・」
「なに?はじめさん。聞こえないわ!」
「なんでもありません」
「だいじょーぶ。洋子さんにもけいさんにも、許可は得ているから。思う存分、時間を使って。」
洋子とけいは手を合わせ、「ごめん!」と意思表示していた。
すると、五十鈴閣下はキッと、洋子とけいをにらみつけ、
「わたしの目の黒いうちは、いちゃつかせないからね!!」
ああ・・・職権乱用じゃない。ただの私怨だ・・・・。
さて、札幌に帰るよ。うん。




