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「どうでしたか?」
「アップテンポな曲も可愛かったですが、こういうしっとりとした曲もいいですね。歌の上手さが際立ってました」
俺が拍手を送ると、ケイティとレイチェルは顔を見合わせてから吹き出した。
「それにしても。ショーン様からあんな演出を頂けるとは思っていませんでした。ありがとうございました」
「びっくりしましたが、嬉しかったです。わざわざ初心な演技してくださってありがとうございます」
どうやら二人は、俺が自身の目を隠しながら指の隙間から二人を見ていたことを、演技でやっていたと思っているらしい。
「あれは、わざとやったわけでは……」
「ショーン様は、リディアさんで見慣れてますもんね」
「今は幼い姿になっていますが、いつもは大人の魅力に溢れてますもんね、リディアさんって」
言われて魔王リディアの大人の姿を思い出した。
大人の姿の魔王リディアは、通りすがりの十人が十人とも振り返るような美貌だ。
「確かにリディアさんの大人の姿はすごいですよね。ハニートラップ百発百中という感じで」
「はい。リディアさんが近くにいたら、目が肥えちゃいそうです」
頷き合う俺とレイチェルをよそに、ケイティはどこからか取り出した鏡を確認していた。
「ケイティは童顔だからなあ。もうちょっと大人の魅力が欲しいなあ」
「童顔は童顔で需要があるらしいわよ」
「ケイティは大人っぽくなりたいの。すぐにケイティがセクシー担当になってやるんだから!」
「何年経ってもケイティにセクシー担当は無理よ」
「レイチェルの意地悪」
この二人は、仲が良いのか悪いのか。
息ピッタリかと思えば、すぐに喧嘩を始める。
喧嘩するほど仲が良いというやつだろうか。
本当に仲が悪かったら、一緒には住まないはずだ。
「まあいいや。次も水着で歌って踊ります」
「今度は激しい曲なので、ノリノリでいきますよ」
それに仲直りも早い。
…………ん? 水着で激しい曲?
「もう水着は堪能しましたから! 早く着替えてきてください!」
俺は、二人を無理やり隣の部屋へと押し込んだ。
普通の服に着替えてきた二人は、さらに数曲を披露してくれた。
ついでに目隠しけん玉とブリッジ歩行、怪談と漫談も披露してくれた。
「とっても可愛かったです。それにかくし芸もお上手でした。二人とも、絶対にアイドルになれますよ」
俺の言葉を聞いたケイティとレイチェルは、嬉しくてたまらないのだろう、頬をずっとゆるませている。
彼女たちが笑顔だと、何だか俺まで嬉しくなってくる。
これがアイドルの効果だろうか。
きっと彼女たちは、これからたくさんの魔物を笑顔にするはずだ。
もしかすると、人間までも笑顔にしてしまうかもしれない。
現に今、俺は笑顔になっている。
「あの、ショーン様」
二人につられて微笑む俺に、ケイティが切り出した。
「ケイティたちには、まだファンが一人もいません。もしよければ、ショーン様がファン第一号になってくれませんか?」
こんな可愛い頼みごとをされて、断ることが出来るだろうか。
いや、そもそも断る理由がない。
だって俺はもう彼女たちのファンなのだから。
「はい。俺がファン一号になります」
「ありがとうございます! じゃあこのファンクラブ会員の契約書に、ぜひサインをお願いします」
そう言ってケイティは一枚の紙を取り出した。
紙の一番上には大きく『ケイティとレイチェルのファンクラブ会員に関する契約書』と書かれている。
「本格的だね。ここにサインをすればいいの?」
俺は、契約書の一番下にある署名欄を指差して尋ねた。
「そうです。よろしくお願いします!」
俺は渡されたペンでさらさらとサインを書いていく。
横からその様子を覗き込んだレイチェルが、ケイティに向かって何かを言おうとした。
「ケイティ。あんた、それ……」
「レイチェル、時として度胸も無いとアイドルとしてはやっていけないんだって」
しかしレイチェルの言葉は、ケイティによって遮られてしまった。
アイドルには度胸も大事、か。
なるほど、そうかもしれない。
「ケイティは度胸があり過ぎよ」
レイチェルは呆れたようにケイティを見たが、それ以上は何も言わなかった。




