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俺たちが草原を歩いていると、背後から俺たちの前に飛び出してくる人影があった。
人影……彼女の顔には、見覚えがあった。
「えへ。ついてきちゃった」
「あなたは! セクハラ女さん!?」
レストランで俺の筋肉を触っては、ハァハァと荒い息を吐いていたセクハラ女だ。
過去に盗賊団にいたというだけあって、身軽な上に隠密も得意なようだ。
「ショーンきゅんったら、私のことをセクハラ女だなんて呼んで……ドキドキしちゃうじゃないっ!」
「…………え?」
「もっと罵って! ショーンきゅんに罵られるのはご褒美だから。ハァハァ」
セクハラ女は、相変わらず荒い息を吐いていた。
「女難の相とは、これのことかのう」
魔王リディアが、セクハラ女を冷めた目で見ながら言った。
「だとしたら、あの占いおばばさんは本当に未来が視えるのかもしれませんね」
「あの占いおばばは、適当なことを言っているだけだと思うのじゃ」
「リディアさん。キャラが被ってるからって、そういうことを言うのは良くないですよ」
「何度も言っておるが、妾とあの占いおばばのキャラは被ってないのじゃ。喋り方がほんのちょっと似ているだけなのじゃ」
「ほんのちょっと、ですかね?」
俺と魔王リディアが話していると、セクハラ女が身体をくねらせた。
「ああっ、無視されてる! 放置プレイね!? 興奮しちゃう!」
「……ポジティブな方ですね」
「分厚いオブラートに包んだ表現じゃのう」
だってオブラートに包まない表現をすると、それがまたセクハラ女を悦ばせてしまうから。
何とも厄介な性癖だ。
「というか、呪いのゴーグルが効いてないんですけど!?」
ゴーグルを装着したら異性からの好感度が劇的に下がるはずなのに、目の前のセクハラ女は俺のことを見つめながらハァハァしている。
「ふむ。劇的に好感度が下がってもまだ好感度が高いくらいに、この女はショーンに惚れこんでおったか」
「いやいや、俺たちは完全なる他人ですよ!? 俺はあの人の名前すら知らないんですよ!?」
「目の前で他人と言い切るなんて……ショーンきゅんってば、さすが過ぎる! もっと私を悦ばせて!」
本当に扱いに困る人だ。
「お、そうじゃ。呪いのゴーグルが効かない別の理由を思い付いたぞ」
そのとき魔王リディアが膝を打った。
「理由? 何ですか?」
「あの女は、ショーンの異性ではないのかもしれん」
魔王リディアが、セクハラ女を横目で見ながらニヤリと笑った。
「俺の異性ではないということは、俺と同性……男ってことですか!?」
「この世には、男の娘という生き物が存在するらしいのじゃ」
セクハラ女は、変な人物ではあるが、どこからどう見ても女性に見える。
肌が綺麗で髭の痕は見えず、骨格も女性のそれだ。
これが男の娘という存在なら、俺の女装なんか鼻で笑われる出来だっただろう。
女装をしなくてよかった。
「ショーンきゅんったら私のことをじっと見つめて……ああんっ、きっと今ショーンきゅんの頭の中で私は丸裸にされているのね!? 恥ずかしい! 恥ずかしいからこそ興奮する!」
……いくら女性にしか見えない外見だったとしても、性格がこれではなあ。
外見を吹き飛ばすほどの強烈な性格だ。
「ショーンきゅんたちがこれからどこに行くのかは知らないけど、どこへでもついて行くわ。だって私はショーンきゅんにフォーリンラブだから!」
「フォーリンラブ……」
「そう。私の愛の炎はショーンきゅんに出会った瞬間に燃え上がっちゃったの!」
「愛の炎……」
「寝るときは一緒の布団で眠りましょうね。後悔はさせないから。ショーンきゅんに新たな世界を見せてあげるわ!」
「は、はあ……」
セクハラ女の見せる新たな世界には、関わりたくない気がする。
なんだか足を踏み入れたが最後、通常の世界には戻って来られなさそうだ。
あとセクハラ女は言葉のチョイスが全体的に古い。
すでに男の娘でドMで筋肉フェチで元盗賊という属性があるのに、キャラを盛り過ぎだ。
「あぁんっ、ショーンきゅんったら、その冷たい視線がたまらないっ! 私のことは、雌豚でもゴミクズでも、好きに呼んでね!」
「……この人どうしましょうか、リディアさん」
「変質者は相手にしないのが一番じゃ」
こうして俺と魔王リディアの旅に、セクハラ女がついてくることになってしまったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この話で第四章は終了となります。
楽しんで頂けていたら幸いです。
なお、この物語は章ごとにテーマがあります。
第一章のテーマは『〇〇〇〇〇〇〇がある』
第二章のテーマは『愛と差別』
第三章のテーマは『正義と各々の世界』
第四章のテーマは『仕事とプライベート』
です。
第五章はまた違うテーマの話になりますので、お楽しみに。
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今後もよろしくお願いします!




