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冒険者とクマにご用心!

 見つけた水晶をリュックのポケットにしまい込んだボクは、さてこれからどうしようと考え込んだ。

 なにかヒントはないもんかなあ。


 川原は、上流・下流どちらにも続いている。

 やっぱりここは下流に向かうほうがいいかなあ。人が住んでいるところがきっとあるはずだ。あるに違いない。どこかに街があるはずだ。なくちゃ、困る。…もしなければ、こんなところでひとりでなんか生きていけない。転移したってすぐ死んじゃあ、意味ないじゃん。

 いくらなんでも放置プレイすぎる。

 ほんとにふざけんなよ、あの女神。


 また、泣きそうになってきた。

 ちょっと心が弱弱しすぎ。精神がすごく不安定になってると思う。こんなひどいことが続けば、そりゃ仕方ないとも思うけど…ボクってこんなに心が弱かったっけ。



 ボクは、川原を下流のほうに歩きだした。特に深い理由はないけど、仕方ないもん、どうせ考えたって、意味ない。


 石がごろごろした川原は、歩きにくかった。こういうところを歩くための靴じゃないんだ。せっかくのおろしたてのかわいい靴だったのに、もう泥だらけ。でも、それを悲しんでる余裕もない。

 明るい雰囲気なのはよいけれど、もしクマとかいたら、どうしよう…って考えてから、すぐクマなんていないだろうと思い直した。


 川はゆったりと蛇行しながら続いていた。段々川原が狭くなってきた。川原がなくなったらどうしよう。

 両岸の森は大した傾斜もなく、中を歩けそうだけど、何の目印もない森の中を歩きたくはない。


 さらに川原が細くなってきたところで、森のなかに道らしいものが続いているのを見つけた! 道が川原から離れるところに、石が不自然に積み上げられていたので、すぐに気づいた。人工物だ! やっぱり人がいるんだ、多分。

 ボクは川を離れて、森の中の道に入っていく。


 そんなに立派な道ではないけれど、細くてもちゃんと踏み固められてて、歩きやすい。

 ふと気づいたけど、遠くて「チ、チ、チ、チ」と鳥の鳴き声みたいなのが聞こえる。まるでハイキング・コースみたいな感じになってきた。

 実はここは日本の山のなかなんじゃないかと思ってしまうくらい、なんだか懐かしい雰囲気。やっぱり今まで変な夢を見ていただけなんじゃないかな?



 突然、さらに大きな道に出た。

 舗装がされてるわけじゃないけれど、3、4人は並んで歩けるくらいの広い道だ!

 よく見ると、轍のような跡もわずかだけどついてる。車? 車にしては細いタイヤだけど。

 左右を見たけれど、目立つものはなにもない。でも、徐々に人の気配のある場所に進んでいるのは確かだと思う。ちょっとだけほっとした。


 大きな道は、大きな川に沿って続いていた。さっきまで歩いてきた川は、この大きな川の支流だったみたいだ。さて、今度はどっちに向かうべきか、だけど…もちろんあてはない。



 ふと、道の下流側遠く、なにかが見えた気がした。

 ボクはさっと近くの木の陰に隠れた。そろそろと顔を出して、様子をうかがう。

 3人の人影。人だ! こっちに向かって歩いてくる。

 3人とも、革の鎧のようなものを着ていた。それほど大きくない袋を背負っている。

 2人は腰に剣をぶら下げていて、1人は弓を持ち、後ろに矢筒を背負っている。

 ここはボクのいたところでいう、ファンタジー的な世界なのかな? ってことは、やっぱりモンスターみたいのもいるってことなのか? 彼らはいわゆる冒険者ってやつ?


 どうしよう、声をかけるべきか否か。街の方向を聞くだけでいいんだ。女神が確か、言葉は通じるって言ってたし。

 正直いって、今はまだ知らない男の人がちょっと怖い。追いかけられた時のことを思い出すと、まだ体が震える。

 なんだか乙女モードからずっと抜け切れていないみたい。服装のせいかなあ。ボクだってほんとは男の子なんだから、力だってそんなに負けないと思うし、そこまで怖がる必要なんかないはず。

 大丈夫…だよね?


 木のかげにじっと隠れたボクのすぐそばを、気づかずに通り過ぎる3人。おじさんだ。いつも戦っているせいなのか、ボクから見ると精悍な顔つきでちょっと怖い人たちに見える。ひとりが他の2人にのんびり声をかけていた。


「今日はちょっと涼しくて助かるな」

「街道は暑いとかなわんからなあ」


 やっぱり言葉がわかる!

 よし、がんばって声をかけてみよう。


「あ、あの」


 木のかげから出て、おずおずと声をかける。

 後ろからいきなり声をかけられた形になって、びくっと激しく反応し、こちらを振り返る3人。しまった、おどかしちゃった?



