●92
「君たち、そっちの森には魔物が住んでいるから、迂回した方が良い」
呪いのアイテムを求めて寄った町で、親切そうなおじさんが、町を去る俺たちに忠告をしてくれた。
ちなみにこの町のアイテムショップで売っていた呪いのアイテムは、俺の探しているものではなかった。
「平気です。彼女はものすごく強いので」
俺が魔王リディアを指し示すと、魔王リディアは腰に手を当てて踏ん反り返った。
しかし魔王リディアを見たおじさんは、冗談だと思ったのか、笑いながら俺の背中を叩いた。
「それなら森に住む魔物を退治してくれるとありがたい。森の魔物が町の若い女をさらっていくから困っているんだ」
魔物討伐の依頼ということだろうか。
……いや。おじさんの様子から考えると、世間話の類なのかもしれない。
だから俺の言うべき言葉は。
「もし出来そうだったら退治しますね。でもあまり期待はしないでくださいね」
「安心しろ。町長が別の頼りになるお方にきちんと依頼をしている。それにさすがの俺も、通りすがりの旅人に魔物問題を解決してもらおうなんて過ぎた期待はしてないからな!」
うん、今の返事で正解みたいだ。
* * *
「ショーンよ、その髪は切らんでよいのか? 鬱陶しいじゃろう」
俺はマッチョたちの町もといゴング町で長くしてもらった髪を切らずに旅を続けていた。
「結んでいればそうでもないですよ。それに、町に寄るたびリディアさんに魔法を使ってもらうのも悪いので、変装したままでいようと思いまして」
「なぁに、ショーンきゅん。変装が趣味なの?」
俺と魔王リディアの会話に、セクハラ女が割り込んできた。
かなりの距離を歩いたというのに、彼女は相変わらず俺たちと一緒にいる。
「別に変装が趣味というわけでは……」
「じゃあこれもあげる。変装といえばメガネでしょ?」
そう言ったセクハラ女が、自身のリュックからメガネを取り出した。
「ゴーグルをしたまま歩いているのはおかしいもの。こっちをかけて。これ伊達メガネで、度は入ってないから安心して」
「……絶対に他の意図もありますよね?」
一緒に旅を続けるうちに、だんだんとセクハラ女のことが分かってきた。
彼女は、ただの善意で物を渡すようなことはしない。
「さすがショーンきゅん、分かってるわね! メガネをかけたクールキャラの罵りって栄養価が高いのよ。ショーンきゅん、私のために鬼畜メガネになってぇーん」
セクハラ女が身体をくねらせながらメガネを押し付けてきた……ところを、魔王リディアが蹴り飛ばした。
魔王リディアの蹴りにより、セクハラ女は遥か後方へと吹っ飛んだ。
「メガネはありがたくいただきますが、罵りませんからね」
俺は飛んでいったセクハラ女に声をかけつつ、地面に落ちたメガネを拾った。
最初は魔王リディアに吹っ飛ばされるセクハラ女を心配していたものの、彼女があまりにも何事もなかったかのように復活するので、だんだんと気にしなくなってしまった。
「ところで。森にダンジョンがあるんですか?」
ゴーグルを外し、代わりに拾ったメガネをかけながら、魔王リディアに尋ねる。
森に凶悪な魔物がいると言われても、魔王リディアは進路を変えることはなかった。
……誰よりも強い魔王だから当然かもしれないが。
「いいや。ダンジョンではなく、魔物の住処へ行くつもりじゃ。どうやら森に住む魔物が、呪いのアイテムを持っているらしいからのう」
いつの間に魔王リディアは情報を得たのだろう。
……あ。俺が『鋼鉄の筋肉』とダンジョン攻略をしているときか。
あのとき魔王リディアは魔物と親交を深めていたらしいから、その流れで呪いのアイテムのことを聞いてくれたのだろう。
しかし、気になるのは。
「魔物の住処……人間の俺が行っても平気なんですか?」
「平気ではないじゃろうな」
だと思った。
魔物の住処に人間が行くのは、殺してくれと言っているようなものだ。
「それなら、どうするんですか? 俺は魔物の住処の近くで待っていればいいんですか?」
「チッチッチ。こうするんじゃよ」
魔王リディアはもったいぶるように指を振った後、その指をパチンと鳴らした。
その瞬間、額の一部が熱くなった。
触ってみると、俺の額には小さなツノが生えているようだった。
「すごい。魔物みたいです」
「部分的に魔物の要素を付与したのじゃ」
ゴング町で俺の髪を長くしたのと同じ要領だろうか。
他人に対しては、自分自身のように全身を変化させることは出来ないようだが、これだけでもすごい魔法だ。
この魔法があれば、見た目が人間に近い魔物の、魔物を象徴する部分を隠して、人間の町に潜伏させることが出来る。
「あら。私も魔物になってるわ」
いつの間にか、何事もなかったかのように俺の隣に戻ってきていたセクハラ女には、豚の尻尾のようなものが生えていた。
「リディアさん、この人には関わらないんじゃなかったんですか?」
「この女は、関わらなくても勝手についてくるじゃろう。しかし魔物の住処に勝手に入って来られたら厄介じゃ。それなら一緒にいた方がマシだと判断したのじゃ」
「なるほど……というか、一緒に行動するなら、いい加減セクハラ女さんの名前を教えてもらった方がいいんじゃありませんか」
結構な間一緒にいるのに、俺たちはセクハラ女の名前を知らない。
彼女が突飛なことばかりを言うため、タイミングを逃してしまっていたのだ。
「名前なら聞いたではないか。雌豚じゃろう?」
「あぁんっ、嬉しいけど、雌豚の名はショーンきゅんに呼んでもらいたいわ。リディアちゃんは私のことをエラって呼んでね」
「エラさんという名前なんですね」
案外、普通の名前だ。
とんでもない性格とのギャップを感じる。
「ショーンきゅんは、私のことをエラじゃなくて雌豚って呼んで。その方が興奮するから!」
エラは今日も絶好調のようだ。
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今回の話から第五章となります。
むさくるしいマッチョたちの話の後は、可愛い女の子がほしいですよね!
第五章では、可愛い女の子たちの話をお楽しみください。




