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ギルド加入って大変!

 やっぱり転生・転移といえば、冒険者ギルドでしょ! なんかちょっとテンションあがってきたかも! ボクってこんなにメンタル強かったっけ?

 2階建ての、かなり大きな建物。ちょっとためらってから、ドアを開けてみた。

 なかは、結構人もいて賑わってる。広間にテーブルと椅子がいくつも置かれていて、5人の冒険者の集団、離れて若い男女の冒険者2人がくつろいでる。赤髪の女性のほうは動きやすそうな軽装と短刀を装備していて、かわいい。ついまじまじ見ちゃって、目があっちゃった。男のほうは、金髪のさらさらヘアーの剣士。恋人同士なのかな。


 奥に、受付のカウンター。そのわきに、依頼の書かれた紙が貼り付けてある、大きなボードもあった。その隣は、売店みたい。冒険関連グッズのお店かなぁ? 軽食などもあるっぽい。

 服のおかげか、さっきまでと違って全然注目されたりしない。


「わあー」


 思わず声が出る。「冒険者ギルド」っぽいなぁ!

 とりあえず、ギルドに加入しておけば、いろいろ便利かもしれないよね。自分に戦闘なんてできるわけないと思うけど、採取とか探索なら、もしかしたらできるかも。鉱物のことなら、多少はわかるし。

 早速カウンターに近寄っていった。


 カウンターには、若い女性がひとり座って、下を向いて何か書き物をしている。


「あのお、すみません」

 おそるおそる、声をかける。

 顔を上げた受付の職員は、青い制服に身をつつみ、長い黒髪がきれいな美人さん。知性的な目の輝きが印象的な女性だ。24、5歳くらいかな? ちらりと見える胸の谷間が立派で、うらやましい。だって、ちょっとエッチなかわいい服が似合うから。


「はい、なんでしょう? ギルド受付のミル・イスファと申します」


 こちらを向いて、さっと笑顔に変わる。手元の書類をそろえて脇に片付ける手つきが、すばやい。

 ボクがまったく初めての来客だと咄嗟に判断したのだろう、自己紹介も付け加えた。


「こんにちは、自分はカオルといいます。えーっと、ギルドに入りたいんですけど…」

「はい?」

「冒険者になりたいんですが、どうしたら」

「冒険者になるのは自由ですよ?」

「ああ、そうですか」

「ギルドに加入希望ということなら、まず必要書類の提出が必要ですね」

「書類」

「ええと、もしかして、なんにもご存知ありません?」

「…はい」


 ミルさんは、小さくため息をついた。あ、呆れられてる。


「まず、出生地で発行してもらえる出生証明書、あるいは身分証明書が必要です。なければ、ギルド加入はできません。次に、5等級以上のギルド加盟者3名による推薦状、もしくはギルド認定の各種技能学校の卒業証書と成績証明書も必要です。以上の書類がそろったら、面接と技能試験を行い、合格すれば加入できます。技能学校の卒業証書と成績証明書があれば、技能試験は必要ありません。以上が簡単なギルド加入の流れになりますね」

「…」

「なにかご質問等ありますか?」

「別の国で生まれた場合は、加入できないってことですか?」

「身分証明書を取得すればできますよ」

「それはどうやったら」

「3年以上の国内での納税実績か、なにか特別な功績をあげて表彰されれば、発行されます」

「5等級以上の、というのは」


 ミルさんの笑顔がひきつってきた。声が大きくなってきて、ギルド内の冒険者たちの目が、こちらに向けられる。

「それもご存知ないんですか。…ギルドでの等級です。最上級の1等級2等級から、7等級まで分かれてますっ」

「あ、そうでした。はい…」


「…そんなことも知らないでギルドに入りたいって思ったの? ええと、あなた、この街の娘? このあたりの衣装みたいだけど」

 口調を変えてきた。むしろ、心配されてる…うう、恥ずかしいよぅ。でも仕方ないじゃない、ほんとに知らないんだから…

「いえ、今日、別の街から来たばかりで」

「なにか戦闘の技能とか経験、あるのかしら?」

「…全然ないです」


 額を押さえて、またため息をついた。

「いい? 冒険者なんて、あなたみたいな娘が関わるようなものじゃないのよ。クマとか、自分より大きい蛇とかと戦える? 戦えないでしょ? 悪いことはいわないから、やめておきなさい、ね?」