「なんだお前は。どこからでてきた」

 剣の鞘に手をかけて、詰問された。

「あ、あの、違うんです、ちょっと道に迷っちゃって、あはは」

「道に迷うだと」

 ああもう、なに言うかぐらい、先に考えておけよ、自分! なんかもう自分の莫迦さ加減が、怒りを通り越して、笑えてきた。

「見たことない服だな。どこから来た」

「ええと、山のほう…から? です…」

「魔族か? おい、近づくな!」

 剣を抜いてこちらに向け、警戒する。日の光で切先が鈍く光り、それが間違いなく本物で、切られたり刺されたりすれば、ものすごく痛いだろうことが、すぐに理解できた。痛いですめばまだましかもしれない。

「おどしてごめんなさい! ただ、街の方角が知りたいだけなんです! 本当です、信じてください、普通の人間です!」


「まあ落ち着けって。どう見てもただの女だ、確かにおかしな服装だが」

 弓の人が、剣を抜いた男を宥める。だが気は緩めてはいないようだ。腰の短剣に手をかけている。

「こんな場所で、ろくな装備もないように見える女がひとりでいて、ただの女、か」

「旅の途中なんです。同行者とはぐれてしまって、困ってるんです。せめて、一番近くの街の方角だけでも、教えてもらえませんか」

 どうやら今の説明で、とりあえずの納得はしてもらえたみたい。迷いながら、とりあえず剣は下したものの、まだこちらを見る目は胡散臭いものを見るまなざしだ。


 3人で、ひそひそ話している。

 剣を抜かなかったもうひとりの男の、ちらちらとこちらを盗み見る目。にやにやとして、いやな目付きだ。

 ボクだって、男のはしくれだ。なにを考えてるかなんて、手にとるようにわかるんだぞ。ふんっだ!


 真っ先に剣を抜いた男が、こちらに向き直った。さっきとは打って変わって笑顔。笑顔作るの下手か!

「さっきは脅して悪かったな。ここらへんは、魔物もよく出るところでね、中規模の商隊も時々襲われて全滅してる。かなり危険な地域なんだよ。ひとりでうろつくなんて、襲ってくださいといってるようなもんだ」

「そうなんですか」

 さっきあんたらは、ずいぶんのんきに歩いてたみたいですけど?

「特にこの周辺だと三日月グマがやばい。人を生きたまま食べるんだ。手足の端っこから食べて、逃げられないように生かしておいて、後のために残しておく」

「ええっ」

 ほんとにクマいるのかよ…

「だから、おれらが街まで送っていってやるよ、本当にあぶないからな。こっちもこれから街に帰るところだし、ちょうどよかった」


 おまえらのほうが危ないんじゃないの?

 わかりやす過ぎるだろ、ばっかじゃないの。

 でも彼らの話を聞いてたら、なんだかほんとにちょっとだけ怖くなってきちゃったじゃない…クマ怖いよね…

「いえ、方角だけ教えてもらえれば、大丈夫ですから」

「いや、ほんとに危ないから。クマに食われたくないだろ」

「クマはやだけど…いえいえ、お構いなく、ひとりで問題ないです」


 クマに食われるのはごめんだけど、あんたらにも食われたくないんだよ!


「守ってやるっていってんだ」

 男がしびれを切らしたように、一歩前に出る。ボクも一歩後ずさる。背中が何かにぶつかった。いつの間にか、目付きの悪いやつがボクの背後に回り込んでいるのに気づかなかった。しまった!


「あーもう面倒くせえ」

「え、ちょっと、やだ!」

 後ろから両腕ごと、抱えられた。振り解こうと抵抗するが、びくともしなかった。え、なんでこんなに力強いの?

 ボクだって男の子だ、それなりに力はあるはずなのに。冒険者として日常的に戦っているだろう者を相手にして、都会で生まれ育った軟弱なボクじゃ、お話しにならないってこと?

 やばい、やばい、どうしよう。全然振りほどけない。

 3人は、さっきたどってきた枝道にボクを無理やり引きずり込んだ。


「やめてくださいっ、やめてよ、ちょっと!」

「いいからおとなしくしてろ」

「やだやだ、やめろっ、だれか、助けて!」

「ちゃんとお金は払ってやる」

「ボクは男なんです、ほんとです!」

「なに言ってんだ、こいつ」

 嘲笑いながら、後ろから抱えられて身動きのとれないボクに手を伸ばしてくる。こわい。

 下半身、スカートの下から手を入れられた。内股に感じる手の感触の気持ち悪さに、全身にビリッと電気が走った。だめ、力が抜けちゃう。

「ほんとだってば!」


 局部に届いたそいつの手が止まった。黙って、手を引っ込める。スカートを勢いよくたくし上げられた。

「やっ!」

 露わになった小さな女性用下着を、一気にずり下ろされた。

「きゃあ!」


「まじか」

「うーん」

 解放され、へたりこみ、スカートを両手で押さえて、真っ赤になって涙ぐむボク。3人に、見られて、囲まれ、見下ろされ…屈辱でしかない。片足首にひっかかった下着。かわいくてお気に入りだったのに。汚されちゃった。

 くそっ、なんでこんな目に。

「うーん、こんなのは初めてだな」

「ああ」

「だがなあ」

 目付きの悪いやつがにやっと笑う。

「まあこれはこれで、十分使えるだろ、こんなのでも」

「顔だけは良いからな」

 3人が笑う。くやしくて恥ずかしくて、涙があふれる。わかってる、自分でもわかってるさ、ボクは「こんなの」だよ。わるかったな、「こんなの」で。でも好きでやってるんだ、お前らなんかに何がわかるってんだ。くそっ! 死んじゃえ!


 睨みつけたら、いきなり、顔を蹴られた。痛みというより、その心理的なショックで呆然として頬を押さえる。

「あ、あ…」

 声が出ない。今までこんな乱暴に扱われたことなんてない。自分がこんな目にあってることが信じられなかった。思考が止まる。

 倒れ込んで、動けないボクに近寄ってくる男たちが見える。まるで、ぼやけたビデオ映像を見てるみたい。

 無理やりぐっと足をつかまれ、開かれた。

「いやぁ!」


 その瞬間、ボクの視界は白く爆発した。


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