●95
ケイティたちの住処は、森深くの蔦に囲まれた空間だった。
中に踏み入ると、外から見えるよりも中は広く、部屋がいくつもあるようだった。
「……ケイティの冗談じゃなかったんだ」
やってきた俺たちを見て、ケイティと一緒に住んでいるのだろう魔物はあんぐりと口を開けていた。
彼女もコウモリ型の魔物のようだが、ケイティとは違い水色の髪をしている。
「本当だって言ったでしょ」
「だってあまりにも現実味の無い話だったから……」
「狭いところですが、どうぞ」
促されるままに、部屋の中央に座る。
魔王リディアは俺の隣に座ったが、エラは魔物である彼女たちを警戒しているのか、入り口の近くに座った。
「レイチェルです。よろしくお願いします」
水色の髪をした魔物は、自身をレイチェルと名乗った。
「ケイティさんとレイチェルさんはご友人なんですよね?」
「はい。仲良し二人で一緒に住んでいます」
俺がレイチェルと話していると、部屋の中で何かを漁っていたケイティが、こちらを向いた。
ケイティは、右手にはネズミ、左手にはカエルを持っている。
「もう夕食は食べましたか? ネズミとカエルならどっちが好きですか?」
「俺はカエルの方が好きです」
満足そうに頷いたケイティは、魔王リディアを見た。
「リディアさんはどっちがお好きですか?」
「妾もカエルが好きじゃ」
最後に、入り口近くで座るエラに声をかけた。
「雌豚もカエルにしますか?」
「は、雌豚? ……ごめんなさい、私は両方苦手だからいらないわ」
エラは大きく首を振って、全力で夕食を拒否した。
正体が人間であるエラは、ネズミやカエルを食べる機会が無かったのだろう。
人間であっても冒険者ならどちらも食べる機会はあるだろうが、ゴング町で暮らしていたエラにとっては、ネズミやカエルの丸焼きは馴染みの無い料理のはずだ。
「さっき捕まえたばっかりだから新鮮ですよ」
カエルを捕まえてきたのだろうレイチェルが、誇らしそうに胸を張った。
* * *
俺と魔王リディアはカエルの丸焼きを、ケイティとレイチェルはネズミの丸焼きを頬張った。
久しぶりに食べるカエルの丸焼きは、懐かしい味がした。
勇者パーティーにいた頃、野宿の際に何度か食べたことがある。
見た目はアレだが、なかなかイケる味だ。
「あの、ショーン様。ケイティのお部屋に来ては頂けませんか?」
夕食を食べ終わった後、ケイティがもじもじしながら俺を部屋に誘ってきた。
「いいですよ」
「あーっ! ケイティってば、抜け駆けしようとしてる!」
これに異を唱えたのはレイチェルだった。
素早く俺の腕に自身の腕を絡みつかせて、俺がケイティの部屋へ行くのを阻止しようとした。
「違うよ。ケイティがアイドルになれそうか、ショーン様に歌と踊りを見てもらいたいだけだよ」
「そんなこと言って、二人きりでいいムードになったらいいな、とか思ってるんでしょ。レイチェルには全部お見通しなんだから!」
「思うくらいいいでしょ。別に無理やり襲うわけじゃないんだから」
「やっぱり思ってたんだ、ケイティ……」
思惑を言い当てられたケイティは、顔を真っ赤にしている。
「妄想してただけだってば。実際には何も起こらないよ」
「じゃあ別にレイチェルがいてもいいよね?」
「えっ、それは……まあ、いいけど……」
何も起こらないと言った手前、ケイティはレイチェルの同行を拒めないようだった。
しかし、とても複雑そうな顔をしている。
「ねえケイティ。せっかくだから、アイドルユニットとして二人でデビュー出来そうか、ショーン様に見てもらおうよ!」
「あっ、それは楽しそうかも」
レイチェルの提案を聞いたケイティは、再びぱあっと顔を綻ばせた。
「可愛い女の子二人のアイドルユニットかあ。楽しみだなあ。アイドルなら投げキスとかするのかな? ……ふーん。ショーンは可愛いアイドルに投げキスをされたいのか。男の子じゃのう」
「ちょっ、リディアさん!? 恥ずかしいから、俺の心の中を音読しないでくださいよ!?」