「…はい、やめます、ごめんなさい…」


 顔をぐっと近づけてきて、小声でひそひそ。

「冒険者なんて、基本ろくでもないやつばっかなんだから、あなたみたいなかわいらしい娘が、目指したりするもんじゃないの。まともな冒険者もまあたまにはいるし、若い女性の冒険者だっていないことはないけど、大体あばずれみたいのばっかり。わたしだって、1日に3回は口説かれて、もううんざりなのよ」

 ちょっと自慢入ってるような気もするけど、まあそれはいいとして。


「すいませんでした…」

 ボクはうなだれて、カウンターをあとにした。ちょっとかわいそうな子を見る目で見送るミルさん。


 まあそうだよね、なにも条件なしで入れるわけないよね…なんか恥ずかしくなって、入口の脇にあるベンチにへたりこんで、これからどうしようか、呆然とした。

 扉が開いて、ひとりの初老の冒険者らしき人が入ってくるのを、ぼんやり眺めた。ちょっと他の人たちと違う雰囲気。ローブを着て、謹厳そうな顔つきも品性を感じる。もしかしてあれは魔法使いとか?

 胸もとに鎖でぶらさげたきらきら光るものをつけている。あれは…小さな水晶だ。しかも、なんか淡く深紅の光を放っているように見える。なんだあれ! すごくきれい。すてき。

 その人は受付のミルさんとしばらくなにやら談笑してから、売店でコップに入った飲み物(お酒?)を買ってから、広間の席に腰を下ろして、くつろぎはじめた。

 気になるな、あの水晶。なんだろう。


 ボクは立ち上がって、ミルさんのところに近寄った。


「あのーすいません」

「あら、まだいたのね」

「今の人って、他の人たちとちょっと雰囲気違いますよね?」

「サアディーさんのこと? 3等級の魔法使いよ、魔法使いは特にこの辺では珍しいけど、みんな紳士なのよねー。なかなか渋いおじさん!」

 まあやっぱり女の子同士の会話には餓えてるんだと思う、この職場。ずいぶん親し気な口調になった。ボクは男だけど。

「魔法使いさんって、はじめて見ました」

「数少ないからね。知ってる? 今年の魔法学校の卒業生はたったひとりだったらしいわよ」

「そうなんですか、あの人は強いんですか?」

「どうなのかしらね、専門は火魔法だから、戦闘よりは技術系なのかな?」

「魔法について詳しく知るにはどうしたらいいのかなあ?」

「図書館に行くといいわよ。こんなとこにいないで、図書館で勉強すれば、首都で仕事見つけられるかもしれないし、お姉さんはおすすめするかな」

「ボクでも大丈夫なんでしょうか?」

「優秀なら、出身や親の仕事とか性別とか全然関係ないわよ。魔法についてだったら、あのサアディーさんに直接聞いてみてもいいかもね。やさしくって、丁寧だし、話好きな人だから」

 あの人、ミルさんのお気に入りみたいだ。道理でさっき楽しそうに話してたわけだ。

 がんばって、ちょっと話しかけてみよう。

 受付を離れようとしたら、後ろからミルさんに声をかけられた。

「午前中は割といそがしいけど、午後は結構暇なのよね。なんか聞きたいことあれば、また来て。なんかおごってあげるわよ。でも。冒険者はあきらめてね」


 くつろいでいるサアディーさんに近づいていった。ちょっと離れたところで向こうも気づいて、軽く会釈をしてきた。あ、ほんとにやさしそうなおじさん。

「あの、こんにちは、サアディーさん、ですか?」

「こんにちは、ミルさんに聞いたのかな? こんなかわいい娘さんが、何か御用ですか」


 となりの椅子を引いてくれた。そういえば、男の娘カフェでも、こういう丁寧で品のあるおじさん、時々いたなぁ。やさしくて、ちょっぴし性癖の歪んだ小ぎれいなおじさん。話題も豊富で、相手するの楽しかったっけ。

