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やっと街だ!

 太陽の動きから、元の世界風に言えば、ボクは大体西に向かって進んだ。太陽の傾く方に向かったってことね。

 次第に、周りの山が低い丘陵に変わり、森もまばらになってくる。

 2、3時間は過ぎただろうか。不安のなか、ずいぶん歩いたので、初めて人家を見つけた時は、喜びというよりはほっとしたよ。

 途中でお茶は全部飲んでしまい、一度川まで降りてペットボトルに水を入れた。


 林を抜けると、次第に人家が増えてきた。家はすべて木造で、結構立派な家もあり、文明レベルは結構高いみたいだ。

 家の周囲は畑のようで、均一の高さの青々とした草が風でさわさわなびいてる。畑のなかで何か作業しているらしい人も、何度か見かけた。

 どうやら街にたどり着けたみたいだ。


 段々、道で人とすれ違うようになってきた。こちらをちょっと不審げなまなざしで見てくる。特に下半身を。ボクは、スカートの前を押さえてうつむき、さっさと逃げるように歩いた。化学繊維のさらさらした服を着てる人なんていない。ボクの服装はかなり浮いてる。できるだけ早足で通り過ぎた。人と話をするのが怖かったから。

 すべての人に、不審者として敵意をもって見られてるような気がしてくる。


 いつの間にか、2、3階建ての家が建ち並ぶ中心部あたりに入ってた。門があるわけでもなく、開放的な街だ。中央の通り沿いを中心に発展したらしく、そんなに大きくなく、細長い街だ。

 さてどうしよう。多分、さきほど拾ったお金は使えると思う。どの程度の価値かわからないけど…。

 プリーツスカートの下、下着をはいてないのが不安すぎる…

 周りの人を見てみると、かなり文明レベルは高い感じで、18~19世紀の西欧という感じ? 女の人はみんなスカートをはいてるけど、分厚くて、長い。ボクみたいな短いのなんて、ひとりもいない。というか、これは多分、とても品のない感じに見えるんじゃないだろうか…。ボクを目に止めた人たちは、ことごとくが、えっという感じでボクを見た後、目をそらす。

 まずここにあった服がなにより必要かな…


 とにかく思い切って勇気を出して、道の脇で佇んでいた中年の優しそうな女性に声をかけてみた。近寄っていくと、ちょっとぎょっとしたように後ずさりしたが、かまわず近づき、必死に話しかけてみる。

「あの、すいません、服を買いたいんです。お店の場所を教えてくれませんか。ここに来たばかりで、全然わからないんです」

「そ、そうね、確かにそのスカートは、ちょっとよろしくないわね…上も不思議な服だし…でもずいぶんきれいな布地だこと、見たことないわ」


 普通にまともな言葉が聞けたからか、明らかにほっとした顔をしてる。安心すると、急に口が滑らかになるおばさん。ああ、こういう人、どこにもいるんだなあ。ボクはなんか懐かしくて、うれしくなった。

「よろしくないですか?」

「そんな足を出して街を歩きまわるなんて、はしたないし、危ないわ。もっときちんとした恰好をしないと。悪いやつらだっているのよ、ここはよそから来た冒険者も多いから。さ、こっちに来て」


 とても世話好きなおばさんだった! ありがとうございます。

 お店に案内してくれるのかと思ったら、すぐそこがおばさんの家で、中に入れてくれた。ボクがずいぶんと打ちひしがれて見えたからかもしれない。

 最近嫁いだ娘の残した服があるといって、いくつか出してきてくれた。普通の街娘の恰好という感じ。その中から選ばせてもらって、着替えた。

「いい、ここらへんでは、あんな恰好してると、娼婦にしか見えないわ。あなたどこの出身か知らないけど、そこではこれが普通の服装なの?」

「はい…」

「あらまあ。びっくりね!」

「あの…実はもうひとつお願いというか…」

「ん? なあに?」

「もしも、下着の余ってるのとかありましたら、いただけませんでしょうか。ちょっとなくしちゃって…いや、お金もちゃんと出します、多分ここでも使えるお金だと思うんですが…多分」

「…かわいそうに。待ってて」

 下着を持ってきてくれた。肩を優しく抱きよせて、微笑みながら、手を握ってくれる。

「つらかったろうに。もう大丈夫だから安心してね。さっきはごめんなさい、あんなスカート履いてるから、勘違いしちゃって。何ならうちに泊まっていきなさいな」


 暗い顔をしてたので、なんか誤解されたみたいだけど(いや、誤解でもないか)、ほんとに助かりました。いい人がいて、よかった…おばさんの体温を感じて、ボクは思わずちょっと涙ぐんじゃった。心が乱れてると、人の思いやりが余計に身に沁みるよね。

 最初の出会いが最悪だっただけなのかな。というか、あの3人、ボクを娼婦だと勘違いしてたんだな。


 お金を見せて、服がどのくらいの価値か、その分をもらってくれとお願いしたが、かたくなに受け取らなかった。ボクを自分の娘と重ねてたのかもしれないね。


 いろいろ聞いて、お金の価値は何となくわかった。

 ボクが持っているのは、5シルバーと、12コッパー。大体の換算で、1ゴールド=1万円、1S=1千円、1C=100円というところ。ただし生活必需品の物価はかなり安いらしく、3Cで1食十分満足できるくらい食べられる。

 一番安い宿屋の1泊夕食付で、1.5Sくらいとのこと。安い!



 淹れてくれたお茶(飲んだことのない渋甘いお茶)を飲みながら、この地に初めて来たばかりだと言って、いろいろ周辺のことを聞くことができた。


 この街は、辺境の街マルズ。この街から先、大陸の東側にはもう人の街はない。ボクは、あやうく死ぬところだったんだ。道の逆側に進んでいたら、やがて街道は細くなり消えて、野獣や魔獣の多い辺境の山地に迷い込んでただろう。この街までは治安は保たれており、冒険者が辺境に向けて出発する拠点となっている。3人の男たちはこの街道で商隊がどうのと言っていたが、まるきりうそだったわけだ。この先、商隊が向かう目的地など、ない。

 マルズから西には、街道に沿っていくつかの街が続き、かなり先に首都があるらしいが、おばさんは隣街までしか行ったことはないという。首都には港があるとか。


 街のはずれには、冒険者ギルドがあるらしい。ギルドの建物には誰でも自由に入れるし、中のお店なども使えるそうだ。さまざまな情報が集まる、街の重要施設となっている。

 あと役所、宿屋数軒、自由開放している小さな図書館まであるらしい。

 やはり、相当文明レベルは高い。正直、冒険者とかがいるようなレベルではないような気もするが、どういう歴史があったのか、興味がある。


 街に溶け込める服装に身を包んだボクは、まず冒険者ギルドに行ってみることにした。おばさんにお礼をいい、故郷のお菓子だと言って、飴を渡した。これぐらいしか、受け取ってくれなかったんだ。

 元の服は畳んでできる限り小さく縛り、リュックに入れた。リュック、大分ぱんぱんになってきちゃったな。

「今日泊まっていけばいいのに。困ったときはまたおいで。困ってなくてもおいで」


 娘が嫁いでいなくなり、さびしいのかもしれないけど、そこまでお世話になるのは申し訳ない。

「はい、きっと、服のお礼はさせてくださいね」

「そんなのは気にしなくていいの。あんたみたいなきれいな女の子は、いつも狙われてると思って、気を付けなくちゃいけないよ」


 すごく心配そうな顔で、見送ってくれた。なんだか、前世の男の娘カフェの店長を思い出して、泣きそうになった。


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