 あの調子でいけば、なんとかなるかな。


「あの、カオルっていいます。ちょっとお聞きしたいことがあって、お邪魔じゃなければ」

「全然お邪魔なんかじゃないですよ、むしろ歓迎です」

「ボク、魔法に興味がありまして。その、胸の水晶のことなんですけど」

「ああこれ」

 水晶に軽く触れる。やっぱり、ぼーっと赤く輝いているように見える。

「とってもきれいですね。それは魔法と何か関係あるんですか?」

「魔石は魔法の源ですよ。魔法使いっていうのは、別に自分で力を持ってるわけじゃなくて、魔石に込められた力を魔力に変換する能力を持った人のことでね」

「ははあ、なるほど!」

「人によって得意な魔法の分野があってね、私の場合は火魔法。火魔法といっても、本質は燃える火のことじゃないんだよ。もちろん火そのものも扱うし、それが語源なのだけど。簡単にいうとね、ものとものがくっついたり離れたりする時に、光や熱を出すことがあって、そういうのを操作する魔法が、火魔法」

「…酸化とか還元ってことかな」

 高校の化学の授業を思い出してつぶやいたら、サアディーさんにも聞こえたらしい。

「え、よく知ってるねえ、大したもんだ」

「あ、まだ勉強始めたばっかりで、よく理解してないんですけど」

「魔法はあくまで抽象界における現象の表象だから、物理界の現象と正確な対比はできないのだけれど…」


 ボクが少しわかってる風な感じを出したら、どんどん話が難しくなってきて、なんだかちっともわかんないぞ。もっと簡単な話題でお願いします。


「魔石っていうのは、特別な水晶のことなんですか?」

「いや、どんな水晶でも、魔石は魔石さ。ただ水晶はもっとも汎用性の高い魔石だから、ほぼすべての魔法の魔石になる」

「それは赤く光ってるみたいに見えますね」

「火魔法の魔石として使ってるからね。物質魔法であれば、黄色に光る」

「他の鉱物でも魔石になるんですか?」

「ああ。水晶ほどどんな魔法にも使えるものはそうないが、トパズ、緑柱石、コランダム、金銀、辰砂などは最上級、ほかにも蛍石、各種電気石、各種柘榴石などはよく使われる。沸石や黄鉄鉱、黄銅鉱なんかは、使い捨てみたいな感じかなあ。鉱物の名前なんて言われても、わからないかな?」


 鉱物の好きなボクには、全部わかるんだよね、今の鉱物の名前。

 今の話を聞く限りでは、拾った水晶も、魔石ということになるのかな。もしかしたら需要があるのかな。


「昔、川で小さな水晶拾ったことがあるんですが、もしかしたら売れるとか?」

「ある程度の大きさがあればね。大きさが魔力の量を表す一番の要素だから。あと水晶の場合は、透明度が高いほど、魔石としての価値は高いね。ルチルが含まれるものなんかは、火魔法には最適な魔石かな」

「この街にも売ったり買ったりするところあるんですか。見てみたいなぁ」

「ここの大通りの向こう側の裏通り沿いにあるよ。もし川で拾ったら、見てもらうと、買い取ってくれるかもね」

「へええ、おもしろいですね!」

「頼もしいね、君に魔法の才能があったら、いい魔法使いになるだろうねぇ」

「そうだといいんですが。いろいろ面白い話、ありがとうございました!」

「こんな話でよければ、いくらでも。もし知りたいことがあったら、私は時々ここでひとりで飲んでたりするから。」


 ボクはペコリと頭を下げると、そこを離れた。

 いろいろ面白い話を聞けたぞ。


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